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政策提言

◆『激論!新しい貧困とニッポン!』氷河期世代を救い、労働市場を正常化する政策提言

『朝まで生テレビ』出演の準備で、「新しい貧困」を解決するための施策を考えた。テレビでも大筋は伝わったと思うが、言い切れなかったことや図表も含め、ここに収録する。大企業の若手社員を中心に取材してきた者として、そして団塊ジュニアの氷河期世代代表として、ゼロ成長時代における労働法制のあるべき姿と、既に発生してしまった若年貧困層問題の解決策を提示している。

【結論】
人口減でゼロ成長の日本において、国際的に見て既に高い人件費を増やせる環境にはなく、短期的には配分を変えるしかない。大企業で減らすべきなのは、パフォーマンスの低い貰いすぎ中高年の人件費であり、それが氷河期世代の新規雇用に回るような政策が必要である。経営者はそうしたいが、国の法制度が阻止している。よって、この問題を解決するには、下記3つの政策をセットで同時に実施すべきだ。

1:労働条件不利益変更、解雇法制の規制緩和(連合の既得権改革)
2:「企業内同一労働・同一賃金」の法制化+最低賃金引き上げ(経団連の既得権改革)
3:やる気ある非正規社員に対する教育訓練の提供+企業への雇用インセンティブ(財源問題につき、道路族ほかの既得権改革)

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【Digest】
◇新しい貧困=氷河期世代
◇原因はバブル崩壊+派遣法改正
◇入り口だけ緩和した政治の罪
◇A級戦犯は竹下・小渕、B級が橋本・森
◇連合の既得権に切り込め
◇小泉・竹名のトリクルダウン理論は嘘
◇経済合理性なき人件費=上がり待ちの中高年社内ニート
◇NTT、電通、トヨタ…
◇長期的には人間本位の資本主義ルール作りを
◇同一労働・同一賃金、最低賃金1000円に
◇非正規社員に教育訓練の機会・採用インセンティブ
◇非正規だけで団結せよ
◇身分制度社会から、流動化社会へ
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◇新しい貧困=氷河期世代

まず、日本社会全体の格差拡大の問題(小泉政権の新自由主義政策)と、氷河期世代の「新しい貧困」は原因が異なるため、分けて考えねばならない。
貧困層を年収200万以下とすれば、従来より、若者に貧困層は存在した。自分でその道を選択したフリーター層が中心だった。たとえば、役者や歌手を目指してフリーター、好きなときにサーフィンをやりたいからフリーター。こうした「夢追いタイプ」や「趣味重視派」は、いずれ既存社会のどこかに吸収されていった。

問題は、94年~2004年ごろに新卒で就職活動を行った団塊ジュニア以降の若者世代である。この世代は、「バブル崩壊」と「派遣法改正」を主な理由として、正社員になれない人が激増。今や、35歳以下では、非正規が3分の1も占めるようになった。

「就職氷河期」が流行語大賞に選ばれたのは94年だ。バブル期に成長前提で過大投資した企業は、バブル崩壊によって「3つの過剰」(人、設備、債務)を抱え込んだ。その結果、企業は新卒採用を絞り、「正社員になりたいのに、なれない」若者が増え始めた。

私自身、95年に就職活動を行い、96年に新聞社に入社したが、同期の記者は30人。バブル期は100人以上いたから、実に3分の1しか採っていないのだ。

我々団塊ジュニア世代は就職氷河期の初期にあたり、同年生まれが200万人強いる。今年社会に出る人より約60万人も多い。同年生まれが多すぎるため、当時の文部省は大学の定員枠を増やすよう要請、私が入った学部も50人分の枠が増えた。

ただ、就職では企業にそんなことを要請できるはずもなく、きわめて厳しかった。特に、下位の大学は苦しかったようだ。正社員枠に入れなかった人たちは、フリーターや派遣にならざるを得なかった。

◇原因はバブル崩壊+派遣法改正

企業は、人(人件費)の過剰を解消するために、新規採用を抑制するにとどまらず、正社員を採用せずに派遣社員を採用し始めた。これは小渕内閣時代の99年、派遣法改正によって、派遣先の職種が原則自由化された影響が大きい。

この時期、派遣社員を、既に在籍している正社員と置き換えることによってコストを削減する動きが加速した。だが置き換えられるほうの正社員は簡単にリストラできないため、その代わりに新卒社員の採用をさらに抑制する、という悪循環に拍車がかかった。

実際、私は99年から5年間、経営コンサルタントをやっていたが、派遣社員と正社員の置き換え、人件費の最適活用を目指すニーズはきわめて高かった。

この事例では、検査部門の66%の業務が「派遣化可能業務」と分析され、ざっくり100人の組織とすると、66人分を正社員と置き換えても、この部門のサービスレベルは変わらない。1人置き換えるごとに平均500万円のコストが下がるため、計3億円ほどの派遣導入効果を見込める。

だがそれは、既存正社員を英米企業のようにレイオフできた場合であり、日本ではそうはいかない。他部門に吸収させるか、希望退職で辞めてもらわないと、コストは下がらないのだ。

そこで一時的な人員過剰が生まれ、「来期の新卒正社員の採用を絞って対応しよう」ということになる。若者の未来が奪われた瞬間だ。

つまり、ただでさえバブル崩壊で正社員の新卒採用を控えているのに、派遣社員を導入することによって、ますます新卒正社員は採用されなくなったのである。こうして、就職氷河期世代(ロストジェネレーション)は正社員になることができず、「新しい貧困」層が増殖していった。

◇入り口だけ緩和した政治の罪

企業は常に競争にさらされているため、法律の範囲内でコスト削減努力を怠らないのは当然であり、罪はない。企業とすれば、中高年の人件費だって減らしたくて仕方がないのだが、労働基準法などの法律と判例によって、強固に守られているのだ。

小渕政権が、入口の規制緩和(派遣法改正)だけを行い、出口の規制緩和(労働条件不利益変更=賃下げ、リストラ)を行わなかったために中高年は守られ、新卒の正社員採用だけが絞られるという、世代間不公平が発生したのである。

もし出口の規制緩和および「同一労働・同一賃金」とセットで政策を実施していれば、若者の正社員採用がここまで大幅に減ることはなかった。たとえば年収1200万円の50代社員を800万円に下げられれば、400万円で新卒を採用できる。1200万円の社員をレイオフできれば、400万円の社員を3人雇う余力が生まれる。

派遣法改正は、経団連に利益を与え、連合の既得権を守り、氷河期世代の若者の未来だけを狙い撃ちで奪ったのだ。まさに、若者の未来を食い物にするような政策が実行されたのである。

◇A級戦犯は竹下・小渕、B級が橋本・森

こうして考えると、「新しい貧困」の戦犯は、バブルを軟着陸できなかった竹下内閣(1987~1989年)、そして99年の派遣法改正を行った小渕内閣が双璧である。森永卓郎氏がなにかにつけて糾弾する小泉構造改革とは、全く何の関係もないことが分かるだろう。

小泉内閣(2001年4月~2006年9月)は、むしろ2005年に15年にもわたる不良債権処理を終焉させて景気回復に寄与し、新卒採用を復活させたのであって、若者にとってはプラスだ。

不良債権処理に15年も要した罪は大きい。その結果、氷河期が不必要に長びいたからだ。失われた15年=就職氷河期と、綺麗に重なる。90年代、政治の混乱を経て橋本・小渕・森政権時代に国債(国の借金)を発行して湯水のように投じた130兆円もの公共投資は、土建業者と政治家を潤わせただけで、不良債権処理という問題を先送りし、国の財政を悪化させただけだった。

既に約1000兆円にも膨らんだ国と地方の借金を返すのは、われわれ団塊ジュニア以降の若者世代である。雇用を奪い、貧困を生み出しただけでなく、若者の未来に巨額の借金のツケまで回した政治の無責任さには、唖然とするばかりだ。しかも、竹下、橋本、小渕と、さんざん若者にツケを回したあげく、自らは早々に現世を発っていった。

◇連合の既得権に切り込め

では既に発生してしまった「若者の貧困」はどうすれば解決するのか。これは連合と経団連から、それぞれが持つ既得権を奪わないと解決しない。それぞれ自民党と民主党の支持母体なので、政治家連中は言い出すことができないからこそ、この問題が放置されているのだ。

連合の既得権は、労働条件不利益変更と解雇法制の規制緩和である。前述のように、派遣法改正によって働き方の多様化が進んだこと自体は大筋で正しいが、結局、正社員のイスが空かない限り、派遣社員は一生、正社員になれない。経済のパイが拡大すればよいが、人口が減り始めているなかで、それは夢物語だ。

となると、現在、非常に法的に難しい労働条件の不利益変更(要するに降格・賃下げ)と、一定の条件下での解雇が、可能にならない限り、派遣社員やフリーターになってしまった氷河期世代の再チャレンジは不可能だ。氷河期世代でなくとも、階層が固定化される現行の法制度では、チャレンジ不可能な「希望なき社会」になってしまう。

◇小泉・竹名のトリクルダウン理論は嘘

なぜ降格・賃下げ・リストラが必要なのかというと、まずは原資を作らない限り、貧困層には人件費が回るはずがないのと、そもそも企業が、経済合理性から無駄な人件費を、法律によって負担させられるのは理不尽だからだ。

確かに企業業績は好調で、日本企業は、5期連続で右肩上がりである。だが、労働分配率は上がらず、いくら業績がよくなっても労働者には回ってこなかった。正社員の給与も、なんと9年連続で下がり続けている。

竹中平蔵氏をはじめとする新自由主義者は、グローバル化を進め、規制緩和を進めれば、トップが裕福になり、そこから水が滴り落ちるように、最下層まで潤う、といい続けてきた。いわゆるトリクルダウン理論である。

だが各種データと貧困の実態が、この理論の嘘を証明した。景気がいくら回復しても、その取り分は正社員には回ってこないし、ましてや非正規の下々の者にはまったく回ってこないことが分かったのだ。どこに回っているかといえば、これは圧倒的に株主である。森永卓郎氏が勢いづいている理由はここにあり、その1点においては正しい。

実際、トヨタ自動車の過去5期の決算を見ても、正社員の平均年収でさえ下がっている。同時期に、利益は1.7倍、配当は3.3倍になっているにもかかわらず、だ。キヤノンも似たようなものである。

なぜ業績が回復しても給与に反映されないのかというと、株主と従業員がともにグローバル化していくなかで、既に日本の賃金は世界的に見て高く、また、これまで持ち合いなどで軽視されてきた日本企業の株主権利が正常化してきたからだ。

世界的にみて十分に高い日本企業の総人件費は、よほど教育改革が進んで付加価値を生み出せる人材が増えない限り、もはやこれ以上、上げられない。上がるにしても教育から始めねばならないから、30年はかかる。

一方で、日本は対内直接投資を増やさねばグローバル経済で生き残れない運命にあり、食料自給率40%の現状や、国内に資源がないことを考えると、経済のグローバル化、株主のグローバル化は避けようがない。

昨年の三角合併解禁も、その流れの一環である。日本の対内直接投資は、諸外国に比べ、圧倒的に少ない。今後、国内人口が減っていくなかでは、外資を呼び込み、経済を活性化させるほかない。そのためには株主に配当を出していかねばならない。配当を怠れば株価が下がり、時価総額が下がり、買収されるリスクが高まってしまう。

◇経済合理性なき人件費=上がり待ちの中高年社内ニート

株主への配当も怠れない、総人件費は上げられないとなると、人件費の社内での配分を変えるしかない、という結論になる。では企業内の、どこに経済合理性のない人件費が残っているのかというと、それは貰いすぎ中高年の給料だ。

現在、大企業の正社員は、バブル期より前に入ったか、後に入ったかで、2つの階層に分けられる。バブル以前に入社した40代50代は、年功序列世代で、仕事の成果と関係なく、年齢とともに給与があがり、課長待遇以上を得ている人が多い。これは、右肩上がりの時代は、ネズミ講と同様、子ネズミ社員が増えていたため、組織も拡大、ポストも拡大していたからだ。

だがバブル崩壊後、ネズミ講が破たんした後に入社した現在30代以下の社員は、必然的に成果主義にルールが変わったため、成果をあげた者だけが昇進昇格するルールのもと、課長以上になれない人のほうが多いのも当たり前になった。

今の20代30代の正社員は、成果主義のなかで勝ち抜くために、自分のことで精一杯だ。だから、なんとかハック、レバレッジなんとか、といったノウハウ本が売れている。雨宮処凛て誰?という世界で、貧困問題など考える暇もない。

◇NTT、電通、トヨタ…

たとえばNTTは、1987年まではA採用(キャリア)で入社すると、どんなに仕事ができなくても、本社の部長クラス(子会社の社長クラス)まで必ず昇進でき、年収1800万円を貰えた。86年入社の世耕議員もその1人で、NTTを辞めなければ確実に部長にまでなれた。成果と関係なく昇進していく彼らを、社内では「ダメAちゃん」と呼んでいるそうだ。

だが、ルールが変わった88年以降に入社した社員は、課長以上にすら、半数しかなれないという。年功序列ではなく、成果主義に移行したためだ。私が取材した社員は、この世代間格差にあきれて外資系に転職した。

したがって、現在40代半ば以上は、特権的に給与が高い。彼らの人件費を維持するために、2001年から3年間、新卒採用を凍結して、若者の未来を奪っている。本来ならば、経営者はパフォーマンスの低い40代50代の給与を下げ、新卒を採用したい。総人件費の配分を、合理的なものに変えたいのだ。また、現場の若手社員も、世代間の不公平を感じている人が多い。

年功序列世代の50代は、窓際族の社内ニートとなり、企業にとって、明らかに無駄な人件費となっている。たとえば電通のある窓際部署では、6人全員が担当部長で、1日中、PCのゲーム「ソリティア」をやっているというが、年収2千万円以上だ。大企業には、こういった部下のいない「担当部長」、つまり、単に給料が高いだけの部長待遇の社員が多い。

NTTデータでも、一日中、喫煙コーナーでしゃべって時間を潰している「上がり待ち」の50代社員がたくさんいるそうだ。トヨタでも、今は選抜が厳しいが、かつては年功序列で全員が上級専門職になって年収1000万円を貰えたため、「あんなに寝てばっかりいるのに」という50代社員は珍しくないという。

こうした貰いすぎ中高年の給与を減らせるように、また一定の条件化でレイオフできるようにすれば、配分を変えられる。若い正社員を増やせるし、経営者はそうしたいと思っている。だから、それを阻む法制度を変えればよいのである。

年功序列で給与が高止まりの大企業50代社員は、給与を非正規社員から搾取したうえに、年金もちゃんと貰える。1400兆円の日本の金融資産も、大半を50代以上が保有している。それに対して、われわれ氷河期世代は正社員のイスすら与えられず、資産形成どころではないのだから、中高年は賃下げ・リストラされて然るべきだろう。

◇長期的には人間本位の資本主義ルール作りを

以上の「人件費を増やせない環境」は、グローバル経済においてアメリカスタンダードの資本主義に順応していくことが大前提になっている。現実的に見ると、確かに短期的には、ほかの選択肢はない。
現状の株式会社の仕組みでは、最高意思決定機関は株主総会であって、そこで株主が取締役を選任し、取締役が会社を経営するから、株主利益を上げるためには、人件費を増やす意思決定はしづらいし、労働者の権利を強める方向にはならない。

堀紘一氏は、昨年の『朝生』で森永氏に突っ込まれると、「資本主義の泣き所だ」「ベニスの商人のシャイロックみたいなのが儲かっちゃう」「資本主義は嫌い」などと発言していた。

確かに、堀氏が会長を務めるDIという一部上場会社は、2008年3月期に大赤字で無配転落にもかかわらず、どんどん社員を採用し、しかも社員の平均年収が1千万円を超えている。「株主利益は社員より優先度が低い、一番最後だ」と自ら公言し、実行しているのだ。

だがそれができるのは、堀氏自身が筆頭株主であって、さらに外国人株主が3%しかいないからであって、ソニーやキヤノンのように外国人が株主の半分を占めるような会社では不可能であり、もはや後戻りもできない。

長期的には、やはり人件費というものは、他の設備や土地などのコストと同一視してはならないものであって、それらを全て同一線上に置いて考える資本家中心のアメリカスタンダードは、改められるべきである。ただ、これは国際問題なので、世界規模で考えないと解決しない。

人件費は人間の生活と命がかかっているため、より慎重に扱われるべきものだ。ただ、そうかといって日本独自で規制をかけても国際競争力を落とし、最後は買収危機に陥って「日本丸」が沈没するだけなので、国際的な株式会社のあり方についての共通ルール作りを、日本が主導すべきなのだ。

たとえばドイツとオーストリアは、法律で従業員代表を取締役会に入れるよう義務付けているという。そうすれば、従業員を無視して株主の短期的利益のみに沿った意思決定を防げるはずで、これは1つの方策だろう。

アメリカスタンダード資本主義では、株主の力が強すぎ、単なるコストのなかの1項目に過ぎない労働者は、汗水たらして働いているだけでは(つまり資本家にならない限りは)、いつまでたっても幸せになれない。そういう世の中は、多くの人たちにとって幸せとはいえない。

◇同一労働・同一賃金、最低賃金1000円に

さて、「不利益変更・解雇法制」の緩和と同時に実施しなければならないのが、経団連の既得権を奪うことになる「企業内同一労働・同一賃金」の法制化+最低賃金引き上げである。

リストラだけしやすくしたら、資本家・経営者の思うがままで、労働環境はさらに悪化する可能性が高い。高給社員の賃金を下げやすくしたら、つまり「上」を下げたら、同時に「下」も上げる。最低賃金1000円と、同一労働同一賃金の法制化である。

(出典:MyNewsJapan)


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