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日本自信喪失

◆負けても悔しがらない国は、復活できない◆

韓国企業が危機意識を持ち、日本企業が持てない理由 山崎良兵(日経ビジネス記者)

日本企業が景気の二番底に怯える中で、韓国企業の躍進ぶりが目立つ。世界でシェアが急伸する電機大手のサムスン電子やLGエレクトロニクスだけではない。鉄鋼メーカーのポスコや現代自動車も不況下で強さが際立っている。

ウォン安効果があったのは事実だが、それだけと見るのは誤りだ。かつて日本の「後追い」と揶揄された韓国勢が、今なぜ競争力を高めているのか。その秘密を韓国と日本の識者の言葉から探る。人口は日本の4割で、少子化も進む韓国に危機脱出のヒントはある。

日韓両国の企業経営に詳しく、2009年10月に『日本再生論』(エンターブレイン刊)を上梓した韓国・中央大学准教授のウィ・ジョンヒョン氏に聞いた。

ウィ・ジョンヒョン(魏晶玄)氏
1964年生まれ、韓国在住。1987年、ソウル大学経営学部経営学科を卒業後、2002年に東京大学大学院経済学研究科にて博士号取得。東京大学経済学部リサーチ・アソシエイトを経て、現在、韓国・中央大学経営学科准教授及び、コンテンツ経営研究所所長、韓国国会情報通信委員会諮問委員。専門はイノベーションと組織。日本でIT(情報通信)・電機分野の企業経営を研究し、韓国のオンラインゲーム業界にも詳しい。


―― サムスン電子やLGエレクトロニクス、ポスコ、現代自動車など韓国のグローバル企業が世界で躍進しています。ウォン安の影響もありますが、ブランド力、商品力など様々な面で力をつけている。日本と韓国の両方の企業に詳しいウィさんは理由をどう分析されていますか。

ウィ 韓国企業の躍進の背景には、強い危機意識があります。韓国は経済の基盤が日本と比べるとはるかに弱い。

日本は1億3000万人の豊かで安定した市場がありますが、韓国の人口はわずか4800万人です。「韓国市場に依存してはダメだ」「海外に行かないと死んでしまう」といった生まれつきの海外志向があります。


「日本一」好きの日本、「世界一」好きの韓国

日本人が好きなのは「日本一」であり、「世界一」ではありません。一方で、韓国企業は「世界一」をずっと叫んでいます。韓国内にとどまらずに、グローバル市場を自分たちが活動する1つの世界として捉えて開拓を進めてきた。その違いが、経営に表れています。

1997年の通貨危機も、結果的に韓国にプラスに働きました。複数の財閥グループが解体され、失業率は急上昇するなど混乱しましたが、弱い企業がつぶれて、世界で戦える企業だけが残った。

運が良かったともいえますが、1回落ちて這い上がった経験を持つ人々は強い。多くの韓国企業は危機対応に自信を持っています。

逆境をうまく利用すれば加速力がついて、強くなれる。危機が瞬く間にイケイケの状態に変わることが過去に何度も繰り返されており、今回もチャンスだと考えています。


ドラスチックな変化を恐れない

もう1つは模倣を乗り越え、独創的な商品開発や経営をする地力をつけたことです。1980年代までは日本企業に学んで、どんどん経験を蓄積していきましたが、長らくモノマネの域を出なかった。

しかし2000年代初めに転換期を迎えました。韓国企業は製造業を中心に、ビジネスプロセスを大きく改革。例えば、ポスコはIT(情報通信)技術を使ってプロセスを改善し、経営効率を大幅に引き上げました。

LGエレクトロニクスは経営のグローバル化を加速しました。今ではCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)など経営幹部の半分に外国人を就け、社内の公用語も英語に変えました。

日本ではありえないかもしれませんが、韓国企業は強いリーダーシップで短期間に改革を実行する。ドラスチックな変化を恐れずに、素早く動ける機敏さがあります。


―― 日本と日本企業の現状をどう見ていますか。


日本全体が自信を失っている

危機的な状況だと思います。労働力不足や政府のリーダーシップもありますが、一番の問題は日本全体が自信を失っていることです。

1980年代は米国をモデルにして、追いつけ、追い越せと努力して、成功してきた。当時の日本は自国の経済モデルにものすごく自信を持っていました。

しかし90年代に入ってバブルが崩壊。本来、日本はシステム全体を点検しなければなりませんでしたが、そうしなかった。

バブル崩壊の影響が消えきらぬうちに米国でITブームが起き、景気が若干回復した。改革の機運はありましたが、結局ほとんど変わらなかったのが実態だと思います。

多くの日本企業は、システムや社員教育を刷新するのではなく、景気がよくなるともう1回幸せな時代が来ると思っていたようです。自分たち自身ではなく、外部環境が変われば、問題は解決できると。

しかし、そうでないことは次第に明らかになった。成功モデルとされたトヨタ自動車さえも苦しむ中で、日本企業は本当の意味で自信を失っている。

日本の経済成長率は、ちょっと上がって、ちょっと下がって、相当下がってというパターンを繰り返して十数年になります。一方の韓国は10年間に渡り成長を持続しています。

日本の街にはフリーターがあふれており、貧困層も増えている。日本の若者は何かに挑戦しようとする気持ちをなくしているように見えます。


―― 何が最大の問題だと思っていますか。


必死で勝つために努力しているのか

問題の本質を象徴する事例があります。日本の携帯電話メーカーの世界シェアは過去10年間で激減し、20%以上から6%台になりました。日本人が衝撃を受けないわけがないと思っていましたが、現実は違った。

本当にショックを感じている日本人に、全くと言っていいほど出会わないのです。携帯電話では10年で日本勢のシェアが3分の1以下になり、対照的に、サムスン電子やLGエレクトロニクスのシェアは2倍以上になった。明らかに事態は深刻です。

にもかかわらず、負けても「仕方がない」とヘラヘラ笑っているようにさえ見える。本気になって悔しがって、必死で勝つために努力しているのか。答えはノーではないでしょうか。

携帯はほんの一例で、ほかにも負ける分野が増えている。日本メーカーには技術力があり、マーケティング力が問題とも言われますが、もっと足りないものがある。「今のままでは日本の国も企業も滅びてしまう」という強い危機意識です。

 
―― なぜ危機意識を持てないのでしょうか。


トヨタやソニーは高慢になっていた

成功体験から来るおごりや高慢さが問題になります。バブル崩壊後も一時はソニーが好調で、トヨタ自動車は長期的に高成長が続いてきました。その頃は、イノベーションや技術革新の底力はあるように見えていました。

トヨタは素晴らしい会社で尊敬していますが、あまりに好調で自分を見失ってしまったのかもしれません。ソニーも良い会社だと思って、1990年代までは応援してきました。今は本当に苦戦しているようです。

イノベーションのプロセスは成長期までは革新的でいいのですが、いつの間にか高慢になっていたのでは。その連鎖をソニーもトヨタも乗り越えられなかったのかもしれません。社外から謙虚に学ぼうという姿勢を失っていたように見えます。


―― “成功の復讐”ともいえるおごりとそこからくる失敗は、どの国の会社にも共通するものです。今は好調な韓国のグローバル企業も、明日の勝者であり続けるかどうかは分かりません。


韓国は日本の15年前の状態にある


「韓国は日本の15年前の状態にある」という仮説を私は持っています。経済の発展段階が韓国は日本と比べて遅れている。つまり2010年の韓国は、1990年半ばの日本なのかもしれません。

私は95年から日本に留学しましたが、当時の日本の大学生と今の韓国の大学生の考え方は驚くほど似ています。日本で東大の学生に「夢は何か」と問うても、「海外に強い三菱商事に就職すること」といった答えが返ってきた。就職そのものが目的化している姿を見て落胆しました。

しかし今韓国の大学で教鞭をとっていると同じ兆候が見えます。韓国の学生に夢を聞いても、「サムスンに就職することです」と答える人がとても多い。

今の大学生は社会に出て10年後に企業の中核を担います。ということは、韓国企業も盤石ではありません。今の韓国は成功に酔いしれていますが、将来は今の日本のような状態に陥るかもしれません。

(出典:日経ビジネスオンライン 2010年1月26日)


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