賃労働

　　オバマ、クリントン、マケイン。ロシアが望む次期米大統領の順位である。その理由を説明する前に、米大統領選にたいするロシアの態度の一般的特徴について述べておこう。　
　まず、ロシアは外国の政治や選挙にたいして、内政干渉と受けとられかねない言動を遠慮することはない。たとえば４年前の米大統領選の際、クレムリンはブッシュ米大統領再選を公然と支持した。9・11事件発生前の時期にまで遡(さかのぼ)るプーチン─ブッシュ間の良好な個人的関係継続の必要性。加えて、ブッシュ政権がイラク紛争の泥沼に介入し続けることが、ロシアの国益にとりブラスとなるとの権謀術数も働いたからであろう。
　次に、ロシアは、イデオロギーや信条よりも、プラグマティック(実利的)な観点を優先させる。そのために米国の２大政党のなかでは、民主党の中では、民主党よりも共和党の大統領を好む。民主党は、その名称がしめすように、民主的な価値観や原則を重んじる。そのために、ロシアにおける人権やメディアの抑圧に厳しい目を向ける。ところが他方、共和党内には、力の信奉者や現実主義者が多い。彼らは、ロシアとは所詮(しょせん)価値観を異にすると考えて、余計な幻想を抱かない。立場の基本的な相違の上に立って、何らかの妥協の道を探ろうとする。
　実際、これまでクレムリン指導者たちとの間で相性がよかったのは、民主党系でなく、共和党系の政治家である。具体的な名前をあげると、カーター、ブレジンスキー、クリントンではなく、ニクソン、キッシンジャー、レーガン、ブッシュが、相対的に良好な米ソ/ロ関係の構築に成功した。
　ところが、右にのべた特徴のうち、民主党よりも共和党を良しとするクレムリンの傾向は、今回の米大統領選に限っては当てはまらないようである。というのもロシアは、マケイン(共和党)を最も嫌い、クリントン、オバマ(ともに民主党)をまだしもましな大統領候補とみなすからである。
　現時点ではプーチンやメドベージェフといった指導部のトップは、まだ米国の大統領選についての発言を慎んでいるが、彼らの代弁者(スポークスマン)たちは各候補者について、すでに以下のような評価を明らかにしている。
　彼らによれば、まずマケインは最悪。マケインによる手厳しいプーチン政権批判はつとに知られている。彼は、ロシアをＧ８(主要国首脳会議)から追放すべしと唱える急先鋒(せんぽう)。５月からはじまるメドベージェフ政権を、プーチン首相が陰で糸を操る傀儡(かいらい)政権ときめつける。
　今や、共和党候補はマケインに決まりとなったので、ロシアは民主党の有力候補２人のなかのどちらかを選らばざるをえない。ヒラリー・クリントンは夫と大同小異の対ロ政策をとるだろう。ヒラリー女史にはロシアにたいする愛情が感じられず、彼女の主たる関心は中国に向くと予想される。
　このような消去法によって、オバマがクレムリンにとってベスト、いやより正確にいうと「より少ない悪」となる。もとよりその主たる理由は、彼がアフリカ系であるからではない。ロシアの国益から判断すると、オバマはまだ未知数。マイナス点が少ない。彼に期待する以外、今や「新しい対立の時期」(セルゲイ・カラガーノフ)に突入している米ロ関係を浮上させる妙案はない。一縷(いちる)の望みを託してオバマ支持に回らざるをえない。どうやらこれが、クレムリンが直面している状況のようである。　(文中、敬称略)(北大名誉教授・拓殖大学客員教授)
　(2/24東京新聞)


　ロシアのオバマ支持について、２月８日朝日新聞にも次のような記事があります。

　【モスクワ＝駒木明義】ロシア下院のコサチョフ外交委員長は７日付の有力紙「コメルサント」への寄稿で、米大統領選について「オバマ氏がロシアに向けた最も真剣な変化が期待できる候補に見える」と述べた。外交官出身のコサチョフ氏はロシアの外交政策の解説役を演じることが多く、政府内の雰囲気を反映した見解と見られる。
　ロシアは旧ソ連時代を通じて、米共和党政権時代に良好な関係を築くことが多かったが、コサチョフ氏はマケイン氏の「ロシアをＧ８(主要８カ国)から除外すべきだ」などの発言を引用。マケイン氏が「こうした伝統を断ち切りそうだ」と述べた。
　また、夫(ビル氏)時代の外交チームの影響が残るクリントン氏よりも過去に縛られないオバマ氏の方が変化に期待できるとの見方を示した。
　(2/8朝日新聞)


　日本ではどうでしょうか。親日ではマケイン氏が一番。オバマ氏はクリントンに比べ知日派ブレーンが多く親日。クリントンは最近ようやく日本は重要な同盟国と言いましたが日本への発言はほとんどない。
　だれが日本の国益に合うか。親日派のブッシュ、レーガン、ニクソンが日本の国益に合っていたかは議論が分かれる。