MX逮捕者WinMX逮捕者インタビュー。編集部がある東京・高田馬場まで足を運んでくれたAさんの見た目の印象は、俗に言う「オタクっぽさ」とは 無縁といった雰囲気で、身なりも編集部員よりもキチンとした好青年だった。当たり前だがとても逮捕者には 見えない。そんな彼にまずは逮捕以前のこと「WinMX」をどのように使っていたのか聞いてみた。 編集部(以下「編」):20歳の専門学校生として報道されたAさんですが、現在はすでに卒業されているんですよね? A :年齢は21になりました。学校は3月に無事卒業しています。 逮捕の影響はなかったのですが、出席日数のほうが危なかったです(笑)。 編:ネット歴はどれぐらい? A:高校1年の時からだから、6年目になりますね。PC歴も同じです。 編:じゃあ、草の根とかniftyは…? A: 知らないです。 編:ネットに興味をもったきっかけは? A:え-と、ラジオでやっていた丹下桜のトーク番組がWEBサイトを作っていて… 編:声優好き? A:そうですね。ちょっとやばい香りが(笑) 編:いやいや(笑)。しかし、高校生にとってPCはけっこう高い買い物ですよね。資金はバイトとか? A:高校入学時に親に買ってもらいました。 編:そして『WinMX』を使い始めたのはいつ頃からですか? A:去年の5月~6月頃ですね。『WinMX』以前は『Napster』を使ってました。 『Napster』だとMP3を落とすのが楽だよ、という話は前から聞いていたんですけど 実際使ったことはなくて。で、漫画喫茶とかでインターネットが使えるところがあるじゃないですか。 そこにいったら普通に『Napster』がインストールされてて。それで使ってみたら『ああこれ便利だな』 と思うようになって。それからファイル交換をめました。 編:…それ、すごいネット喫茶ですね。場所は? A:さいたま市なのですが、そこは生のCD-Rも売ってて、音楽CDのレンタルもやってましたね。 編:『Napster』でダウンしたファイルをその場で購入したCD-Rに焼いてもOKだし レンタルしたCDをコピーすることもできる、と。 A:はい。これって、いいのかな-? とは思ってましたけど…。 編:それは、去年の話なんですか? A:去年の年頭になりますね。それで、5月頃に『Napster』のサーバーが停止するっていう話になった時に 『WinMXだったらMP3だけじゃなくていろんなファイル落とせるよ』というのを教えてもらって そこで使いはじめました。 編:最初の目的は、MP3? A:そうですね。掲示板とかにアップされているファイルを拾ったりもしていたんですけど せっかく見つけてもファイルがデリられてたり、偽装を何重にもかけてあったりとか。 それが面倒で『Napster』をやったらこりゃ楽だ、と。検索すれば一発で見つかるし。 だから『Napster』が駄目になったら次のツ-ルを、ってなりますよね。 編:好きな音楽はどんなジャンルなんですか? A:まあ、普通の邦楽です。ランキングに入ってくるような曲ばっかりですね。 結局、『Napster』や『WinMX』で、5000曲ぐらいダウンロ-ドしました。 編:5000曲もあって、全部聴くんですか? A:聴きません。ハードディスクからいちどCD-Rに焼いたらそこまでですね…。 編:声優の曲も? A:それは聴きます。ちゃんとCDを購入して。 編:なるほど、欲しいものに関してはお金を出している、と。 A:そうですね。本当に聴こうと思って聴くものは。イベントにも行ってましたし(笑) 編:そしてビジネスアプリをダウンロ-ドしようと思ったきっかけは…? A:そのアプリが欲しいというよりも、帯域を空けているのがもったいないっていうか…。あとはコレクタ-心理ですね。 編:ヤバいかも、という気持ちはなかったのですか? A:アップしている時よりも、落としている時のほうがヤバいかな、と感じてました。 ダウンロードしている時は普通は買わなくちゃいけないものがタダで手に入るんだから これはマズいかな、という感覚で。アップしているぶんには、ほとんど悪意はなかったですね。 編:Warezには興味ありました? A:『WinMX』以前にちょっと落としましたけど、欲しいソフトが特別にあったわけじゃないし 分割ファイルがひとつだけ足りない、とか大変だからいいや、と(笑) 編:エミュのROMイメージとかは? A:『WinMX』で少し集めました。ただROMイメージは容量が小さいんで、交換用には 『Photoshop』みたいに大きいファイルを持っていたほうがなにかと…。 こっちがデカいものを落とす時は相手にもデカいファイルをって暗黙のル-ルみたいなのはありますよね。 ムービーファイルも集めていたんですけど、ひとつあたり100MBぐらいありますから…。 著作物をダウンロードすることよりも、アップすることのほうが危機感なく行われてた、という点は興味深い。 「公衆送信権の侵害」となるアップロード行為の犯罪意識は、想像しているよりも ー般に認識されていないのかもしれない。 ちなみに個人または限定された範囲で使用する目的でダウンロードする場合は 著作権法30条1項により適法とされている。 そして「Xデー」とも言える2001年11月28日、Aさんは著作権法違反の疑いで逮捕されることとなる。 世界でも例のない今回の逮捕の瞬間とはどのようなものだったのか・・・。 編:家宅捜索は、いきなりですか? A:そうです。警告メールみたいなのは一切無しで。朝の5時でした。 編:その時対応されたのは…。 A:母親です。自分は風呂に入ってたんです(笑)。夜はずーっと起きてて、明け方に風呂に入る、という生活リズム だったので。そしたら母親が洗面所のところに来て『ちょっと、京都府警の人だよ』って。 びっくりしましたよ、本当に。最初はピンとこなかったんですけど、洗面所で着替えていたら 刑事さんが「WinMX」がどうのこうのって話しているのが聞こえたんですよ。で、『あ、アレか』って思いました。 編:刑事は何人ぐらい来ました? A:8人です。うちのPCに「WinMX」がインストールされていて、ファイル共有できるかというのを確かめるために。 刑事さんがうちのPCを起動して、京都府警からアクセスして、ファイルがダウンロ-ドされているのを 確認してました。で、ファイルがダウンロードされている様子が画面に出るじゃないですか。 その様子を写真に撮って、それから逮捕状が出て、逮捕です。逮捕状は出る前提だったんでしょうけど うちのPCを使用しているのが僕だということを特定して、それから逮捕状が出たみたいです。 編:PCは押収されたんですか? A:はい。PC本体とキーボード、マウス、スピーカー。モニタは置いていかれて。 キーボードやマウスは指紋を検出するため、スピーカーは、落としたMP3を実際にそれで聞いていた証拠として だと思います。あと「ネットランナー」(笑)。CD-Rは74枚入りのファイルを5~6冊ぐらいです。 焼いた内容はほとんどMP3ですね。 編:逮捕されて、その日のうちに京都府警まで連行されたんですか? A:新幹線で京都まで。とりあえず、僕は逃げないだろうということで、新幹線の中は手錠無しだったんですけど 京都駅を降りて警察まで行く時に「決まりだから」ということで。これ(両手錠)やられました。 それで腰紐も巻かれて。 編:しかし何故京都? A:それは僕にもわからないです。ハイテク犯罪対策室は他の県警にもあるようなのですが。 編:取り調べは京都についた日から? A:いや、その日は指紋取ったり写真撮られたりなどが0時ぐらいまで。 朝の5時から日付が変わるまでだから、かなりヘビーでしたね。 編:取り調べはどんなこと聞かれました? A:初めて「WinMX」をインストールした日はいつだとか。最初に落としたファイルはいつだとか…。 特定のファイルに共有をかけていたのは何月何日の何時ごろだとか。あと 押収されたPCのハードディスク内のファイルの位置が警察が事前捜査していた時と変わってたんですけど それはどうしてだとか…。ほとんど覚えていないような部分をひたすら細かく。 ファイル名をプリントした紙を見せられて「これはいつ落とした?」とか一つ一つ聞かれるのですが ファイル名だけを見てもいつ落としたかなんてわかりませんし。 編:たしかにファイル名って覚えてないですよね。 A:リネームとかしないでそのまま保存していたので。とにかくハードディスクの中を見られるというのはイヤですね。 恥ずかしいです。 編:取り調べはどれぐらいのペースでした? A:ほとんど毎日でした。空いてた日のほうが少ないぐらいです。土日は空いてましたけど。 でも、取り調べはあったほうがよかったです。それが無いと雑誌を読むか お茶飲むかトイレに行くぐらいしかすることがないですから。まあトイレといっても房の中にあるんですけど。 編:なぜ数多いユーザーの中からAさんが捕まったのかは警察で聞きましたか? A:公開している時間が長かったというのと、誰でもダウンロードできる状態にしていたというのが 決め手だったみたいです。『WinMX』のパッチで、メッセージを送ってきた相手に許可した時だけ ダウンロードができるっていうのがあるらしいんですけど。 警察も捜査の段階でこちらにキューを入れてダウンロードしたファイルと、僕が持っているファイルが 相違ないものかを確認してから逮捕状が出るわけですから。最初は警察も100人ぐらい リストアップしていたらしいです。その中から捕まった二人のうちの一人が、僕だったわけです。 編:留置場での日課は? A:起床は7時ちょっと前ですね。6時50分とか。起床の後は布団しまって、顔洗ったり歯を磨いたりした後 7時30分に朝食。パンふたつと、紙パックの牛乳かコーヒー牛乳のどちらか。運動が9時で、お昼は 12時に弁当が出て、夕飯が6時。夜はその他に出前も取れました。で、8時になったら布団出して 洗面があって、9時には消灯です。食事は普通のお弁当でしたね。一緒の房に入っていた人は 『ここの弁当はおいしい』って言ってました(笑)。話に聞く「臭い飯」というわけではありませんでした。 コロッケと野菜と魚だったりとか、それなりにバランスを考えているのかな、という感じでした。 編:起訴後は保釈申請をしたんですよね? A:いやしてないです。まじめに取り調べに協力してるし、充分反省もしてるからというので処分保留になったんです。 編:京都まで連行されている間の心境は? A:現実感がないというか…。「これって本当なのかな?」とか「これからどうなるのかな」とか思ったり。 その時は、あまり深刻な気持ちではなかったです。長くても2~3日で済むんじゃないかと思ってました。 身柄拘束は結局、約3週間ですね。48時間、24時間プラス20日間です。 編:48時間は警察の留置ですよね。24時間というのは? A:24時間というは、検事の権限で。その後、裁判所の命令で20日間です。 編:公判は何回? A:いや、罰金50万円以下だから、略式裁判です。略式裁判っていうのは 裁判所じゃなくて簡易裁判所でやるんです。 編:検事調べではなにを聞かれました? A:いや、聞いてることは基本的に警察と同じですね。パソコンに関しては、そこそこは知ってるみたいでしたけど。 あとは…検察だと、検事調べを待つ間にもっと凶悪な犯罪者の人といっしょになるんですけど あれがめちゃめちゃイヤでしたね(笑)。 編:最終的に出た判決は? A:著作権法違反で罰金40万円です。罰金は両親に立て替えてもらいました。 警告メールもなく、突然の逮捕だったというのは意外であった。「警告が来たらやめよう」と考えている WinMXユーザーは、ただちに考えを改める必要がある、ということだ。 取り調べを終え、判決を下されたAさん。その後の生活やネットとの付き合いはどのような変化を見せるのか。 編:ネットや新聞での報道は知ってました? A:留置、勾留されている間は全然わからないです。新聞とかも、自分に関する記事って切り抜かれているんですよ。 留置所で「週刊アスキ-」を買った時も、ニュ-スのページが半分くらい切り取られてました、目次も(笑)。 編;証拠品は返してもらえるんですか? A:PCはまだ京都にあって、いつ取りに来るんだって連絡は来てるんてすけど、検察庁は土日休みだし こっちは平日仕事してるし、困ってます。本人か直接取りに行かないといけないらしいので。 でも、もうすでに家と京都を三往復もしてます。ちなみに、八-ドディスク内のテータに関しては所有権を 放棄するといった書類を書いたので、データはどうなっているのかわかりません。 編:逮捕前と比べて生活に変化は? A:ファイルのダウンロードは全然しなくなましたね…。もちろん飽きたのではなくて、懲りたって感じです。 周囲の知り合いも、僕が捕まったその日のうちに八-ドディスクをフォ-マットしたとか、「WinMX」は もう触ってないっていう人が増えましたね。あ、あと『2ちゃんねる』にはいろいろ調べていた人がいるみたいで。 京都から戻ったら『戻ってきたら書き込みよろしく』みたいなメールがたくさん来てました。 編:『2ちゃんねる』にはよく書き込みをしているのですか? A:けっこうしてるんですけどね、間違った情報を正したりとか。でも僕の名前を騙った偽者が多くて 信じてもらえないみたいです。 編:友達にもいろいろ聞かれたりしました? A:「カツ丼出た?」とか聞かれました(笑) 編:ネットはまだ利用していますか? A:はい、使ってはいますけど、いま手元にはMMXの古いPCしかないんです。 だからメ-ルとサイトをちょっと見るくらいですね。 編:それでは最後に「WinnMX」ユ-ザ-に対してコメントをお願いします。 A:そうですね・‥(著作物を)アップするというか、共有するっていうのはもう…自分の得にはならないし 捕まる危険性があるから、やめたほうがいいよって…それですね。 公開している時は「得をするわけではないけど、損をするわけでもないから。 まあ必要になったら持っていってくれていいんじゃないか」って考えてたんですけど 今にして思うと、その考え方が間違いでした。警察も、引き続き「WinMX」ユ-ザ-全体に対して 捜査を続けて逮捕していくと言ってました。「これだけ大々的だと被害者も大変だし 許されるものじゃないから」と。とにかく、逮捕されるっていうのは最悪ですよ。 いままでの人生で、一番つらい体験でしたね…。 編:つらい経験を思い出させるような取材にご協力いただきありがとうございました。 最後にコメントを求めた際、考え込むことなく即座に「つらい体験でした…」と言っていたことからして 今回の逮捕は本当にAさんにとってつらいものだったのだろうと想像できる。約3時間にわたって インタビューをおこなったのだが、とにかくAさんは今回の件について深く反省、後悔をしているようだった。 ファイル交換の現実 逮捕者リスト その後の情報 ぷにぷに掲示板 著作権法30条1項 |