第1章 泥だらけのエスケーパー(part 16)
第1章 泥だらけのエスケーパー(part 16) 流石に先程のサーベルウルフは襲って来ないだろうが、他の群れから狙われないとも限らない。 今夜は焚火とガスコンロを点けておく事にした。 これまでの平坦な森林に比べて、山岳部は何かと危険性が高いようだ。 「あたしとハルカの出会いを祝して、乾杯!」 このミリアと言う女は、どこまでも自己中心的な性格のようだ。 だが、気前だけは良さそうだった。 俺にワインをボトル毎、1本渡して「まあ、非特殊能力者のアンタにしては、今日は頑張った方なんだろうから、どんどん呑んでいいよ!」と言われたのだ。 俺はてっきり、「ええ?アンタもやっぱり呑むの~?これ、あたしとハルカの宴会なんだから、少しは遠慮しなさいよね!」と言われるだろうと覚悟していたのだが。 「ところで、地球に入植した異星人の事だが・・・」 「アンタねぇ、酒が不味くなるような話を宴会中はしないの!あーっ、もう!この男に詳しい話をするのはアタシはギブ!ハルカが説明してね。ハルカの方がこの男と先に出会ってるんだから」 「はいはい、分かりました。ジュンイチにはわたしから説明しておきます」 やはり、ミリアはどこまでも自己中心的な女だった。 それにしてもハルカはミリアの扱い方が手馴れている。 言葉は悪いが、研究者と被験者と言う立場の違いがハルカに大人の言動をもたらすのだろうか? 俺は談笑している2人から、離れた場所でワインを吞みながら、このエリアの事を考えていた。 サーベルウルフが地球に入植した異星人の獣だとすると、この場所もその異星人が管理する場所だと言う事になる。 ミリアは3種族の異星人が地球に入植して来たと言っていたが。 まあ、この話は何時かゆっくりとハルカから聞く事にしよう。 先ずは兎に角、このエリアから脱出する事に専念しなければ! それから何度も獣から襲われながらも、俺達はこの険しい山を越えて平地に出た。 更に平地を10日程、俺達は歩いたが、相変わらずミリアは俺を上から目線でコキ使った。 「おいおい、ミリア、お前は何か俺に恨みでも有るのか?」 「無いよ、そんな物!有る訳無いじゃん!だってアンタとはここで初めて会ったんだから。アタシは男は誰にでもこんな口の利き方をするの!」 「一体、どんな育て方をされて来たんだよ?」 「されたのは、そうね、プリンセスみたいな育て方かな」 「プリンセス?アホぬかせ!お前を育てたのは野生の狼の筈だ!昨日、俺達を襲って来たサーベルウルフなぁ、妙にミリアを見つめていただろ?あの狼、お前の親戚なんじゃ無いの?」 「テメー!今からブッ殺す!」 「まあ、まあ、ミリアもジュンイチも。ここを出るまでは仲間じゃないの?三人で仲良く力を合わせて脱出しましょう!」 「フン!」 「ふん!」 俺は、ミリアには何時か本気でガツンと言ってやろうと思っていたが、結局、今日の様な痴話喧嘩みたいに成ってしまう。 だが、最近はそれでも良いかな?と俺は思う様に成っていた。 ガツンと言うのが面倒臭いと言う事も有るが、それよりもそれが大人げ無いと感じているからだった。 最初は、ミリアには男に対して深い心の傷と言うか、トラウマが有るのだろうと思っていたが、実際はあんな高飛車な言い方をしないときっと自分自身が不安なんだと思う。 まあ、俺は心が広い男だから、もう暫くは痴話喧嘩に付き合ってやるとしよう!夜、眠るテントは別々だし、大人の俺が小娘にいちいちムキに成る必要も無いし。 俺達は、山を越えてからの10日間の間に3回極楽鳥から必需品を入手して何とかここまでやって来た。 その甲斐が有って、遂に俺達は最初の目標地点に到達したのだ。 「おい!ハルカ、ミリア!この手触りは、若しかしたらこのドームの壁じゃねぇか?」 俺の言葉で、それまで例の花や鉱物を捜していたふたりが俺の元に駆け寄って来た。 「本当だ!これ壁だよ!」 ミリアが嬉しそうな声を出した。 「やったね、ジュンイチ!これまで大変だったけど、やっと見つけた。後はこの壁に沿って歩けば、きっと出口に辿り着くよね!」 ハルカも涙混じりの声でそう言った。 「ヤッター!」 俺はハルカとミリアにハイタッチをして、喜びを分かち合った。 「まあ、これからが本番だけどね。でも取り敢えず、外は未だ明るいけどアタシ達の前途を祝して宴会をやろう!」 「そうだな。これは乾杯しなきゃな!ミリア、今夜は口喧嘩はナシね」 「アンタさえアタシに絡まなければ、何時だって口喧嘩は無いの!」 「まあ、まあ、ふたり共!それより何を飲む?」 「ふふふ、女房鳥を睨み付けてやったら、ビビってアタシの横にタダで置いていった6本もの秘蔵の酒が有るのさ!」 「ミリア、お前、またあの女房鳥を恐喝したのか?」 「今夜は口喧嘩はしないって言ったのは、アンタの方なんだからね!」 「あっ、そうか?ゴメン」 「この酒はね、アンタは全部、ハルカは4分の3、そしてアタシは半分の血が故郷にしている国のお酒!ジャーン!」 「そのひょうたんみたいな容器に入っているのは、まさか、日本酒?」 「そう!アンタ、大当たり!」 俺が日本酒を呑むのは何年振りだろう?確か日本を出てからは初めての筈だ。 「でかした!狼女!」 「アンタが呑む分は今の言葉で無くなったんで、アタシ達の横で指でも咥えて見てろ!」 「そんな、殺生な!純正日本人の俺が飲めないなんて!お許しくだせぇ、狼女様!」 「テメー!マジで殺す」アーカイブス(エレノアが見た夢) ←ここをポチっと押して戴けると、この作者は大変喜びます。←PVランキング用のバナーです。ここもプリっと押して戴けると、この作者はプウと鳴いて喜びます。ファンタジー・SF小説ランキング →ここまでグニュ~と押して戴けると、この作者はギャオイ~ンと叫んで喜びます。