第1章 密林の英雄 6
第1章 密林の英雄 6 「確かに尋常な方法では会えないだろうな。マナコル族の誰かが都合良く病気にでも成らない限りは・・・か」 「アンカ様!」 「サランコッピ、冗談だ!前にデノグッパにも言ったが、俺がそんな不謹慎な事を願う筈が無いだろう?」 アンカは庵の中で両腕を組んだ。 「ところでアンカ様、本官へのもうひとつのご質問とは?」 「うむ。俺はどうしても陛下の元にガナギルを連れて行きたい。そこでガナギルに会える尋常では無い方法が有るかどうかなんだが・・・?」 「尋常では無い方法ですか?う~む」 サランコッピも両腕を組んで、暫し思索に耽った。 「アンカ様、この方法は逆にガナギルを怒らせてしまい、もうどの様な説得を行っても翻意する事は出来無く成りますが」 「このままだと、どうせガナギルに会えない訳だから、結局は同じ事だ!彼に会える機会が作れる可能性が少しでも有るのなら、俺は是非、それを試したい」 「分かりました。本当は族長だったら一番効果的なのですが、ご高齢なので無理はさせられない。代わりに本官がその役目を引き受けましょう!」 「代役?」 「そうです。本官はマナコル族では有りませんが、この部落で長く彼らと苦楽を共にして来たので、心優しいガナギルならきっと見捨てたりはしない筈!」 「おい、サランコッピ!お前は一体、何をする積りなんだ?」 「ガナギルは、病気の者が居れば特殊な能力でそれを察知する。だから仮病で噂を流したりしても顰蹙を買うばかりなんです。それで本官が本当に病気に成る!」 「本気か?でもどうやって?、いやそれよりもそんな事をすればお前の身体の方が大丈夫じゃ無いだろう?」 サランコッピは不敵な笑顔をアンカに向けた。 「大丈夫ですよ、本官が知る限りガナギルは寿命で亡くなった者以外は、全員、病気を治癒していますから」 「それは事実なのだろうが、何の病気に成ろうと言うのだ」 「流行り病です。今はガナギルからの指示で部落の者はアマゾン川の水を熱してから飲んで居るので誰も流行り病に罹らなく成っていますが、生水を飲めば、俺はきっと流行り病に罹る筈です」 「それは危険過ぎる!今回は動機が不純だから、ガナギルの祈りが神様に届くとは限らない。祈祷が効かなければお前は命を落としてしまうかも知れないんだぞ!」 「アンカ様!本官も位は低いですがインカ大帝国の役人です。皇帝陛下のお命が助かるのなら、自分の命を犠牲にしても構いません。兵士は常にインカを守る為に命を賭けて戦っているのですから!役人の本官だって」 「サランコッピ・・・」 「これはこれはアンカ大将軍様!天下の英雄がこんな辺境の部落までわざわざおみえに成られるとは!マナコル族に取って末代までの誉れでございます」 族長はアンカに対して、自分の頭を地面に擦り付けて挨拶した。 「いえいえ、今回は折り入ってお願いが有って参ったのです。頭を下げなければ成らないのは私の方でして。族長!どうぞお顔をお上げ下さい」 「ほう、どの様なお願いでございましょうか?」 アンカは族長の方にぐっと近づいた。 「族長、お人払いを!」 「は、はい!かしこまりました。皆、下がって宜しい!」 「ガナギルの件でしょうか?」 族長の方から話を切り出した。 「どうしてその事を?」 「こんな何も無い部落に、帝国の英雄様が用事が有られるとすればガナギル以外に有りませんからな」 「この話は、族長の胸の内にだけに留めておいて欲しいのだが、皇帝陛下は今、ヒロパリテの近くに駐留おられるのだが、流行り病で倒れられている」 「何ですと!陛下のご容態は?」 「それが正直、余り芳しく無いのだ」 「それでガナギルをお探しに!我らマナコル族はインカ大帝国の一員。皇帝陛下の一大事と有らば全てを差し出す覚悟ですが、唯一、ガナギルだけは我らの思い通りには行かないのです」 族長は、申し訳無さそうな表情に成った。 「族長、私もその話は既に聞き及んでおります」 「しかし、天下の大将軍がお願い事が有ると部落周辺のジャングル中で触れ回れば、これまでは一度も我らの求めに応じた事が無かったガナギルでも、部落に顔を出す可能性は有ります。ですから早速、部落の者に申し付けましょう!」 「それは助かる!」 「ですが、仮にガナギルが部落に現れても、インカ大帝国の為に祈祷をするかは別問題です」 「何故なんだ?ガナギルはホガンギ族の出身で、インカ帝国を裏切り彼の一族を殺戮したバナアスナ族を恨んでいる筈だから、インカ帝国には協力的な筈なのに」 「確かにガナギルはバナアスナ族を恨んでいる事でしょう。しかし祈祷をすると言う話に成れば、彼の信仰上の理由から協力しない可能性が有ります」 「族長!その件をもっと詳しく話して呉れ!」 「この事はマナコル族でも一握りの者しか知らないのですが、ガナギルは、彼が6歳の時に気を失って小舟でアマゾン川を流されている所をホガンギ族に拾われたのです」 「ガナギルは捨て子なのか?」 「恐らくは!そして彼はアルテマイオスと言う月の男性神を信仰しています。彼の超人的な力は月の光による物なのです。ですから月光浴が出来ない雨期は彼のその能力は著しく低下するのです。それでもこれまでは何とか雨期でも病を平癒させて来ましたが・・・」 「ガナギルは太陽神では無く、月神を崇めているのか?」 「そうです。ですから太陽神信仰の総本山で有るインカ大帝国に対して、月神の力を使いたがらないかも知れません」 「何と言う事!」 アーカイブス(アンゴラの鐘が鳴る時) ←ここをポチっと押して戴けると、この作者は大変喜びます。←PVランキング用のバナーです。ここもプリっと押して戴けると、この作者はプウと鳴いて喜びます。ファンタジー・SF小説ランキング →ここまでグニュ~と押して戴けると、この作者はギャオイ~ンと叫んで喜びます。