横溝正史「悪魔の手毬唄」
横溝正史の金田一耕助シリーズの中でも代表作とされる長編。
ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」に触発され自身も見立て殺人を扱いたかったが、二番煎じの誹りを受けるを恐れて諦めていたところ、クリスティが「そして誰もいなくなった」で同じ事をやり評価されたのでそれならと書いたのが「獄門島」。
「獄門島」では実在する俳句を使って見立て殺人を為したが、ヴァン・ダインのような童謡殺人がどうしても書きたく悩んでいたところ「楢山節考」を読み、自身で適当な童謡を創作すれば良いのだと気付き書いたのがこの作品という事らしい。
所謂「岡山もの」で、閉鎖的な因習に塗れた田舎が舞台となっている。
私の中で岡山の印象が、吉備団子や美観地区を横溝正史が完全に上回った。
ド田舎で二大勢力があり、過去には凄惨な事件が起こっている。
そして没落した庄屋、全身赤痣だらけの美少女、連続する殺人、手毬唄に見立てられた奇妙な死体。
とにかく雰囲気抜群で実に楽しい読書体験だった。
古くからある使い古されたトリックを、これまた古くからある使い古されたトリックをちらつかせる事によって隠すミスディレクションはお見事。
横溝正史の真骨頂を見た。
そして読後、全身赤痣だらけの里子を抱き締めてやりたくなる。
どんな人よりも美しいといってやりたい。