|
|
|
|
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
|
│<< 前へ │次へ >> │一覧 |
僕にとって最も安心できてリラックスできるのは自分の家しかない。そこで僕は今は使っていない古いガレージを改造することにした。なるべく自分に出来ることは自分でしてお金はかけないつもりだが、こうした大工事はプロに頼むしかない。業者を呼んで完全な防音と遮光の工事を依頼した。数日してやってきた業者にはシンセサイザーで作った曲のミキシングをするスタジオにするのだと説明した。
「旦那さんは、音楽家の先生ですか。ヒットすれば大儲けになるんでしょ。いい御商売ですね。」と言う。 「いや、趣味でやってるんだ」と僕は照れ笑いでごまかした。まさか夢を見るためだなんて言えるわけがない。 一週間ほどして部屋が完成した頃、注文しておいたウォーターベッドが届いた。部屋の真ん中にベッドをセットしステレオアンプの音がベッド全体に響くよう、スピーカーを四隅に置く。空調、調光、音響などの調節ははすべて横たわったまま出来るように右手を伸ばせばコントロール出来るようにした。これからはいつでもここで横になれば自由に夢が見られるのだ。僕は胸の高鳴りを感じながら着ていた洋服を脱ぎ捨てて下着だけになりベッドに体を横たえた。 コントローラーのレバーを少しずつ回していくとだんだんライトが暗くなっていき宇宙空間をイメージした無機質な曲が聞こえ出す。音楽は最初だけでしばらくすると消えていくようになっている。音も光もない世界にはゆっくりと体を順応させていかなければならない。僕はゆっくりと深呼吸を繰り返す。ほどなくサウンドも消えてまったくの暗黒の世界になった。聞こえるのは自分の呼吸と心臓の鼓動を感じるだけだ。頭の中をいろいろな思いが駆け巡る。僕は夢が現れるのをじっと待った。 どれほどそうしていたのだろうか。ずいぶん長い時間が流れたような気がするが短いのかもしれなかった。分かったことは、いつまでも夢は現れなかったことだった。失敗だった。期待の分だけがっくりきたけれど、最初からうまくいくはずもない。やはり重力感があるのが問題かもしれない。シーツを換えたり温度調節を変えたりと、その後もいろいろやってみたが結論としてはウォーターベッドではなく、やはり体を液体に浮かせなければ感覚が残るということだ。やはりタンクでなければダメなのか。 いったんは諦めかけていたところへ例の友人がふらりとと現れた。 「へえ、冗談だと思っていたのにマジだったのか。ちょっと見せてくれ。」と改造した部屋に入った。ベッドサイドのスイッチを操作したりして、ふーんとなんだか呆れたように言った。 「意図していることは分かったけど、こういうことは君が想像しているより危険なんだぜ。素人は怖いね。遊び感覚でやることじゃないよ。失敗してむしろよかったんじゃないかな。これ以上は止めたほうがいいね。」 失敗して、慰めてくれるのかと思ったら意外にも冷たい言い方をされたので僕もむっとしてすぐには答えずに居間に戻ると煙草に火をつけ、煙を天井にむかって何度も吹きつけた。 しばらくしてから居間に入ってきた友達に僕は断言するように言った。 「止めるつもりはないよ。」 「危ないってどういう意味かわからないけど、なんだかもう少しで出来そうな気がするし、久しぶりでこんなに夢中になることができたんだから、絶対止めない。君にはそんなに分かっているんなら君の言うようにするから手伝ってもらうってのはどうかな。」 僕は話しながらやや冷静さを取り戻し、彼の顔を見た。 「いつも僕には相談してくれたのに、今度は勝手に始めたからちょっと頭にきただけさ。僕だって、これは君以上に興味のあることなのさ。いいよ、そう言ってくれるのなら一緒にやろう。でもね、こういうことは知れば知るほど慎重にならざるをえないんだ。それにこれは一人では危険すぎるしな。そうと決まればいろいろ調べなくちゃならないことが山ほどあるんだ。」 そう言うと友人は急ぎ足で帰っていった。仕方なく協力してくれるのではないことは、帰っていく後姿から察しがついた。なんだか楽しみを半分取られたような気分だが、彼に手伝ってもらえたほうが確かなような気がする。 数日して現れた友人と計画について綿密に話し合った。やはり直に液体に身を横たえたほうがいいことは分かっていた。アルタード・ステーツで使われたタンクはアイソレーション・タンクといい体の比重と同じ濃度を持たせるために硫酸マグネシュームを使っていることが分かった。僕たちはタンクも硫酸マグネシュームも使わないでそれと同じ効果が期待できる方法について検討した。ヨルダンの死海では塩分濃度が高いために海水浴の人たちはみんな浮いてしまう。水温を高くして塩分を飽和状態に近くすれば死海のように体を横たえても沈まないでいられるはずである。タンクは部屋自体が防音、と光の遮断が出来ているのだから、温度調節の出来る浴槽のようなものを作ることで解決する。 さらに彼の助言に従ってピラミッドパワーも利用するようにした。金属パイプをピラミッド型に組み立てて、横たわったときに頂点の真下に頭がくるようにする。サウンドは音楽ではなくマメリカのモンロー研究所で開発されたヘミシンクという精神集中用のテープを使うこととなった。般若心経の読経テープも耳では聞き取れないくらいまで周波数を高くして部屋全体に流すというアイデアも採用することになった。 なぜそうするのかについて、彼は得々と説明してくれたが、興奮しながら聞いていた僕の頭はほとんど理解出来ていなかった。 「よしっ。君がいいと思うことは全部やってみよう。」と僕は叫んだ。彼は明らかに興奮している僕を抑えるかのように言った。 「僕たちのやろうとしていることは大変なことなんだよ。人間の意識というのはまだまだ分からないことばかりなのさ。映画ではあるかもしれないけど、こんな実験は誰もやっていないか、さもなくば発表されていないようなことなんだ。君はこれで意識を保ちながら夢がみられそうだと単純に考えているけれど、実験に入るまえに簡単に説明をしておこう。」 「君は自分とは脳みそも含めて体全体が自分だと思っているだろう。鏡に写る姿そのものが自分だと思うだろう。まあ、仕方がないね、学校でもそう教えるし、この世は物質そのものだというのが常識だからね。でもそれは自分の入っている入れ物の姿で自分自身じゃない。その体と、自分を自分と意識している心と、それらを生かしめている命の三つで、やっと自分自身ということが出来る。ボディーとマインドとスピリッツだ。」 「脳を含めた体はスピリッツが意識し、行動するための道具と考えたほうが正しい。よく脳をコンピュータに例えるけれど、その、ハードであるコンピュータへの電源こそがスピリッツであり、ソフトがマインドだ。人間であるコンピュータに電源からエネルギー伝わらなければ死亡し腐敗してしまう。ただスピリットは物質ではないから物質の肉体では認識できない。認識出来ないから存在しないのではない。」 「そういうものは他にもあるよね。電磁波とか。可視光線で見えるものはあると認識出来るけれど、それ以上やそれ以下の電磁波が存在していることは誰でも知っている。なければテレビだって映らないよね。見えない、感じられない、測定できないからといって存在を否定することは間違っている。この世界以外にも肉体では感じられない大きな世界があって、物質世界は我々が感じられる僅かな世界に一部だってこと知っておいてください。」 「夜、休息を取るために床につくと通常意識がなくなり肉体も眠る。だけどすべての意識が眠ってしまっているんじゃあなくて、スピリットは物質から一時的に解放されてスピリットの世界に戻るんだ。そこでの見聞や行動の記録はデータとしては残るんだけど、目覚めたときの狭い表層意識のスペースには持ち込めない。記憶の断片として残ったものが半覚醒の意識の脳の中で他のものとごちゃまぜになり、有り得ないような非現実的なストーリーの夢となって見られるんだよ。」 「我々の目的は通常意識を保ったまま肉体感覚を遮断して自分自身であるスピリットを認識すること。肉体と意識が別の存在であることを確認するんだ。意識が途切れることなく連続した記憶が鮮明に残れば、夢というよりは実体験として感じることができるだろう。臨死体験のようなものと同じになるだろう。霊脳者でもない普通の体質の僕らが手を出してはいけない領域のような気もするけれど、君も僕もどうしても気持ちを抑えることはできそうにもないから挑戦することにしよう。」 僕は神妙に頷きながら彼の手を握りしめた。必要な材料の手配をしてその日は別れたが、次の彼の休日になるのを待って作業を開始した。僕とは違って彼は真面目に勤めに励んでいたからだ。僕に指示を出しながら器用に大工道具を使ったりパイプの切断をしたりした。言い出しっぺは僕だったのに、主導権は完全に彼に移っていた。僕には多少不満だったが、いいのさ、成功すればと思った。(続く)
Last updated
2008.02.02 11:05:30
│<< 前へ │次へ >> │一覧 │ 一番上に戻る │ |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||