|
|
|
|
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
|
│<< 前へ │次へ >> │一覧 |
完全な防音と光線の遮断を改めて確認した後、縦2.5M横1.5M深さ80CMの浴槽に塩水を満たす。頭の位置が定まらないと困るのと、必要以上に沈み込むのを防ぐために頭のくる位置にはゆるやかなパッドを沈めてある。室温25度水温35度。それに一辺が3Mのパイプのピラミッドを天井から吊るしてある。サウンドと照明は最初の10分間だけで、しだいにフェードアウトしていくようにした。般若心経のテープは繰り返しずっと流れているのだが、可聴音域ではないので気にはならないはずである。
操作は部屋の外からするようにした。わざと一人では出来ないようにしたのだ。ただ、緊急用に右手の届く位置に中止に備えてブザーのボタンをセットしておいた。中断したければいつでも止めることが出来るようにしたのだ。一人でいつでも手軽にという僕の当初の目的からは少々はずれたが、こういう事は気軽にやることじゃあないという彼の忠告を入れたのだ。 いよいよテストをしようという段になった時、彼はバッグから二通の封書を取り出して一通を僕に手渡した・ 「本当は神主を呼んで清めてもらうのが筋なんだが、どうせ君は嫌がると思ってね。こうして祝詞を書いてきたから一緒に読んでくれ。全くの略式なんだが、やらないよりはね。君は僕に合わせて口パクをしてくれたらいいよ。」 仕方なく、この儀式にも付き合うことになった。東の方角に向かって一礼、二拍手。 「たかあまはらに かむつまります かむろき かむろみのみこともちて すめみおやかむいざなぎのみこと つくしのひむかのたちはなのおとのあはきはらに みそぎはらいたまうときに なりませる。 はらひとのおほかみたち もろもろのまがことつみけがれを はらひたまへきよめたまへとまおすことのよしを あまつかみ くにつかみ やほよろずのかみたちともに あめのふちこまのみみふりたててきこしめせと かしこみかしこみまおす。 あめのひつくのかみ まもりたまへさちはへたまへ あめのひつくのかみ やさかましませ いやさかましませ。ひとふたみよいつむゆななやここのたり ももちよろず。」 彼と同じように声を揃えて唱えてみると、なんだかおごそかな気分になってきたのは不思議だった。再び拍手を打ち一礼してセレモニーは終わった。仏教、神道、ピラミッドパワーから精神集中のヘミシンクまで宗教から精神世界ごっちゃまぜのごった煮みたいだけど、まあ、いいさ。うまくいけばいいんだから。 かくしてこれですべてが完了したようなので、早速テストということになった。 「まず僕からやってみるよ。何か不都合があれば僕の責任だから。」 ここでも僕は一歩譲ることになった。僕は部屋を出て居間に戻った。打ち合わせ通りにスイッチを入れれば後はやることはない。彼は今頃どうなっているのだろうか?暗闇で何が見られているのだろうか?いろいろ想像をしてみるが、まあ、どうせすぐに分かることだとかなんとか、言い聞かせながらテレビをつけてはみたが何を放映しているのか全然集中して見ることができない。 上の空とはこのことか。で、長く感じた一時間が過ぎて彼がバスタオルで頭髪を拭きながら居間に戻ってきた。上気した顔からは湯気が出ている。終わってシャワーで塩分を洗い流したのだ。何かを尋ねようとする僕を制するように 「まあ、あんなもんだろうね。」と一言いってニヤっとした。あっ、うまくいったんだ。何を見たんだ。早く話せよ。と僕の顔には書いてある。 「何もみてないよ。最初からうまくいくはずがないじゃないか。ただね、今まで自分の意識は頭の中心にあるとばかり思っていたんだが、少しずれているのがわかったよ。このずれを少しずつ移動出来れば体から意識を離すことが出来そうだ。練習すればうまくいきそうだよ。とりあえずは成功だよ。ともあれ話すより体験だ。君も早く試してごらん。」 いわれなくともやりますよ。さっきからうずうずしていたんだから。 部屋に飛び込むと、脱ぎ捨てた衣類はそのままに急いで浴槽に身を横たえる。すこしぬるめのお風呂に入っている感じだが、室温は高いので寒くはなく気持ちがいい。ヘミシンクの機械的な音を聞きながら深呼吸を繰り返す。やがて音と光が消えてゆく。目を開けても深い闇が広がるだけだ。自分の体の重力感もほとんど感じない。手足を広げたり閉じたりしてみる。思い切り広げれば浴槽の淵に触って感覚が戻るがそうでなければ空中に浮かんでいるような感覚だ。自然体にしてただじっとしていると次第に意識が薄れてていくように感じる。ここで眠ってしまってはいけないのだ。 そうだ、ここでは何か一つのものを心に描いてそこに意識を集中するように言われていた。そうだ、光だ。光の輪が体を中心にして何重にも重なり合っているようにイメージしよう。そして光のリングは回り始め、ゆっくりと、そしてだんだんと速くなっていく。体全体が光に包まれて暖かくなっていく。ああ、なんて気持ちいいんだろう。うまくいきそうだ。と、思った瞬間、僕の意識はまったく異質のものに遮断された。 僕はさっきコーヒーを飲むつもりでやかんでお湯を沸かしていたことを思い出した。ガスコンロの火を消さなくては。彼が気が付かないと火事になる。いったん中断すれば平気だよ。思考が頭の中を駆け巡りだした。中止のブザーがあるじゃないか。ブザーはどこだ。右手のどこかにあるブザーを探す。必死で手を伸ばす。何も接触するものがない。なぜだ。どうして?お湯の中にいるはずなのに、その感覚もない。右手だけでなく、左手も、そして両手でも、両足をばたつかせても何にもどこへも届かない。 僕はパニックに陥った。真っ暗闇の中なのに頭の中が真っ白とはこのことだ。僕はどうなったのだ。こんなになったら、どうするべきか聞いておくべだったが、もう遅い。あせればあせるほど、頭がぼやけていく。第1章 夢発生器 終
Last updated
2008.02.03 11:04:21
│<< 前へ │次へ >> │一覧 │ 一番上に戻る │ |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||