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奥さんと菫さんが、スペースボートに乗り込んで出かけるのを見送った。音もなく数メートル浮き上がったかとおもうと、すーと消えるように見えなくなった。凄いスピードなのだろうか。
僕は勧められるままに、傍らのベンチに腰をおろす。いつ戻ってきたのか犬が寄ってきた天城氏に甘えかかる。 「何という犬種ですか?ずいぶん大型ですね。」 「これはピレニアン・マウンティン・ドッグです。ピレネー犬ともいいますね。菫にせがまれてクリスマスにプレゼントしたのですが、私のほうになついています。だから名前もノエルというんです。」 犬のこともさることながら、僕の頭の中は聞きたいことがいっぱいで、何から尋ねたらいいのか迷うほどだった。 「今は季節でいえばいつごろなのですか?」 「いつごろに思えますか?」 「とても爽やかで気持ちが良くて、五月頃じゃないかと思いますが。」 「今は二月半ば、もうすぐ春ですが、季節で言えば冬なんですよ。 「ということは、暖かい所なんですね。でも日本なんでしょ。」 「ええ、ここは日本です。でもあなたの時代の感覚では寒いところになる場所ですよ。ここは北海道なんです。北海道の日高地方。」 「二月の北海道といえば日本でも一番寒い地方だと思いますが、どうしてこんなに暖かいのでしょう。」 「地軸が移動したので、地球的規模で以前の気候とは変わってしまいました。極地は依然として厳しいものがありますが、地球全体からみれば温帯地域が広がり住みやすくなったといえるでしょうね。砂漠だったところが草原に変わったりハリケーンや台風のような暴風、地震も昔に比べたらずっと少なくなりました。」 「どうしてそうなったのでしょうか?」 「私が知るところによれば、偶然そうなったのではないと聞いています。地球人類の意識に変革が起きて人々が自然の摂理に叶った生き方をするようになったことで、地球全体の波動が高くなり次元の上昇が起きたと聞いています。このことについては、もっと詳しくご存知の方を、後ほど紹介しますので、その方にお尋ねください。」 「ありがとうございます。お仕事についてお尋ねしてもいいですか?」 「どうぞ、構いませんよ。知っていることは何でもお答えしますよ。」 「今はどんなお仕事をなさっているのですか?今日は僕が突然お邪魔してしまったので、お仕事に差し障りが出ているのじゃないかと心配しているのですが。」 「スケジュールはありますが仕事は自分で時間を決められますので、ご安心ください。仕事は家屋のメンテナンスが主な仕事です。建てるほうではなくて、修理が専門です。チームを作って修理が必要な家庭を巡回しています。家内はナースです。近くの病院に所属していて必要に応じて勤務しています。」 「共稼ぎをされているのですね。失礼な質問で差し障りがあればお答えくださらなくても結構ですが、どれほどの月収があるのですか?すみません。未来社会の経済にも興味がありますので。」 「失礼でもなんでもありませんよ。とても良い質問だと思います。お答えしましょう。いくら働いても収入はないのです。」 「ああ、ボランティアとして活躍なさっているということですね。素晴らしいことですね。僕もボランティア活動をしなくてとは思っているんですが、どうも適当なのが見つからなくて。ということは、生活費は資産が稼ぎ出しているということですね。僕がお聞きしたかったのは、今は平均的な家庭で一ヶ月どれほどの生活費が必要かという意味です。」 「はいはい、意味は分かっていますよ。生活費は現在ではどの家庭でも必要ないのです。変化したのは環境だけではなくて、社会システムも変化したのです。今では貨幣というものが使われていないのです。もちろん、お金に代わるキャッシュカードやクレジットカードなどというものもありません。昔は命の次の大事なのはお金と言われていたそうですが、お金がなくても生活に困ることはありません。必要なものは何でも必要なときに手に入ります。衣食住はもちろん、教育、医療、福祉といったこと、趣味やスポーツ、芸能など生活を楽しむためのものも全て無料ですから、貨幣を得るために労働する、給料や報酬を得る必要がないのです。」 「これは驚いたな。お金がない世界になるなんて。これを知っただけでも未来にきた価値がありました。でも人によっては働くのが嫌いで、楽なことばかりして遊んでばかりいたいという人ばかりだったら、このシステムは破綻しますよね。」 「その通りですね。そうした人が多かったから昔はお金が必要だったのかもしれませんね。今はそういう人もいないわけではありませんが、ほとんどの人たちが自分が楽をすることより、他人のためになりたいと考えているからお金が要らなくなったといえますね。先ほども言いましたが、意識の変革がこのようなシステムを生み出したのです。誰もが働けるうちは働いてひとさまのためになりたいと考えているのです。断言しますが、自分のためだけを思っている人はほとんどいません。人の嫌がるような仕事ほど人気があるというのも面白いでしょう。もっともっと多く働きたいと思っている人も多いのですが、まんべんなく誰にも仕事が行き渡るように、一日、一人2時間から4時間程度働くように調整されているのです。」 「タダで安易に物が手に入れば、物を大事に使わずに使い捨てや、必要以上の消費につながりませんか?」 「そうはなりません。もったいないとか、大切に使う、活かして使うという意識が強くなります。生産者から消費者へ気持ちが伝達していくのです。作り手の真心がこもっているものを無駄には出来ません。」 「需要と供給のバランスはどのように保たれているのでしょう。」 「その点はいたって簡単です。どの家庭にもコンピュータの端末がとどいていますから、どこに何が必要なのかは機械的に処理されます。どのようなものにも地球規模で需要と供給のバランスが計算されて処理されていますから、作りすぎて困ったり、足りなくて困ったりすることはまずありません。コンピュータの性能も向上しましたし、輸送もスペースシップで行いますからタイムラグを気にすることもありません。」 「デパートや商店街などでのショッピングは楽しみの一つですが、わざわざ買い物に出かけることはないんですね。」 「デパートは残念ながらありませんが、同じようなものがディスプレイセンターで、新しく開発された商品や素材やデザインが展示されていますから、そこでオーダーしてもいいですし、ショッピングの真似事のようなことは出来ます。」 「それでは、注文に応じて生産できるものについては分かりましたが、宝石などの貴金属などに問題は起きませんか?」 「今の人たちは執着心というものが、それほど強くはありません。しかし、全くないわけでもありません。気に入ったものへの愛着、思い出のあるものはやはりいつまでも手元に残したいものです。人間として当たり前のことです。ですから、そういったものは手元に残せばいいのです。しかし、そうでないものは、ただ持っていて使わなければ価値がないわけですから、所有せずに返却することになっているのです。昔は希少的価値を金額で計っていたわけですが、現在はお金がないわけですから価値を換算する方法もないのです。」 「住まいとなる住宅なども無料で供給されているのですか?」 「もちろんそうですよ。昔は一生かかって住宅ローンを払っていたという話を聞いて驚いたものです。それでは何のために生まれてきたのか分かりませんからね。現在のようなシステムに移行するのに、一番時間のかかったのが住宅の問題でした。これは強制されたシステムではありませんから、頭では理解できていても不動産というか、土地の権利の問題は大きく考えれば国境という問題にまでなりますから、土地の個人的所有を放棄するのに時間がかかったのです。また、世界中に住宅を供給する事業もたいへんなことだったのです。」 「分かりますよ。僕自身、すぐにそうしろと命令されたら拒否すると思います。」 「土地の権利とはいったいなんでしょうね。よく考えれば分かることですが、地球は誰のものでもないはずです。所有する権利など誰にもないにも拘わらず、そうしてきたのは強いものが弱いものを支配する構図のなかで勝取ったものにラインを引いて所有権を主張したのです。そのために、どれほどの血が流されたか、歴史が語っていますね。」 「住んでみたいと思えば、どこへ住んでもいいのですか?地域格差のようなものはありませんか?」 「住居を置くのに適した場所ならば、お望みの場所に住むことが出来ます。都合上、昔の国の名前がそのまま使われていますが、国境線のようなものはありません。環境格差は当然ありますが、それだからこそ特色があって気分も変わり楽しいのです。夏涼しく、冬暖かいところで暮らすことだってできますよ。私も世界中いろいろな環境を楽しんできましたが、今は両親の生まれた日本にいるのです。」 「羨ましい限りです。僕の時代では夢のまた夢のようなお話です。」 「私はあまり人が集まるような場所を好みません。今では仕事と生活をつなぐ時間的なロスがありませんから、こんな人里離れたような場所に住むことが出来ます。私がここを気に入っているのは、ここは大地の磁場エネルギーが強いのです。分かりやすい言葉で言えば癒しのエネルギーが出ている場所なのです。大地の出すエネルギーとそれらに育まれた自然の出すエネルギー、そして私たち人間の出す愛のエネルギーの相互作用によって波動がますます高められるのです。」 「大地からのエネルギーを感じることが出来るのですか?」 「ええ、とても感じますよ。もともと地球は磁性体なのはご存知でしょう。磁場エネルギーの放出は地域によって偏りがあります。地殻変動によって移動もします。古代人はそのことをよく知っていたので、そのような場所へ集落を作ったのでしょう。また今もそのような場所が見直されてきているのです。」 「集落といえば、東京やニューヨークやパリといった大都会はどうなりましたか?今もありますか?」 「ええ、ありますが、今やあなたの時代の面影は残してはいないでしょうね。都市としての機能を終えた町として歴史的意味があるだけですね。大地のエネルギーは枯渇してしまっているでしょうね。後ほどご案内します。」 第三章 終
Last updated
2008.02.06 10:33:59
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