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映画の画面を見ているように、外の様子はズームアップして地球はみるみる拡大していった。降下している感覚も落下している感覚もなく視界だけが変化していく。やがて情景は一瞬雲の中へ入ったようにホワイトアウトしたが、次に飛び込んできたのは地図で見たとおりのオーストラリア大陸だった。そしてオーストラリアの西部に向って接近している。たしか僕の記憶が正しければビクトリア砂漠のはずだが、あの赤茶けた土の色ではなくて緑色に見える。
「かつてこのあたりは砂漠でした。どうです、今は見事な穀倉地帯になりました。」 天城氏の声はいくぶん得意そうに聞こえた。さらに高度が下がると定規でもあてたようなまっすぐな区画ラインが見えた。見渡す限りの作物畑が風に揺れているのが波打っているようで、緑の海に浮かんでいるような気分だ。はるか彼方にエアーズロックが霞んで見える。 「気候状態が変わって、このあたりは作物の成育にはとても良い場所になりました。大豆やとうもろこしがとてもよくとれます。ここだけではなく、それまで乾燥して荒涼としていた土地が草原や穀倉地帯になった地域はたくさんあります。アジアや南北アメリカ、アフリカなどで地球規模での需要と供給のバランスをとりながら食料生産が行われているのです。気象と大地のエネルギーの変化、微生物を利用した土壌の改良などにより病虫害などの被害はほとんどなくなり、危険な農薬を使う必要もなくなりましたし、化学肥料なども、今は使われておりませんが、面積あたりの収穫量は以前の倍以上が得られるのです。」 「農業といえば生活に欠かせない最も重要なものでありながら、天候に左右されることが多く、過酷な労働のわりには収入が安定せずに嫌われていますね。」 「小さな地球にボーダーラインを引いたり、個人や国家の権利を主張して細分化された土地から効率よく農産物が収穫できるはずがありません。美食におぼれ、贅沢の限りを尽くしているような人々がいる反面、飢えに苦しんでいる人たちが大勢いましたね。農産物を投機の対象にしている人もいましたね。食肉の生産は穀物を必要以上に無駄にします。過去の反省に立ち計画が立てられていますから、今は食べることを心配して生活している人はどこにもいないのです。」 機体はやや上昇しながら南下しているようだ。厚い雲に一瞬視界を遮られた後、眼前に見えたのはどこまでも広がる草原だった。彼方には白い氷河に覆われた山々が美しい。ここはどこだ。僕は方向感覚を失っていた。 「ここはどこだか分かりますか?」 「いいえ、分かりません。我々は南に向っているのだと思っていましたが、オーストラリアの南は南極しかありません。」 「そう、それで正解です。ここは南極です。私たちはインド洋の南端にあるデービス海から南極大陸を眺めているのです。」 「えー。」と僕は声にならない声をあげた。 「南極といえば年中厚い氷に閉ざされていたと思いますが、溶けてしまったのですか?」 「ええ、溶けたのです。地軸のずれがこの大陸を永久凍土から解放したのです。現在の南極点はアムンゼン海にあります。依然として厳しい寒さですが、今は短い夏の盛りで、こうして緑に覆われて可憐な花たちも咲き誇り、太陽の光を味わっているのです。」 それにしても、汚れなき美しさとはこのことか。山も川も緑もきらきらと輝いているように見える。 「あなたがもっと驚くようなこともありますよ。」と天城氏はいたずらっぽく言った。 「実は氷河の下から多くの遺体や遺跡が発見されたのです。かつてこの大陸は氷に閉ざされる前は人類が生活していたのです。この星は過去に幾度も地軸のずれを経験してきたのです。以前にはもっと温暖で生活に適した土地であった証拠が残っていたのです。寒さがずっと冷凍保存していてくれたのです。」 氷河に囲まれた美しいパノラマを満喫したあと、僕たちは機首を北東に向けた。タスマニア島をかすめてオーストラリア大陸を回りこむように進むと、すーと高度を下げた。目の前には紺碧の海原が広がる。ここは間違いなくグレートバリアリーフだろう。 「スペースボートは空中を飛行できるだけではありません。水中にも自由に潜水できるんですよ。今度は水中をご覧にいれましょう。」 天城氏はゆっくりとスペースボートを海の中へすべりこませた。突然、僕たちは水族館のお客になった。大小、さまざまな熱帯魚が目の前を驚きもせず泳いでいる。なんだか自分も海中の生物になったような錯覚を起こす。スキューバダイビングの経験はないが、きっとこんなだろう。酸素マスクもつけないで。 「いかがですか?神は最も偉大な芸術家であるといいますね。こうして自然のものは自然のなかに置いておくのが一番です。今ではこうしたことが出来るので、水族館や動物園はありません。」 「ところで、やっと気がついたのですが、この中の空気はどのようにして調節しているんですか?大気圏外にいたときも、こうして水中にいるときも、息苦しくはないし、そうかといって調節装置もないようですが?」 「何も調節はしていません。出発する時、青白い光がスペースボートを包んだのをご覧になりましたね。あの時から、この中は外の外気と遮断されています。外と中ではバイブレーションが違います。中の波動を高めてあるのです。ですから、このスペースボートでは物理法則では説明できないことが起こります。例えば、これはとても高速で飛行しますが、急に止まっても発進しても慣性の法則は感じなかったでしょう。大気圏外にいても水中にいても、気圧や湿度を気にすることはありません。それから、もう一つ。あなたの腕の脈を測ってみてください。」 言われるままに右手で左手首を押さえてみた。なんということだ。脈が止まっているようだ。慌てて心臓を押さえてみたが、やはり鼓動がしない。 「心臓が止まるほど驚いたでしょ。」と天城氏は笑いながら説明してくれた。 「止まってしまったのではないんです。とても少なくなっているのです。この中にいるとあなたも影響を受けるのです。新陳代謝がゆったりとして寿命も延びると言われています。呼吸回数も減りますが、息苦しさはないでしょう。あなたの波動も上がっているのです。さきほど地球のオーラが見えたでしょう。宇宙飛行士も同じ地球は見えたでしょうが、オーラは見えなかったはずですよ。今なら意識すれさえすれば、すべてのオーラが見えるはずです。」 言われてみれば、確かにゆらめく海草にも泳ぐ魚たちにも輪郭にそって発散しているオーラが見える。そして、そういう天城氏の体からも回りの壁からもオーラが出ていた。 「見えるでしょう。オーラは生体エネルギーの一種と考えられていた時代もあったようですが、岩石や金属からも出ています。物質とは意識が波動を下げたものです。低ければ固体となり高くなれば見えなくなります。」 「バイブレーションの合う奴といえば、馬の合うやつと同じくらいにしか考えていませんでしたが、バイブレーションの本当の意味が分かってきました。」 「私の言うのは根源的な意味合いにおいてということです。この物質世界というのは波動の低い世界ですが、潜在する能力の開発や霊性の向上によっていくらでも波動は高めることが出来るのです。それが人類の究極の目的です。」 巨大な糸巻きエイが僕たちの横を気にも止めずにゆったりと泳ぎ去っていった。スペースボートは浮上して水面に戻ると、そのままいっきに上昇し、はるか彼方に見えてきた大きな島に向った。頂が雪に覆われたひときわ高い山がマウントクックだとすれば、ここはニュージーランドではなかろうか。山脈を見下ろしながら降下して大きな湖の上空でピタリと停止した。岸辺にはジョギングやサイクリングに汗を流す人たち、散歩する人、気功のようなダンスに興じる一団、ベンチでくつろぐカップル。みんな絵葉書のような美しい自然の中に溶け込んで風景に一部になっている。 「ここはニュージーランドのテカポ湖です。ここは昔から自然の恵みに満ちた美しい町でした。現在ここには世界中からの情報が集計されるセンターとリーダーたちの会議場が置かれています。世界中からの情報はセンターで細かく分析されて指示が出されます。今や世界は一つの共同体です。富めるものも飢えるものもいなくなりました。」 「国連と同じような組織と考えていいですか?」 「いいえ、まったく違います。全世界は個人のネットワークで結ばれており、中心的支配者はいません。ほとんどはネットワークが自動的に決定します。影響を与えているリーダーというのは、昔の政治家のような存在ではなく、あなたの時代にはいなかった存在ですね。例えるものがないので、説明しずらいのですが、いわば霊性の一段と高い長老のような存在とでもいいましょうか。判断に困ったときなどの相談役とでもいいましょうか。しかし彼らが世界に君臨しているわけではなくて、生き方の模範を示している教師といったらいいのかな、そんな存在です。分かりますか?」 「イメージとしては、なんとなく分かるような気がしますが。」 「波動が高くなると、直観力も高まって相手がどのような方か分かります。意見が別れることはまずありません。トップリーダーと呼ばれる方たちはリーダーたちが選んだ方たちですから間違いありませんが、そのような方たちも特別な処遇があるのではなくて、お役目として引き受けてくださっているのです。」 地球の姿 終
Last updated
2008.02.09 19:10:33
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