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僕たちはテカポ湖のほとりにある駐機場にスペースボートを止めると湖畔を散策してみることになった。機外に出てみると、真夏の陽射しがまぶしかった。ジャケットを脱いで小脇に抱えると鮮やかな緑色の葉の間からの木漏れ日を浴びながら歩いた。木立のなかを通り抜けると小さな古い教会が美しい山々を見上げるようにして建っている。
僕たちは教会の入り口のそばのしゃれた感じのカフェテラスに入ると天城氏は何やら注文して戻り、僕を傍らの椅子座らせて自分もテーブルの向いに腰を下ろした。大きな窓の外にはコバルトブルーの湖に、雪山の白が生えて美しい。こんな自然のままのような田舎町に世界の情報の集中センターが置かれているのも、霊子エネルギーを使った移動システムが出来たおかげなのだろう。 僕には信じられないようなことばかりだけれど、もっと信じられないことがまた起きた。それは、長い栗色の髪の美しい少女が冷たい飲み物の入ったポットとグラスを運んできてくれたときのことだった。 彼女は確かに英語で話しかけてきたのだが、僕には彼女の言っていることが全部はっきりと理解出来たことだった。僕は英語は話せない。でも相手が何を言っているのか分かったおかげで、慌てないで日本語で答えたのだが、その僕の日本語も相手の少女には理解できたようで、僕たちは日本語と英語でコミュニケーションが出来たのだ。心と心で会話しているような感じだった。僕は驚きと嬉しさでいっぱいになった。 「どうかくつろいでゆっくりなさっていってくださいね。」といって彼女が去っていった後、天城氏が説明してくれた。 「テレパシーという言葉をご存知でしょう。言葉を交わさないでも相手に意志を伝えることですが、今、あなたは言葉は交わしましたが、実際はテレパシーで意志を交換していたのです。」 「超能力の一種として、そんなことの出来る人がいることは聞いたことがありますが、私にはそんな能力はありません。驚きました。なぜ僕に出来たんですか?」 「サイキックパワーというのは誰にも潜在的にはあるのですが、昔は発揮出来る人は限られていたのです。今はほとんどの人がこの能力を使うことが出来ます。今のあなたは意識が未来社会に同化してきたので発現したのでしょう。」 「知らない外国語を話す人ともコミュニケ-ション出来るなんて素晴らしいことですが、相手の気持ちがそのまま伝わってしまうのは嘘もつけないということですよね。」 「そういうことですね。それではいけませんか。」 「いいや、いいんですが、嘘も方便といいますから、全て相手に知られてしまったら人間関係がぎくしゃくするようなことがあるような気がしたんです。」 「人間性が大きくなるということは、ささやかな嘘などさほど問題にはならないということです。嘘と分かって騙されてみるのも楽しいではありませんか。」 冷たいレモネードをいっきに飲み干して未来社会の教育や医療について質問してみた。 「私の理解している過去の教育システムの問題点は、個性を無視した画一的な詰め込み教育と親子と教師のコミュニケーションの不足に欠点があったように認識しています。教科書を理解させることより、記憶させることに重点が置かれていたり、受け入れる社会も学歴尊重主義でしたね。 人がこの世に生を受けるということは、それぞれ別の目的を持って生まれてくることを忘れてはいけません。教育において最も大切なことは、個人の能力に応じたカリキュラムを用意することです。人は知識を手にするのが目的で生まれてくるのではありません。知識を体験するために生まれてくるのです。 かつて古代ギリシャの哲学者プラトンはこう言っています。人間は知識を学び入れていくのではなく、既に知っていることを思い出しているにすぎないのだと。教育とは無限の英知を目覚めさせる手助けにすぎません。学校だけが教育の場ではありません。私たちは人生全体が教育であるという立場から、学校教育だけに全てを求めてはいないのです。学校は大勢集まっての共同作業で協調することの素晴らしさを学ぶことが出来ますし、全体における個に目覚めさせる場でもあります。そして社会生活の基本ルールを学ぶ場でもあるのです。 それでは現在のごく標準的な教育システムについてお話しましょう。おことわりしておきますが、今は義務教育というものはありません。本来教育というものは義務で受けるもではないからです。まず始めは適当な年齢になると集団生活になじませるためにサークルに預けられます。適当な年齢というのは決まった年齢というのはないからです。だいたい5歳ぐらいが多いようです。幼稚園のようなものと思ってください。期間も決まってはいません。慣れるにしたがって預ける時間も長くなります。様子を見ながら次のステップに進んでいきます。さらに大きな集団のなかに入っていきます。小学校の低学年程度でしょうか。ここは全寮制になっていて帰宅するのは土曜、日曜だけです。そして次のステップでは登校日も登校時間も学習時間も各人各様で違ったカリキュラムら用意され、選択肢も広がっていきます。テストもありますが、それは他人との比較のためではなく、上のレベルに進むかどうか決める理解度のチェックのためだけです。 あなたは未来のカリキュラムについて興味がおありだと思いますが、残念ながら内容的には昔とたいして変わっていません。知識は時代が変わろうと同じものだからです。ただ教え方が変わったということなのです。マンツーマンとまではいきませんが、出来うる限りの少人数で指導しています。一人一人を見ていると、まるでばらばらで統制が取れていないようで、各人が違うことをしているように思われるかもしれませんが、それらを教師が注意深く観察していきます。こうして個性が育っていくのです。個性を伸ばしながら全体の調和を図っているのです。特にコミュニケーションは大切です。その日のうちに親子や教師の連絡や話し合いが行われ信頼関係が育まれていくのです。 当然のことながら、苦手の科目は時間がかかりますし、得意な科目は速く進みますからバランス良くというわけにはいきませんが、持って生まれた能力はみんな違うのですから仕方がありません。子供の成長に合わせた入学や卒業ですし、いつでも自由に学び疲れたら休み復学も自由です。」 「あっ、それはいいなあ。僕は数学が大の苦手なんですよ。因数分解や方程式なんて実際の世の中に出たって少しも役に立たないし、そんなことに時間を浪費するなんて馬鹿馬鹿しいことですよね。」 「でも自分の身に起きることは全て必然といいますから、あなたにとっては苦手な学問に悪戦苦闘することに意味があったのかもしれませんよ。」 「そうなんでしょうか。ところで過去にはなかったような分野の研究が始まっているようなことはありませんか?」 「大きな違いは物質科学に偏重した研究はされなくなりました。かつては哲学でいう形而上学と形而下学を分離して考えてきましたが、それが間違っていたということです。互いに関連し合っているんです。さきほどの超能力も今では不思議な力としてではなく、日常利用する能力、当然あり得る力として研究されています。右脳の持つ直観力は研究されているだけでなく、いかにしたら開発できるかが試されています。昔よりはずっと地球の波動、人類の波動が高くなりましたから、誰しもが使える当たり前の能力なのです。」 「教育についてはおおよそのことは分かりました。次は医療制度について教えていただけますか。」 「分かりました。お話しましょう。現在は貨幣が使われていませんから、医療費というものがありません。そのための保険もなくなりました。病気や怪我の治療に経済的な心配はなくなりましたが、病気そのものはなくなったわけではありませんので、病院はありますが、昔とくらべたら格段に病人が減ったことでしょうか。違いといったらそれだけです。今の社会はストレスとなるようなものは極力起きないように運営されています。また公害とされるようなものは見当たりません。先天的因子を持つ方は昔も今も変わりませんが、後天的要素は全くないわけではありませんが、日常の生活を送るうえで原因となるようなものは排除されていますので病気そのものが少なくなったのです。」 「未来社会がそのようになることが分かっただけでも、こちらへ来た価値がありました。僕たちの社会はシステム自体が病んでいますし、環境は汚染されています。それに加えて高齢化社会を迎えて保険をどうするのかという問題もあります。国の財政は大赤字ですから、医療費は改正されるたびに負担率が上がっていくという悪循環になっています。これからは貧しいと医者にもかかれないような人たちが多くなりそうなんです。」 「心配しなくても大丈夫ですよ。未来は明るいと信じてください。物質的なことだけで判断はできませんよ。意識の力をもっと信じてください。意識が未来を変えるのです。特に病気に関しては大きく作用するのだということを力説しておきたいと思います。」 「それには何かきっかけが必要ではないかと思いますが。」 「そうですね。あなたにとっては、これはとても良いきっかけになったと思いますが、人類全体のことを考えなければなりませんね。」 「いろいろ伺っていると、未来は素晴らしいものになっていくことは分かりましたが、僕は現実主義者ですから、僕にとっての今を考えるとどうしても悲観的になってしまいます。出来れば、もうこのまま元の世界には帰らずにこのままこちらにいたいような気分になってしまいました。」 「それがいけないのです。希望を捨てないでください。人間というものは苦労の中から成長していくのです。現在の試練を体験することで、素晴らしい未来が迎えられると考えていただきたいのです。辛いとは思いますが人類にとって超えなくてはならない峠にさしかかっているのです。夜明け前の一番暗いときなのです。もう少しすれば朝の光が差し込んできます。相応の時が流れたのち、確実に人々の意識に変化が起きて素晴らしい世界に生まれ変わるのです。」 森と湖の町で 終
Last updated
2008.02.11 12:03:52
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