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話が一区切りついたところで帰ることにして駐機場に戻り、僕たちは再び空中に舞い上がった。ポリネシアなのかミクロネシアなのか豆粒のような島々が雲の白さに溶けてしまうと、天城氏は振り向いて下を見るように指差した。もう日本列島だと言っている。南半球から北半球へ戻るのもあっという間の速さで、一瞬で空間移動をしているように感じてしまう。地形がはっきりとした形になったところでスピードを落とした。ここは沖縄の上空だそうだ。
「地球の地軸がずれたために、それにともなってプレートの配置も変化がおきました。地球はとても柔らかいのです。地軸のずれは僅かでしたが、コアやマントル層にも影響を与え地表も変化しました。このあたりはフィリピン海プレートの上にあったのですが、太平洋プレートの圧力を受けて地表が隆起したのですね。沖縄は琉球列島という大小の島の集まりでしたが、今は九州地方と地続きとなっています。」 「日本の面積が広くなったのですか。それにはそうとう大きな地震やら津波が起きたのではありませんか?いつか大きな天変地異が起きるとは友達が話していました。」 「確かに人類にとっては非常に大きな試練だったのではなかったかと思います。しかし、過去にも幾度かこのようなことはあったようですし、もっと大きなポールシフトが起きたことがあったとも聞いています。地球も生きていますから、大陸や海洋が姿を変えていくのです。人類がそのたびに滅びてしまったら進歩は望めないことになってしまいます。私は生まれていませんでしたから、記憶はありませんが、これからご紹介する榊先生は、その時代を生き抜いてこられた方ですから、直接お尋ねになったらいいでしょ。」 「そうですよね。僕たちは百年後にはこのような未来を迎えることになるんですよね。ところで、その榊先生はおいくつぐらいの方なんですか?」 「確か1980年のお生まれと聞いていますから、今年で125歳になられるはずです。」 「えっ、僕と同じだ。でもこちらは百年後の世界なんだから、そんなお歳になるんですね。でもそんなお歳の方にちゃんとしたお話がが伺えるんですか?」 「全く心配要りませんよ。お会いになれば分かります。きっとお若く見えるのにも驚くと思いますよ。さて、それはそれとしてここは今、とても発展しています。昔は沖縄と言えば米軍の基地があったんでしたね。今はそんなものはありませんが、アジア地域の物流の中継基地として益々発展を続けています。」 天城氏は私を安心させようと、すべてうまくいくから心配しないで、大丈夫と力強く繰り返して言った。海岸線に白い波が押しては戻す単調なリズムを刻んでいる。ここからは見えないが、きっとココナッツの林の向こうには物流基地があるのだろう。大型のスペースボートが頻繁に発着陸を繰り返しているのが見える。僕はいつしか未来の姿と現実の姿をダブらせていることに気がついた。僕の世界では今も弾薬や兵隊を満載したジェット機が、あのスペースボートと同じように発着陸を繰り返しているのだ。 僕はしばらくの間、目を閉じて考え込んでしまった。僕の様子を察してくれたのか、天城氏も、ただ黙って前方を向いたままだった。そして僕がやっと目を開けたとき、見覚えのある風景が眼前に広がっていた。日本人ならおそらく誰もが知っている風景、雲間から首だけを覗かせている富士のお山だった。 頂は雪化粧をして、それが陽の光に輝いて、まさに霊峰の名に恥じない美しさだった。麓から見上げる富士山もどっしりとして雄大でいいものだが、こうして空から眺める富士山の素晴らしい。けれど、何か記憶にあった富士山とはどこか違っているようにも思えてくる。 「あれは富士山ですよね。」 「そうです。」 「どこか違っているように感じるのですが・・・。」 「気がつきましたか。富士山も成長したのです。少しばかり身長が伸びたのです。」 ということは富士山は再び噴火したということなのだろう。確か富士山は休火山だと聞いていた。だったら噴火して高さが変わってもおかしくはない。機体は相模湾から関東平野に向っている。 「このあたりが、かつて首都が置かれていた東京の上空です。」 高層ビルの乱立していた超過密都市の面影はない。まるで公園のようになっている。空中にはそれでもスペースボートやスペースシップ、エアロバイクがキラキラ光ながら行き交う姿は目にするが、地上に蟻のように這い蹲る車や人の群れはなかった。高速道路も車の渋滞もなかった。僕の想像していた未来像とは、およそかけ離れた景色が眼前に広がっていた。いたるところに森があり樹木が茂り小川が流れ集落や広場が点在していた。 東京湾を往来していた大型のタンカーや輸送船の姿もない。コンテナの積まれていた埠頭は自然の岸辺へと戻されて葦がうっそうと茂っている。僕は未来をみているはずなのに、まだ東京が発展していなかった頃の昔の風景を見せられているような気がしていた。 「いかがですか、あなたの時代とはずいぶんと変わってしまったでしょう。超過密都市だった人口は分散しましたし、高速道路や高層建築もありません。鉄道だけはまだ残っているところもありますよ。人間社会に都合よく作られていた人工都市ではなく、自然と合体し調和したコミニュティーとして生まれ変わったのが現在の東京です。そのほうがいかに合理的で暮らしやすいか、住んでいる方々にお聞きになればすぐわかることです。私たちは過去の教訓からそれを学びました。もちろん、それには霊子エネルギーが使えるようになったことが大きな力になっているのは間違いありませんが。」 「あそこに見える尖塔のような高い建物は何ですか。」 「ああ、あれは共同墓地のシンボルタワーです。今の日本では一番高い建造物です。今では人が亡くなっても個人的に墓地を建てることはしなくなりました。誰もが死ぬとお葬式のような葬送のセレモニーであの世へ送られたら、遺体は焼却されてお骨は共同墓地に埋葬されるようになりました。個人的に墓地の権利などを買って建てていたら、いずれ環境破壊になることが明らかだからです。人の死がいかなることかも現在では良く理解されるようになりました。」 「宗教や宗派に違いがあってもですか?」 「ええ、一緒です。あなたの時代と現在の違いの大きな相違点の一つが宗教観であると思います。宗教の違い、民族の違いで多くの争いがあったことは誰もが学ぶ歴史です。歴史は進化するための教科書でもありますが、それを生かすも殺すも人類の選択肢なのです。」 「昔からのものはどうなっているのですか?」 「それ以前のものは、それなりに分けて埋葬されています。ご先祖様の信仰まで変えるわけにはいきませんからね。宗教別に整理されて、やはり共同墓地に祀られています。ご安心ください。」 上空から眺める広大な関東平野は緑色に覆い尽くされていた。大小の集落も点在してはいるが、それはまるで自然の添景物のように見事にマッチしていて違和感がない。 「下にゴルフ場が見えるでしょう。山を崩さなくても、人口が分散したことでこんなところにゴルフ場が作れるのです。他にも各種スポーツ施設がたくさんありますし、アスファルトで舗装された道路はありません。たくさんの樹木と治水、防災のための池や川は皆さんの努力によって自然回復されたものです。雨が降ればぬかるみが出来ますが、長靴を履いて歩くのもまた楽しいものなのです。」 「堤防もダムもないようですね。」 「そうですね。発電用のダムはもちろん必要がないからですが、一つには地球自体が落ち着いてきて災害が減ってきたこととも関連するのですが、過密地帯がなくなりましたから、災害が起きそうな地域に住む必要はありません。自然と共に生きることは自然を良く知ることでもありますね。自然は自然のままです。人間のすることは、そのお手伝いでしかありません。そのように意識を変えれば自然も応えてくれる、地球も変わるのです。本当の調和が快適な生活を約束するのです。さて、私の役目はここまでです。そろそろ家に戻りましょう。」 僕が地図で覚えた記憶とはやや違っていた。沖縄から九州にかけての南部にかなり大きな島が出来ていた。四国と中国地方も一部地続きになっていた。本州から東北にかけては、タツノオトシゴの腹が突き出たようにさらに折れている感じだ。北海道も角が取れて丸みを帯びていた。沿岸部は沈下したのだろうか。その丸っこい北海道の日高山脈の麓めがけて急降下した。そこにある広場が着地点だったからである。 「お疲れ様。着きました。空中ドライブはいかがでしたか?」 「いや、まったく驚くことばかりで言葉になりません。それに大変参考になるお話をたくさんお聞きできて、心から感謝しています。本当に有難うございました。なんとお礼を申し上げてよいのやら分かりません。」 「いいえいいえ、礼にはおよびませんよ。まだまだあなたはお知りになりたいことがいっぱいあるはずです。それはこれからご紹介します榊先生にお尋ねください。生き字引のようなお方ですから、何でも質問されたらいいでしょう。」 僕は何ども頭を下げながら、彼の後について集会場のような建物に入った。受付の女性がにこやかに僕たちを出迎え、先に立って奥の部屋に案内してくれた。ドアをノックすると中から 「開いていますよ。どうぞお入りなさい。」と低いが良く通る声がした。 部屋に入ると天城氏は僕を榊師に紹介すると、自分はこれから仕事に出かけるからと帰っていった。 「またお会いできますか?」と言う僕に 「もちろんですよ。いつでもいいですが、今度は自分の意志で来てください。」と、微笑みながら言ってドアの向こうへ消えていった。六 日本列島 終
Last updated
2008.02.12 10:45:09
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