昨日(5月12日)は南日本新聞会館みなみホールで柳亭市馬独演会が開かれ、やまもも夫婦も同独演会を大いに楽しみました。
私はこれまで市馬師匠の各種のCDを購入し(師匠の歌手デビューマキシシングル「山のあな あな ねぇあなた」も購入しています)、分かりやすい語り口と張りのある美声を楽しんでいましたが、昨年(2012年)の5月9日に開催された鹿児島市宝山ホールでの「東西特選落語名人会」で初めて市馬師匠の「片棒」という噺を実際に聞くことができ、期待を裏切らない素晴らしい高座を大いに楽しみました。
この「片棒」という噺、財を成した大店の旦那が三人の息子の誰を後継ぎにするかを決めるため、彼ら三人を呼んで自分の死後にどのような葬儀を執り行うかを訊くというものですが、次男坊が笛、太鼓に踊りや神輿で賑やかに葬儀を行いたいと語る場面で市馬師匠は見事に祭りの雰囲気を作り上げ、さらにサービス精神を発揮して美空ひばりの「お祭りマンボ」の一節を歌いましたから会場には拍手が響き渡ったものでした。
さて今回の柳亭市馬独演会は、開口一番に柳亭市助さんが高座に上がり、演目はお馴染みの「たらちね」でした。声がよく通り、落ち着いた語り口で「たらちね」を演じ、言葉遣いが馬鹿丁寧でなぜか漢文調のお清さんが長屋住まいの八五郎に嫁いで来た翌朝、長屋に天秤棒を担いでネギの行にやってきた八百屋さんに「のうのう、門前に市なす、賤(しず)の男子(おのこ)やおのこ」と呼び止め、八百屋がネギの値段を聞かれて「一把二百でございます」と返事をしましたら、お清さんが「なに、二百とな、召すや召さずや、我が君に伺うによって、そこな門の外に控えておろう」と言われたので、思わず「へへぇ~~っ!!! 」と平伏してしまうという滑稽譚を上手くまとめていました。
つぎにお待ちかねの市馬師匠が高座に上がり、マクラでお師匠さんで2002年の5月に他界した5代目柳家小さん師匠の思い出がまず語られました。この柳家小さん師匠は1936年に青年将校が起こした二二六事件に二等兵として巻き込まれた経験があり、昭和天皇の園遊会に呼ばれたときも、昭和天皇を激怒させたというこのクーデター事件のことをとても気にしていたそうです。そんな昭和天皇から「どうです、近頃、落語の方は?」と予期せぬ質問を受け、緊張しながら「お陰でだいぶ好くなりました」と返事をし、それでは不充分だと感じたのか「ご尊顔を拝し恐悦至極にございます」と落語世界の殿さまに仕える田中三太夫のような言葉を付け足したので、昭和天皇をびっくりさせたそうです。
マクラはつぎにお酒飲みの話に移り、酒飲みには酔うと「けっこう、けっこう、こけっこう」と鳴くニワトリ上戸などがいるとし、やたら歌を唄う上戸もいるとして、お客さんお待ちかねの美声を張り上げて「義理あるひとに背を向けて 別れてきたと君は泣く♪」と唄い出し、北島三郎の「薩摩の女(ひと)」の1番と3番を唄ったので会場は大拍手となりました。
唄い終わると噺は「禁酒番屋」に入ります。ある藩で酒の席での争いから死者が出たため、武士たちに酒を禁じ、登城する武士たちが城内に酒を持ち込まないように見張る禁酒番屋が設けられることになりましたが、酒屋の使用人たちがあの手この手を使ってこの禁酒番屋の役人の目を誤魔化そうとするのですが、番屋の役人も本当は酒が大好きなために両者の間に滑稽なやりとりがなされます。
「仲入り」の後、再び市馬師匠が高座に上り、演目として「御神酒徳利」(おみきどっくり)を語りました。この噺は、宿屋の二番番頭の善六がお店の御神酒徳利をどこにしまったのか忘れてしまい、後で思い出したときに主人に正直に言えず、女房から算盤占いで見つけたことにしたらいいと知恵を付けられます。そのため善六は算盤占いの大名人と称され、そのことを知った大坂の大店鴻池の支配人に鴻池の娘の大病を大坂まで行って占ってほしいと頼まれることになります。
旅の途中の神奈川で泊まった宿では薩摩の殿様の所持していた75両と将軍宛ての書状がなくなり大騒ぎしており、善六は算盤占いを頼まれます。彼は困り果てて夜逃げしようと考えますが、盗んだことを占いで言い当てられると心配した女中のお梅が人目を忍んで善六の部屋にやって来て事実を告白しましたので、善六は算盤占いで宿の庭のお稲荷さんが祠(ほこら)が壊れたままになっていることを怒って隠したのだと言って紛失物のありかを宿屋の主人に伝えます。
さらに大坂の鴻池では、夢にお稲荷さんが出てきて、善六の算盤占いの嘘のおかげで効力があるお稲荷さんだと評判を呼んで正一位に出世したから、鴻池の娘の病気を救う方法を教えてやると言い、その通り鴻池に伝えますと娘の病気は全快します。オチは、鴻池からお礼に大金をもらった善六が江戸に戻って女房にことの次第を話し、女房が「お稲荷さんのお陰だね」と感心するのに対し、善六が「いいや、かかあ大明神のお陰さ」と答えるというものです。この「御神酒徳利」は落語的滑稽さや馬鹿馬鹿しさに欠け、正直言ってあまり面白くありませんでした。妻は正直で「途中で眠たくなったわ」と言ってましたよ。