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カテゴリ:映画鑑賞
鹿児島市が舞台だというので映画「六月燈の三姉妹」(佐々部清清監督)を見てきました。
この映画は、大型ショッピングセンターの進出で客足が減少してシャッター商店街化した真砂商店街にある和菓子店「とら屋」を営む中薗家の人々に焦点を当てて描いたものです。同菓子店のみならず商店街の人々はみんな経営する店の活性化に頭を悩ませているようです。そんな個人商店を営む人々のなにげない日常を描いたハートフルな人情喜劇ですが、喜劇といっても次から次と爆笑がひっきりなしに起こるようなものではなく、私たちの身近にいるような人々の日常的な言動の中にあるなんともいえぬ可笑しさと哀しさをほんわかと描いたものです。一言でいえばフウテンの寅さんシリーズの鹿児島版ですね。 寅さんシリーズでは東京は葛飾柴又の草団子屋での寅さん、さくら、博、おいちゃん、おばちゃん、たこ社長たちが交す東京下町言葉の会話が楽しかったのですが、この映画「六月燈の三姉妹」では和菓子店「とら屋」や真砂商店街で交される鹿児島弁の会話がなんとも心地よく楽しいんですね。 これは私自身が鹿児島に住んでいるからということだけではなく、標準語会話にはない方言での会話にある温かさ、ぬくもりから来るものかもしれません。そう言えば、NHKの朝の連続テレビ小説「あまちゃん」は岩手県北三陸地方の漁村を舞台にしたドラマで、その地方で話される日常会話もとても温かみがあって楽しいものでした。同TVドラマで頻繁に登場した「じぇじぇじぇ」は今年の流行語の一つになりましたね。石川啄木の「ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」の短歌はとても有名ですが、東北方言に限らず、お国訛りでの会話は何とも言えぬ懐かしさや快よさを感じさせられます。 この映画「六月燈の三姉妹」の主たる登場人物は和菓子店「とら屋」を営む中薗家の長女・静江(吉田羊)、次女・奈美江(吹石一恵)、三女・栄(徳永えり)の三姉妹と彼女たちの母親の恵子(市毛良枝)、その恵子の元夫で現在も同家に居候して一緒に和菓子店を営む菓子職人の眞平(西田聖志郎)、次女の奈美江の夫で彼女から離婚を突きつけられ、それを思い留まらせようと東京からやって来た平川徹(津田寛治)です。 ところで、この中薗家の女性たちは男性との関係で苦労しているようで、母親の恵子はバツ2で長女の静江がバツ1、奈美江が離婚調停中なのでバツ1予備軍で合計バツ4ですから、恵子がいささか自嘲ぎみに店名を「とら屋」から「ばつ屋」に変えようかなどと言っています。まだ未婚の三女の栄は婚約破棄の過去があり、なんと現在も妻子ある男性と不倫中のようですよ。 母親の恵子が店名を「とら屋」から「ばつ屋」に変えようかという言葉に三姉妹のみならず観客からも笑いが起こりました。また眞平と平川が相互に「うんにゃ、うんにゃ」と否定しあう場面で、東京育ちの奈美江が「もういいわよ、ニャンニャンと」が怒り出す場面もなんとも可笑しかったですね。なお、東京で税理士事務所を経営する平川は都城生まれとの設定ですが、この都城は現在は宮崎県に属しますが、島津の藩政時代は薩摩に属し、日常会話はいまも鹿児島弁とのことです。 都城と言えば、観客たちが一番大笑いしたのは静江のお見合い話が中薗家で語られる場面でした。このお見合い相手の人物、都城出身とのことなので、中薗家の人々がたまたま傍に居合わせた同じ都城出身の平川に対し、写真の人物がお見合い相手ということは伏せて、「市会議員に出る人なんだけど、同郷人で年齢も近いから、あなたも知っているかも」と見せるんですが、そのときスクリーンに大きく映し出された写真の人物は わっぜぇ、ひったまがったぁ、なんと沢村一樹ではありませんか。NHK「サラリーマンNEO」にセクスィー部長として登場し、NHK番組の登場人物とは思えぬハジけたエロい立ち振る舞いで異彩を放ったあの俳優さんです。彼も鹿児島出身ですが、写真だけの特別出演ですね。そしてその写真を見た平川の反応がまた傑作です。「えっ、このアンポンタンが市会議員に出るんですか!? 下着どろぼうで捕まったことのもある人物ですよっ!!」。 眞平役を演じた西田聖志郎は鹿児島市出身で、鹿児島を舞台にしたドラマや映画では方言指導もしている俳優ですから、水を得た魚のようにお得意の鹿児島弁を駆使して菓子屋のオヤジの雰囲気をよく出して好演していました。脇を固める真砂温泉の主人の町内会長さん(井上順)も慣れないであろう鹿児島弁を上手く使いこなし(地元のネイティブスピーカーが聴くといろいろ注文があるかもしれませんが)、居酒屋「京ちゃん」のママ(重田千穂子)等の鹿児島出身の人々と交って自然に溶け合って鹿児島弁満載のこのハートフルな人情喜劇映画の雰囲気を上手く盛り上げていたと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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