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ポンコツ山のタヌキの便り

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2015年08月27日
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 まさとは、幼い頃は多くの子どもがそうであるように様々なものを集めて楽しんでいました。収集対象は、松ぼっくり、ドングリからビー玉、めんこ、下着、いやいや、下着は集めませんでしたが、とにかくなんでもかでも集めたものです。

 そんな彼が郵便切手を集めるようになったのは小学校の高学年の頃(彼は団塊の世代なので、1950年代後半)だと思います。それまで、地味な色と図案の多かった日本の郵便切手が昭和33年(1958年)になって急にカラフルになり、また鳥居清長「雨傘美人」、安藤広重「東海道五十三次之内・京師」や「第3回アジア競技大会」「ブラジル移住50年」「世界人権宣言15年」など優れた図案の特殊切手(記念切手、切手趣味週間切手、年賀切手などのこと)が次々と発行されるようになります。

 この頃に日本の切手が子どもたちの興味関心を惹きつけるだけの魅力を持つようになり、子どもたちの間に切手ブームが起こりました。その頃、まさとは小学校高学年になっていましたが、彼も例外ではなく切手集めに大いに熱中し始めました。

 まさとの切手収集は、最初、グリコのおまけについていた外国切手から始まりました。しかし、グリコのこの外国切手にはろくなものがありませんでした。そのうちに、まさとは家に来た郵便物に貼られた切手にカラフルで魅力的なものがあることに気づき、母に頼んでハサミで切手の部分を切り取らせてもらい、水ではがしてストックブックに整理するようになりました。この方法での切手集めが彼にものを集める楽しさをなによりも実感させたようです。

 使用済み切手を集めることにすっかり熱中したまさとは、ある日、親の留守中に無断で家の中を家捜しをしたことがあります。そのとき、普段使わない奥の部屋の押し入れの襖も開けてみましたら、しめしめ、その中に挨だらけの大きな麻袋が一つ見つかりました。いかにも古い郵便物がぎっしりと詰まっていそうです。彼は、期待に胸を大いに膨らませながら、逸る心を抑えつつこの袋の紐を解きました。しかし、残念、郵便物は全く入っていませんでした。でも、その代わりに、その袋の中には古い書籍がいっぱい入っていました。

 これらの書籍にはとても粗悪な用紙(戦後統制のために物資が不足し、娯楽用出版物は用紙の確保ができず、古紙などを漉き直した再生紙に印刷されていました)が使われており、書いてある言葉も難解なものが多かったのですが、内容は小学校高学年になっていた彼にとってとても有意義なもので、それらを親に黙って国語辞典を引きながらこっそり読み耽るようになりました。

 まさとが両親に無断で読み耽ったのは、敗戦直後に雨後の筍のように出版されたいわゆるカストリ雑誌でした。きっとまさとの父親が購入し、子どもの目には触れないように隠していたものに違いありません。おっと、カストリ雑誌なんて言葉はいまの若い人には死語でしょうね。三省堂の『新明解国語辞典』には、「滓(かす)取り焼酎」について、「酒の滓をしぼりとって作った下等な焼酎。アルコール度が高い」と解説し、肝心の「滓取り雑誌」については、「三合飲めばつぶれるといういうことから、三号で廃刊になるような粗悪な雑誌」とまさに「明解」の名に恥じない見事な解説をおこなっています。これらカストリ雑誌の多くが戦争中の抑圧の反動なんでしょう、性風俗を主題にしており、なんとも隠微で淫らな感じの文章と扇情的な挿し絵によって構成されていました。

 さて、まさとはカストリ雑誌でいろいろ大事なことを真剣に学びつつ、切手集めへの情熱と努力もその後しばらく続きました。家での古い郵便封筒こ貼られている使用済み切手は漁り尽くしたので、祖父母や知人にもお願いして集める努力をしました。また、新しく発行される特殊切手は、新聞で発行日をチェックし、その日に最寄りの郵便局で買うようになりました。しかし、古い切手の方は入手できない切手がまだまだ沢山ありました。そのために、学校の友だちと切手の交換もしましたが、さとしが欲しい切手は友だちみんなも欲しがっているものばかりですから、交換には限度があります。後はお金を出して購入するしか方法がないようになりました。

 ところで、まさとと同じ団塊の世代である漫画家の西岸良平が『夕焼けの詩』第28巻(小学館)に「切手」と題してこの昭和30年代の子どもたちの切手熱を描いています。そこに登場する一平君は、切手を買うお金をお母さんからもらおうとして、「手紙も出さないのに切手ばかり買い込んでムダづかいして」とお母さんに叱られてしまいますが、そのときに一平君はつぎのような反論をおこなっています。

「チェッ、ムダづかいじやないや、これでもマネービルのつもりなんだい!」
「ほら、このカタログを見てごらんよ、二年前に郵便局で十円で売っていた記念切手がもう三十円だよ! もっと前の『月に雁』なんて八円だったのが千円以上になっているんだ、貯金なんかよりずっとわりがいいだろ」

 一平君が言っている「月に雁」とか「見返り美人」なんて切手は、小学生には高嶺の花でしたから、まさとはこんな高額な切手を入手することは初めから諦めていましたが、でも少年向け月刊誌に載っている通信販売の切手のなかで安いものはお小遣いを貯めてよく買うようになりました。

 まさとが中学生になって初めて迎えたお正月、彼はこれまでにない大金を手に入れました。祖父母や親類の人たちからもらったお年玉が小学生のときに比べて大幅にアップしたのです。彼は、それではと喜び勇んで私鉄に乗ってトンネルを越えて大きな街のデパートまで切手を買いに出かけることにしました。

 デパートの切手売場のガラスのショーケースのなかには前から欲しい欲しいと思っていた切手がずらっと並べられていました。そして、その周りには獲物にたかるハイエナの様に沢山の子どもたちが群がり集まり、それらの切手をじっと食い入るように眺めていました。まさとは彼らの熱い視線に耐えながら十数枚の切手を買いました。それらのなかには、年賀切手「羽子板をつく少女」(1949年発行)や原節子によく似た看護婦さんがにっこり微笑む「日本赤十字社創立75年」(1952年)なんて切手もありました。

 しかし、不思議ですね、前から欲しい欲しいと切望していた切手を一遍に十数枚も買えたのに、デパートからの帰り道、まさとは全然喜びを感じませんでした。家でこれら買ったばかりの切手を眺めていると、羨ましそうに彼を見ていたあのショーケースの周りの子どもたちの眼が思い出されて来ます。そしてまた、彼らの前で高額の金を支払ったときのあのなんとも言えぬ抵抗感が彼の心によみがえるのです。その日から彼の切手コレクションへの情熱は急速に萎えていきました。それから以降、まさとの切手収集は郵便局で新しく発行された特殊切手を買うことに限定されるようになりました。そして、東京オリンピックが開催された1964年に空前の切手ブームが到来したとき、まさとは切手への関心を完全に失っていました。

 大人になってからも彼には収集癖は全くありません。

                          2011年10月5日記





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最終更新日  2015年08月27日 17時00分01秒
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