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カテゴリ:台湾
台湾のひまわり学運と議会占拠について、浅野和生編著『中華民国の台湾化と中国』(展転社、2014年12月)に基づいて、台湾住人の「台湾人意識化」の増大とサービス貿易協定の問題点ついて補足しておきたいと思います。 まず、同書によると台湾に住む人々はつぎの4グループに分けられるそうです。第一グループはマレーポリネシア系の先住民族、第二グループが17世紀から18世紀に主として中国南東部の福建省から移住した閔南人、第三グループがそれより少し遅れて広東省や福建省の山岳地帯から移住した客家人、第四グループが1945年以降に大陸中国から移転した人々で外省人と呼ばれるそうです。なお、第二グループと第三グループを併せて一般に本省人と呼びます。 これらの四グループに分けられる台湾住人の「台湾人意識化」の増大について、同書の33頁~34頁に台湾の国立政治大学が2014年6月に実施した世論調査に基いてつぎのように紹介されています。 「戦後の台湾からは三十数万人の日本人が退去して、それと入れ替えに九十万人といわれる中国人が台湾に流入してきた。戦後の国民党政府は、台湾の脱日本化と中国化のために教育政策他を進めたが、今日まで五十年を超える大陸との断絶期間のなかで台湾に居住する人の構成比では、外省人一世が減少する一方なのに対して、第一世代とは意識が異なる外省人第三世代が増え続け、無論、この間に本省人も増加した結果として、台湾では中国人意識は台湾人意識に置き換えられつつある。 また、八〇年代から経済発展を続けて台湾が豊かになるとともに、九〇年代に李登輝政権の下で政治的民主 化と、教育の台湾化が進められたことの影響と相まって、しだいに台湾に誇りをもち台湾人アイデンティティをもつ人々が台湾では増え、それを堂々と表明する人々が増えるようになった。 こうして台湾化教育から十年あまりが経ったころ、国民党馬英九政権が誕生すると、急速に中台接近が進み、人的交流が一般化した。すでに述べたように、台湾の人々は現実の中国人との接触を通して、自分たちは中国人とは異なる台湾人だということを改めて皮膚感覚としてもつようになり、六割が中国人ではない台湾人としての意識をもつにいたった。これに『中国人でも台湾人でもある』という人を加えると、今日の台湾では実に九割以上が台湾人意識を抱いているという状況になった。つまり、台湾の人々のアイデンティティの台湾化が進んだのである。」 また同書の143頁~145頁には「中台サービス貿易協定の問題点」についてつぎのように解説しています。 「同協定が台湾の世論において懸念された点は以下の通りである。 中国側の開放リストによると、合資による証券会社を設立する際、中国における適用範囲は上海、福建、深センの三都市に限られ、電子商務については、その拠点は福建省のみに適用される内容である。また、資金力に勝る中国企業が本格的に台湾に進出した場合、民間の中小企業が多い台湾は到底中国企業に太刀打ちできず、台湾の市場構造が中国企業に取って代わられる危険性がある。 出版業界を例にとると、言論・表現の自由が保障されている台湾では、どんなに政治的に偏った本でも自由に出版することができる。しかし、中国に進出する台湾の出版社は、中国当局の言論統制と出版物の検閲を受けるため、中国共産党に批判的な書籍、あるいは台湾独立や李登輝元総統に対して肯定的な記述のある書籍を出版することができない。また、現在、台湾には数千社の出版社があり、その大半は中小企業であり、中国に進出して事業展開する資金力はない。一方、中国の出版社は数百社で、すべて中国共産党が管理している。もし中国の出版社が本格的に台湾に進出した場合、台湾の出版社は太刀打ちできない状況である。 通信に関しては、中国の通信機器メーカーなどが台湾国内の通信網 やデータセンターなどのメンテナンス業務を担った場合、一般市民の通信や通話が盗聴され、金蔑関を含む企業の業務用データが流出し、サイバー攻撃のリスクも高まる。さらに、個人情報や個人のプライバシーの保護が軽視される危険性が高まる。 最大の問題は、台湾に進出する中国のビジネスマンが一定の金額を台湾に投資した場合、あるいは台湾に投資して会社を設立した場合、一件の投資につき会長、管理職や技術者など四名とその家族に台湾の居留ビザを与えることである。居留ビザは無制限に更新できるだけでなく、居留ビザを取得した後、四年後に市民権を付与する仕組みになっている。さらに、家族の子供に子孫が誕生した場合、当然その子も台湾の市民権を獲得することができる。すなわち、数年間台湾に定住して市民権を取得した後、台湾の総統選挙、県市長選挙や立法委員選挙に投票できてしまうのである。したがって、香港、チベットやウイグル自治区と同様、中国人が次々に台湾に入り込み、最終的に台湾の政治を牛耳ることが可能になる。しかも、中国人が台湾に移住した後、直ちに台湾の国民健康保険に加入することができるため、日本や台湾のような健康保険や医療制度が整っていない中国にとって、非常に魅力的な話である。 以上の諸点が、各種マスコミやネット上で指摘された。」 こんな危険な問題点を持つ「中台サービス貿易協定」の内容が次第に明らかになり、台湾人としてのアイデンティティが強まっていた台湾住民の反発が増大し、「ひまわり学生運動が広範な台湾住民の支持を得ることになったのですね。 なお拙サイト「やまももの部屋」の「台湾の『ひまわり学生運動』と議会占拠」と題した新たなページにUPしましたので、興味がございましたらご覧ください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年01月17日 15時35分55秒
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