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カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
むかし手放してしまった大好きな本を、先日ふと古本で買い戻しました。1912年、アイルランドの独立運動の高まりの中で書かれた民族的?ファンタジー、スティーヴンスの『小人たちの黄金』です。
古代アイルランドやケルトが大好きな私ですが、近代のアイルランドは、飢饉やイギリス支配下の圧政、血なまぐさい独立運動など、どうも暗くて重いので、敬遠してしまいます。だいたい、政治的なニオイのする詩や小説って、なかなかおおらかな気持ちでは楽しめません。 ところが、この本は読めるんです。アイルランドの民衆(いや、あたたかでまっとうな人間性を求めるすべての現代人)を鼓舞する意図が見え見えなんですが、登場する賢者・魔女・子供たち・小人・乙女、そして神さままでもが、素朴で神秘的、しかもユーモラス。 ストーリーのあらすじを書いても、このお話の人を食った面白さは伝えることができません。けれどあえて紹介しますと、頭でっかちで偏屈で頑固な賢者が、牧神やアンガス・オグの神、彼らに愛された乙女とかかわることで、生き生きとした人間性に目覚めます。啓示にうたれ信仰に目覚めた人のように、賢者は出会う人々の心を目覚めさせてゆく。 ところがこの神話的なストーリーに、突然現れた警察が、誤解から賢者を逮捕してしまう。 このあたり、賢者はちょっとイエス・キリスト的です。処刑されるのかなと心配になります。 しかし、賢者の無邪気な子供たちと、妻である魔女が、アイルランドじゅうの眠れる神々や小人、妖精たちに呼びかけて、彼らは立ち上がります。そして生命の讃歌を歌い、踊りながら進み、イギリスの支配にあえぐダブリンを解放し、賢者を救い出すのです。 この神がかり的な解放と行進は、いくつかのファンタジーに見られる共通のパターンで、もとはというと、ヨーロッパ各地にある“眠れる英雄の伝説”じゃないかと思います。アーサー王(またはフィッツジェラルド伯、オールダリーの洞窟の騎士、バルバロッサ王などなど)は人知れず眠り続けているが、来るべき祖国の危難の時には目覚めて、彼の名をあがめるすべての人々とともに祖国を救う・・・というものです。 映画「ナルニア第2章カスピアン王子の角笛」を観て、バッカスやシレノスたちの祝祭的な行進の場面がなかったのが残念、と書きましたが、人間性を抑圧するくびきを断ち切るこの行進も、同類だと思います。 それからやはりアイルランド作家の“幻の名作”『霧のラッド』のラストにも、妖精たちの大行進が、現実主義の町を解放するというクライマックスがあります。 現実のアイルランドの独立解放運動は悲劇的で血なまぐさいもののようですが、その一方で、祖国愛や人間愛を(照れ隠しと冷静さのアイロニーをほどよくブレンドしながら)神話的なファンタジーでうたいあげようとした人々がいたということは、それ自体一種の“救い”であるように思えます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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