カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
「今まで見ていた レ・ミゼ は何だったんだ」
おおげさに言えばそんな気持ちにさせるのが、帝劇開場100周年記念スペシャル・キャスト・バージョンの 「レ・ミゼラブル」 だった。 島田歌穂さんのエポニーヌは、しっとりとして甘美だった。 これまで聴いてきた他の役者さんたちのエポニーヌの絶唱は、余分な力をつかっていたのではないか。 島田さんの、心のままの高まり。 ことしの別キャスト版ではついに新妻聖子さんがファンテーヌを演ずる時代。世代交代がやや早すぎるが、そんななか島田歌穂さんのお歳でエポニーヌが演じられるのだろうかと実は疑問に思っていたのだが、みごとに可憐でうつくしかった。 他の役者さんがエポニーヌの舞台化粧で顔を黒ずませすぎるのをつねひごろ残念に思っていたが、島田さんは化粧もすなおで、登場場面ではすこし頬を黒ずませているものの後半はうつくしい顔のまま、エポニーヌの恋心を自然に伝えてくれた。 * 岡 幸二郎さんのアンジョルラスが輝く。 岡さんが出る舞台で失敗というものを想像できないが、今まで聴いたアンジョルラスの2倍の迫力で心をとらえる。 神田沙也加さんのコゼットには、華がある。 栓を開けたばかりのワインのような役者さんを聴いてきたけれど、神田さんのコゼットには馥郁とした香りがある。 歌は高音にやや難があったけれど、心情でカバーしていたね。 岩崎宏美さんのファンテーヌ。 「夢やぶれて」を聴きながら、涙が流れた。 岩崎さんの歌は、すとーんと直球だ。何も巧まず歌う。だから、メッセージが点でも線でもなく、面になって伝わってくる。 別所哲也さんのジャン・バルジャン。 出獄したばかりのバルジャンの狂笑のすごみ。 そして市長バルジャンの高い道徳性のきらめきに、別所さんそのひとを感じてしまった。 斎藤晴彦さんのテナルディエ。 ベテランの味わい。 テナルディエは、駒田 一さんのがピカ一ですが、駒田さんをブランデーとすれば、斎藤さんは焼酎だね。 林アキラさんの司教。客席から拍手あり。 石川禅さんのマリウス。信頼感。 鳳 蘭さんのマダム・テナルディエは、ふ、ふ、美しすぎるんじゃないの? そして、鹿賀丈史さんのジャベール警部。 自ら定めた道徳の枠に収まりきれない質実至誠の人の苦悩。 「ジキルとハイド」 にも通じる。シラノにも通じる。 鹿賀さんがひとつの役を演じると、他のひとがその役を演じることを想像できなくなってしまう。 みごとな舞台だった。5月17日の夜に観て、いまだに脳のなかで曲が響いている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
May 22, 2011 10:17:48 AM
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