第6章第6章 Search ~ 捜索 ~次の日。 朝目が覚めると、玄関で誰かが会話しているのが聞こえた。 「なーんか、タカシってカワイソな人なんだよ。」 「あなたは、ここの人とどういう関係なの?」 「アタシは・・・そうだなあ・・・」 大家さんだ。 あの声は絶対大家さんだ。 ベッドから跳ね起きて、すぐさま玄関へ滑り込む。 「タカシはアタシの先生だよ。」 「あら、噂をすれば何とやらってヤツかしらね!」 高笑いをしながら、大家さんはフェードアウトして言った。 まさにフェードアウトだった。 あんな退出方法、初めて見た。 「お前、大家さんに何を話したんだ?」 「タカシはアタシの先生だって話したよ。」 「他は?」 「タカシはカワイソなんだよー、って。」 よかった、変なことは言ってないようだ。 「ねえ、タカシ。」 「ん、なんだ。」 「ロリコンってなあに?」 あの・・・クソ大家め・・・! 広辞苑にも載ってないんだよねえ、とか言いながら、来意は円卓の方に戻っていった。 天気は快晴。 もうまさに『どこでも探してみろ!』って言う感じの天気。 「で、ある程度の検討はついてるのか?」 来意は首を縦に振って、 「この家の付近にあるはずなんだけどね~。」 と言って、フラフラ歩き出した。 「形とかの特徴は?」 「んー?・・・丸い、大きい、玉虫色、キレイ!」 「漠然とした手がかりだなあ。」 捜索一日目。 アパートの周りを探したり、そこから少し出た路地とかを探してみたが、見つからなかった。 捜索二日目。 もう少し範囲を広げてみたが、それらしいものが見つからなかった。 捜索三日目。 雨だったから探しに行くことができず・・・ 捜索四日目・・・ 「なあ、来意。」 「なあに?」 「ホントにここら辺なのか?」 雑草が生い茂った河川敷。 日が沈み、あたりは暗くなってきた。 「そろそろ戻ろう、もう暗いし。」 「えー、あとチョット・・・。」 来意が嫌々ながらこっちに来た時、どうもボクの中学の生徒が見えた。 2人が、見たことも無い中年親父3人に絡まれている。 片方は胸座まで掴まれている。 「来意、ちょっと待っててくれるか?」 「いや、一緒に行きたい。」 「お前、ケガしても知らんぞ?」 一応、本気で来るな、というオーラを放ったつもりだったが 「だってタカシはカワイソだから、どうせしくじるんだって。」 クスクス笑いながら来意はボクの背を押した。 「さ、センセ。生徒をカッコヨク救ってきてあげなよ!」 何なんだ、この子は。 益々謎めいてきたが、今は目の前の問題を片付けるのが先だ。 「なあ、お前世の中金で問題は解決するんだぜ?」 「坊や、おとなしく金を出してくれねぇと・・・こっちも手があるんじゃけな?」 片方の男が、無駄に指を鳴らす。 関節が悪くなるのになあ、と思って遠巻きに見ていたが、やはり行くべきだと思った。 「あの・・・ボクら何も・・・。」 「あ?んじゃオメェ、この車のキズはどうしてくれんのよ?」 タバコを吹かしながら、片方の男がシャコタンの車を指差した。 暗いせいか、ただの言いがかりなのか、キズがついているようには見えなかった。 「ちょっといいですか?」 ま、クールに割り込もう。 「んだオメェ。」 片方の男が、ボクの足先から頭のてっぺんまでを嘗め回すように見てきた。 その見方がどうも・・・生理的に受け付けない。 気持ち悪いから寄るなよ、ってね。 「この子達が何かしたんですか?」 「俺の愛車チャンにキズを入れちゃってねぇ~。」 生徒の方を見てみたが、細かく首を横に振った。 「見せていただけますか?」 「なんでその必要があんだよ。キズが入ってるっつってんだろ?!」 「だから、それを確認させろっつってんだよカス。」 おっと、口が滑ってしまった・・・。 「今何つった、あ?」 タバコを吹かしていた一人が、ボクの胸座を掴んで 「オメェ、ヒーロー気取ってんのもいい加減にしやがれよ・・・?」 と言って、顔を殴ろうとしたが、難なくかわせた。 まだ20代だぜ? クソジジイなんかに身体能力で負けるわけがねーだろ。 「じゃあ、警察を呼びましょう。きちんとしたところで話をつけましょうよ。」 一番最初に嘗め回すように見てきたヤツが、今度は顔を近づけてきた。 これは・・・何か別の意味で顔を近づけているのか? 威嚇には見えないから困る。 「お前、何様だ。え?・・・こっちが優しく、示談金で終わらせようって言ってるのに・・」 もうサッサと終わらせよう。 相手の話を聞く前に、さえぎる様に 「だから警察呼んで公で対処しろっつってんだよ。聞こえねえのか?・・・なんなら、今こうして脅してたのを、そのまま警察に言ってもいいんだぜ?」 車のナンバー・・・とりあえず、覚えておくか。 「テメェ・・・!」 顔を近づけていたヤツが、ついに殴りかかってきた。 手を出すとこっちにも不利になるから、とりあえずかわしまくっていたけど・・・ 腹に一発入ってしまった。 「うっ!!」 多分、鳩尾にクリーンヒットしたな。 テ、テメェ覚えてやがて! と言うようなキメ台詞は無かったけど、中年親父はそそくさと退散した。 「先生、すいませんでした・・・。」 生徒の2人は、深く頭を下げ、そのまま逃げるように帰っていった。 後ろを振り返ると、物影から来意が現れた。 「カッコいいじゃん、センセ!」 とりあえず、帰ろう。 なんだか気疲れしてしまった。 ゴタゴタずっと話している来意をよそに、ほとんど無言で帰宅して、そのままベッドに直行した。 ジャンル別一覧
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