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カテゴリ:BOOK REVIEW
鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版、1993年) 本書については賛否両論、様々な意見が多く存在する。特に本書は一般的な小説や文学とは異なり、実態社会に関係の深い、しかも倫理的なテーマを扱っているため、読者によっては有害にも有益にもなりうるから様々な解釈が存在する。読書というものは読み手の関心や読み手自身の置かれている環境等によって感じ方が異なるのが普通である。つまり、本書についても、有害か有益なのかは読者によって異なるのは普通ではないか。本書は有益にも有害にもなる可能性があることを受け入れた上で読みたい人だけが読めばいい本だと思う。読んでいる途中で面白さを感じなければ途中で読むのをやめて、他に興味がわく本を読めばいい。 本書は18歳未満厳禁であり、論争が耐えない120万部のベストセラーである。ビニールに包まれているので立ち読みすることができない。何が書いてあるのか。一言で言うと自殺の方法が書いてある。筆者は単に自殺しろといっているわけではない。筆者が言いたいのは「いつでも自殺できるという安心感で生きにくい世の中を生き延び」ようと訴えたかったらしい。 私自身が考えるのは、このメッセージを伝えるためには本書の内容や書き方を利用しなくてはならなかったのかが疑問である。他の書き方、内容、題名を利用するとによってでも本書のメッセージを伝えることはできるのではないか。 また、自殺ということを考える際に、本書が中立的に書かれた本とはいえないのは事実だろう。大雑把な書き方、矛盾とも取られかねない意見、誤解の与える表現が存在するため本書の意図が必ずしもはっきりとは伝わってこない。この点も賛否の議論に拍車をかける点なのだろう。もし、本書を読むのならば、その点を注意して読まなくてはならない。 ただ、有益と考えられた部分としては自殺に関するデータや事例を紹介している点である。そして、一部で自殺を取りやめた人々も存在するらしい。このようなテーマに取り組んだ作品は必ずしも多くないこと、販売実績を考慮すれば需要があった作品と考えることができ、読者によっては有益になる部分も存在したことは否定できないだろう。雑学的知識として読む人や自殺というテーマで学問研究を進める人々にとっては特に有益になるかもしれない。 ただ、自殺者が後を絶たない今日、自殺を全く論じない社会風潮も危険と捉えることができる。本書をきっかけとして、このテーマについて真剣に考える機会がわずかでも提供されたならば有益な側面もあったと解釈できる。私自身は本書を肯定する立場にはないが、読書について様々な解釈があることを再認識する機会を与えられたように思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年03月06日 18時35分58秒
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