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よろず屋の猫

『家族狩り・5部作』 天童荒太

“両親を拷問したあげく惨殺、その子供は自殺”
警察ではこう判断された連続的に起こる事件をベースに
事件に疑問を持つ刑事・馬見原と、精神を病むその妻・佐和子、
馬見原がかつて助けた今は馬見原の愛人の女とその子供、また子供を虐待していた油井、
高校教師・須藤浚介、
児童心理センターの心理職員・氷崎游子、
虐待される子・玲子とその父、
摂食障害に陥り引きこもる高校生・亜衣、
個人で児童心理センターを開く葉子と、その協力者・大野、

これらの登場人物が絡んで語られる家族の問題。

山本周五郎賞の『家族狩り』を元に書かれた5部にわたる長編。

5“部”となってますが、各話完結してないので、全5巻と言った方が良いんじゃないかと思うんですが。

とにかく長い。
その長さの中で描きたいものは、“家族”なんだろうとは思うのですが・・・。

犯人は途中で読者には見当がつく構成になっているので、後半はそれを確かめていく過程となっている。

私には馬見原刑事と言うキャラが好きになれないのでねぇ。
妻はうつ病、助けた女に手を出してて、子供に「お父さん」と呼ばせることを許してる。それが残酷だと言う事は本人も分ってるようですが、だからって許されるものでもなかろう。
なのにすごく偉そう。
こう言うのを“生きるのが下手な本当は弱い人間”としてるところが、日本のミステリーを好きになれない理由。

繰り返し、“世界の中にはもっと悲惨な人たちもいる、自分は恵まれている、それは分っている”と言う描写。
それは登場人物たちが決して目をつぶっているおバカではなく、ものの分った人間であることを示しているけれど、これもくどい。

家族を描く問題作としたいならば、家族の殺し方をこれほど残虐にする必要はなかったのでは。
そのセンセーショナルさに作者の色気を感じて、イヤになる。
そう言うのはサイコ物にまかせておけば良い。
逆にこの殺し方に拘るのなら、犯人が何故ここまでの狂気を持ったかを、と言うのはそうでなければとてもこんな犯罪を犯せないと思うからなんですが、
もう少しきちんと書いた方が、読むほうはすっきりする。

家族の問題に、自分の考え方、やり方に自信をもって取り組んでいるように見える側が実は危うくて、自分はこれで良いのかと迷い、悩み、それでもがんばる側が光明を見出すラストは良いと思う。
また、この問題が、絶対的にこの方法が良いなどとは簡単に行かない、とても複雑なことなのだと言う事を象徴していると思う。

5冊買ってまで読む価値があるかどうかは微妙。
でもこの小説のベースになっている元々の『家族狩り』はタイトにまとめられていると思うので、読んでみたいと思った。
何んと言っても受賞もしてるしね。


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