四【四】それは唐突だった。 「ぎゃっ!」 《机女》が悲鳴をあげて、僕から手を放した。 頭を抱え、するすると机の中へと引っ込んでいく。 途端、僕の身体が机から崩れ落ちる。 それをふわりと誰かが抱きとめる。 大量のピアスをつけた、青い前髪をした男だった。 「佐田……?」 「危なかったな。ったく、気をつけろっていっただろ」 佐田が真剣な顔をして僕に言った。 佐田は僕を机から少し離れた場所で降ろすと、床に落ちていた缶コーヒーを拾い上げた。 どうやらこれを《机女》に投げつけたらしい。 「痛いじゃないの! 何すんのよ!」 《机女》が佐田に向かって叫ぶ。 可愛らしさなんて欠片もない。 ぎろりと佐田を睨みつけている。 佐田は《机女》を見下ろすと、呆れたように言った。 「俺はこいつみたいに騙せないよ。悪いけど、諦めてもらえない?」 「……いやよ、ずっと待ちに待ってたご馳走だもん」 《机女》はするすると、机の中から這い出てくる。 黒い髪。白い顔。白い腕。白い胴体。 足が見えるのではないかと思うほどに身を乗り出す。 床に黒髪がだらりと垂れ、まるでツタのように伸びながら、僕に迫ってきた。 逃げようにもまだ身体が思うように動かない。 あっという間に足を捕らえられると、そのまま《机女》の方へと引き摺られる。 もう『可愛いは正義』など言ってはいられない。 こいつは正真正銘のバケモノだ。 僕を捕食しようと虎視眈々と、机の中から狙い続けていた妖怪だ。 僕はあの日からずっと、狙われていたんだ。 「大人しく引っ込んでろ」 佐田が懐から御札のようなものを取り出す。 バチバチと空気をならしながら、その御札を《机女》に投げつけた。 「ちくしょう」 恨めしそうに《机女》は小さく唸ると、するすると机の中へと消えていった。 前⇒【 参 】/次⇒【 後 】 textに戻る ブログトップに戻る ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|