092823 ランダム
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とべばいいのさ!

【四】

それは唐突だった。

「ぎゃっ!」

《机女》が悲鳴をあげて、僕から手を放した。
頭を抱え、するすると机の中へと引っ込んでいく。
途端、僕の身体が机から崩れ落ちる。
それをふわりと誰かが抱きとめる。
大量のピアスをつけた、青い前髪をした男だった。

「佐田……?」
「危なかったな。ったく、気をつけろっていっただろ」

佐田が真剣な顔をして僕に言った。
佐田は僕を机から少し離れた場所で降ろすと、床に落ちていた缶コーヒーを拾い上げた。
どうやらこれを《机女》に投げつけたらしい。

「痛いじゃないの! 何すんのよ!」

《机女》が佐田に向かって叫ぶ。
可愛らしさなんて欠片もない。
ぎろりと佐田を睨みつけている。
佐田は《机女》を見下ろすと、呆れたように言った。

「俺はこいつみたいに騙せないよ。悪いけど、諦めてもらえない?」
「……いやよ、ずっと待ちに待ってたご馳走だもん」

《机女》はするすると、机の中から這い出てくる。
黒い髪。白い顔。白い腕。白い胴体。
足が見えるのではないかと思うほどに身を乗り出す。
床に黒髪がだらりと垂れ、まるでツタのように伸びながら、僕に迫ってきた。
逃げようにもまだ身体が思うように動かない。

あっという間に足を捕らえられると、そのまま《机女》の方へと引き摺られる。
もう『可愛いは正義』など言ってはいられない。
こいつは正真正銘のバケモノだ。
僕を捕食しようと虎視眈々と、机の中から狙い続けていた妖怪だ。
僕はあの日からずっと、狙われていたんだ。

「大人しく引っ込んでろ」

佐田が懐から御札のようなものを取り出す。
バチバチと空気をならしながら、その御札を《机女》に投げつけた。

「ちくしょう」

恨めしそうに《机女》は小さく唸ると、するすると机の中へと消えていった。


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