歩く鳥
石黒正数「それでも町は廻っている」待望の第9巻が発売されました。 「それでも町は廻っている」通称「それ町」は、天然メイド女子高生の嵐山歩鳥を主人公に、周囲の人々との日常を描いている一話完結形式のコメディです。 登場するキャラクターの一人一人が個性的で魅力が高く、話の内容もミステリあり、ホラーあり、青春あり、感動ありとバラエティに富んでいて、今一番好きな漫画の一つです。 9巻もSFやら甘酸っぱい青春やらジョセフィーヌの冒険やら楽しい話が満載だったのですが、一番良かったのが「歩く鳥」というタイトルのお話です。 この「歩く鳥」は歩鳥と、親友の紺先輩の休日の一日を描いていますが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフに作られています。そして、これでもかと言うくらいネタを仕込んでいます。 紺先輩の回想に出てくる座成は、「銀河鉄道」でジョバンニに意地悪を言うザネリですし、歩鳥と紺先輩が乗っている電車の広告に「サソリ」や「イルカ」がでてきます。電車の窓からは「カササギ」が見え、歩鳥は紺先輩に「苹果」ジュースをあげています。帰りに立ち寄る蕎麦屋の名前は「くじゃく」です。もしかして、紺先輩の着ている服は「ラッコの上着」でしょうか? 行きの電車の中で紺先輩は「石炭袋で降りんなよ」と言いますが、歩鳥は帰りの電車の中で「大丈夫ですよ」「私はサザンクロスでも石炭袋でも降りませんから」と返します。 歩鳥は第2巻で事故にあって、死の一歩手前からこの世に生還しています。先のセリフは「銀河鉄道」では石炭袋でいなくなったカムパネルラになぞらえて言った、紺先輩の歩鳥に対するやさしい一面が垣間見える良いシーンです。 外見はパンクだけど、実は繊細で傷つきやすい紺先輩と、明るく天然で周りの人を元気にする歩鳥の話は、少し切ないけれど心が温まるストーリーが多く、大好きです。【送料無料】それでも町は廻っている(9)