「大絵画展」1990年に「医師ガシェの肖像」を競り落としたのは小さな画廊の店主の日本人。
先週新千歳空港から香港経由でシンガポールへ帰星する際に乗り継ぎ待ち時間中に読もうと思って買った一冊です。1890年にゴッホがオーヴェールで自殺した事、滞在していたラブー亭に600点ほど残された絵画の一枚が「医師ガシェの肖像」で決して傑作とは言えず、暖炉にくべられる事を免れただけの絵だったかもしれないという書き出しで小説は始まっています。この絵はその後13人の持ち主を経て、1990年ロンドンの美術品競売会社「ルービーズ」で競売にかけられる場面へと続きます。ニューヨークのクリスティーズで1990年に競売にかけられ落札(落札者の記載は無し) 思い出したのは昨年シンガポールで開催された「Van Gogh:The Immersive Experience(ゴッホ:没入型展覧会)」でその時展示されていたパネルの一枚に今ままで最高額をつけたゴッホの絵5点の紹介があり第1位が「医師ガシェの肖像」だった事です。US$82,500,000(当時のレートで120億円ぐらい)で落札されたとあり「一体だれがこの絵を落札したのだろう?」と思っていました。 小説「大絵画展」では1990年の競売で大富豪のイアン・ノースウィッグと小柄な日本人バイヤーとの激しい競り合いが描かれ、結局「医師ガシェの肖像」は日本人バイヤー(依頼を受けた小さな画廊の店主)が競り落とします。 ウィキペデアで調べてみるとこの絵を所有したのは大昭和製紙の名誉会長で、一般に公開される事はなく1996年に氏が亡くなった後競売に2回かけられるものの2019年の時点では「所在不明」という謎多き作品になっているようです。最初にゴッホの弟テオの妻ヨーがオランダ人コレクターにこの絵を300フランで売った事を思うと現在の絵画の値段には驚きというより怖さのようなものも感じます。 小説に話を戻すと絵画が決して美術品愛好家が購入するわけではなく、投機目的のため法外な値段が付けれられ転売を繰り返し、その取引には総会屋や暴力団も絡む事もあるというサスペンス仕立てになっています。絵画を別の視点から見るという意味では面白い小説だと思います。「大絵画展」には絵には関係なく多額の借金を抱えていたり金融業者からの取り立てにあっている人物たちも登場し、大逆転の結末がどんな風に描かれるのか読み終えるのが楽しみです。