4月13日(木)に新潮社から発売される村上春樹氏の6年振りの長編小説のタイトルと装幀が3月1日に発表になりました。
表紙のイラストは「タダジュン」氏
タイトルの発表の後、ネット上で1980年9月の文芸誌「文学界」に掲載された同氏の「街と、その不確かな壁」が話題になっているようです。単行本化されずファンの間では「幻の作品」と言われ、4作目の長編小説で谷崎潤一郎賞を受賞した「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(1985年刊行)」の原型となる作品である事を私は初めて知りました。
内容についても簡単な紹介があり、1972年に早稲田大学で起きた学生運動の内ゲバによるリンチ殺人事件「川口大三郎事件」を取り扱っているようです。20歳で亡くなった川口さんより3才年上の村上氏は7年かけて早稲田大学の第一文学部(川口さんと同学部)を1975年に卒業しているので、その事件のある意味目撃者ということになります(ただ村上氏は学生時代に既にジャズ喫茶を経営しているので大学で顔を合わせたり話をした事は無かったのだろうかと推測します)
今回発売の「街と~」の特設サイトに「その街に行かなくてはならない。何があろうとーー(古い夢)が奥まった書庫で紐解かれ呼び覚まされるように封印された物語が深く静かに動き出す・・」と説明があり「街」とは当時川口事件を起こすような壁に囲まれてほとんど死んだようになっている早稲田大学を「街」に仮託して書いているのではとも書かれています。果たしてこの物語の展開と着地点はどのようになるのか興味深々です。
2015年シンガポール公演「KAFKA on the SHORE」宮沢りえさん演じる佐伯さん。
ところで特設サイトでは亡くなった川口さんの恋人という設定で「海辺のカフカ(2002年刊行)」に登場する図書館館長の「佐伯さん」の事にも触れていました。佐伯さんは15歳で家出し旅に出た少年「田村カフカ」の実の母親(幼いカフカと彼の父親を残して疾走)ではないかという謎多き女性です。同著に「20歳の時恋人を学生運動で亡くし自己を喪失してしまった・・」という箇所を私はすっかり見逃していて、今何かこの海辺のカフカも以前よりもっと理解出来るような気持ちになって来ました。