T.C.UNIONRIVER ~ユニオンリバー社~

隠密

視界は横に広く、縦に狭い
新たな機影を確認するまでにワンテンポ、妙な間が空く

たかが野盗上がりの俺達がここまで戦果を上げてきたのは、この視界の狭い「鎧」のおかげだ
全長500メートルにも及ぶ巨大な過去の遺物・・数でこそそう多くはないが、あちこちで発掘されている

・・俺達の雇い主はとある国家の大臣・・・要するに俺達は、傭兵部隊という奴だ
死んだ所で恩給は出ないし、悲しむ奴など元々居ない。使い捨てにはもってこい。

もちろん俺達も国のために戦うワケじゃない、ある者は金のため、ある者は闘いを楽しむため・・様々な目的が合致して初めてここにいる。
仲間としてつながっているのは、職業同志というビジネスライクな考え方をした時だけだ


俺が止まれ、と思うと500メートルの巨体が止まる。
後ろから続いた2体も同時に止まり・・・森林の中にしゃがみ、「消える」
「アサシン」と呼ばれたこの鎧は、その名の通り気配を消し、姿を消し、敵の感覚の全てから消えて敵を消す・・そういう事が出来る
ただし「鎧」共通の弱点として視界は狭く、とてもじゃないが熟練なしに扱える代物ではない


「・・もうすぐ国境だな」
「ああ」
「セルムラント王国とこっちの境にはどのくらいの鎧がいる?」


・・鎧と聞いたのは、一般の兵士や大砲などでこの鎧が壊される事はないからだ。
強力な魔法攻撃を受けたとて、せいぜい傷がつくかどうか・・・
鎧以外は正直、ものの数に入らない


「確か・・・今は青い鎧が一機のハズ。」
「あの国自体の総数は少ないそうだからな。」
「たった一機でねぇ・・・」


「消えた」まま歩を進め、俺達は国境にさしかかった



・・いた。


こちらより少々大きいだろうか?・・無骨な外装に身を包んだ、騎士然とした青い鎧がそこに立っている
その場所は国境の直前・・セルムラント側の衛兵詰め所が、足下にあった


・・俺達の仕事は国境を越え、首都を破壊して混乱させる事
その隙に正規軍や他の傭兵が動き、かの国を占領する・・という算段だ。


「さっさとやり過ごすぞ」


・・・言って国境に一歩・・・踏み込んだ


ずどっ



一瞬、何が起こったのかわからない
・・・だが、改めて右を・・・通過しようとした、奴の方向を見てみると・・・

・・・腕がない。

「俺の」、「鎧の」、「腕が」だ。



「み、見えているのかッ!?」
「青い鎧がっ・・・こっちにっ!!」

「青い騎士」が跳躍した
即座に、後ろの一機が真っ二つになる


「速・・・ッ!!!」

瞬きをする間に、俺達の鎧はバラされ・・・・
・・衝撃が走ったかと思うと、外へ放り出された


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衛兵にとっつかまった俺達の前に、青い騎士が立った
膝立ちをするようにしたそれの掌に乗り、ゆっくりと降りてくる搭乗者・・

・・・・女だ。
・・・・・女というより、「少女」だ。


「・・・どうした、何を見ている?」
「・・・いや、あんたみたいなのが乗ってるとは思わなかったんで・・・」
「見た目で人を判断するのは初歩以前、騎士たるものそれを忘れるな」


「騎士」・・それはセルムラントにとどまらず、この世界において最も栄誉ある称号だ。
価値基準は国家間で異なるが、いずれにせよその国を代表するわずか数名のみが得る・・・


「ン・・?・・・・なんだ、傭兵か。まぁいい、早く国へ戻って伝えて参れ」
「は?」
「我らセルムラントに不可侵の砦あり、参るのなら正々堂々正面から当たってくるが良い。」
「俺達が言うのか?」
「当然だ。」


・・呆れた。
見た目の重厚感に反して、バカみたいに速くて強力な鎧・・・
そしてそれに乗る「騎士」は子供・・・
でもって、俺達を解放するという。


「上の命令だからって、俺達みたいなのを見逃していいのかよ?」
「主の命令は絶対、騎士ならば当然・・いいからさっさと行け。」


衛兵も何を言うでもなく、さっさと俺達を放して道を空けた
・・釈然としないものもあるが、命が助かっただけ拾いモンだ、さっさと帰るとするか・・・


「あと、そこのお前。」
「?」
「青ではない、「蒼」だ。」



・・余計に、釈然としないものが残った。



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「戦争」の結果は散々だった。
小国vs大国、普通に考えれば速攻で決着がつきそうなものだが、量より質と言わんばかりのセルムラントは強力。
雇い主はさっさと討ち死にし、俺達もこれまたさっさと職を失った。

過程も結果もない、セルムラントのたった2体の鎧に、傭兵を含め115体の鎧が手も足も出ず全滅した。


例の青・・・「蒼い」鎧と、もう一つは薄く金に輝く白金の鎧だったという。


鎧もない俺達は戦闘中に逃げ、さっさとセルムラントに鞍替えしていた
・・・そして戦後処理(鎧の残骸拾い)の中、あの少女にまた会った
口をへの字に結んだ無表情の・・・こっちはまだ学校に行っているんじゃないかと思う少年と共に。


「ご苦労様でした、フォルゲイン、グラムレット。」
「「・・もったいなきお言葉。」」


様子を見に来ていたとおぼしき王族・・・その前に跪く二人。
片方が鎧に乗っていたと考えるなら、もう片方の金髪の少年もまた、たった2体の片割れに乗っていたんだろう

・・・何がなんだか、とんでもない国だ。





だが、同時にここは安住の地であるという安心感も沸いていた。


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