B-02

・・休み時間の始まりを告げるチャイムの音が遠く聞こえる・・
近くにいるはずのクラスメイトの声も、遠く・・
・・先ほどから話しかけている雫の声もまた、遠くに感じていた

・・裕司がいない。


「・・り・・さん?・・ひかりさん?聞いてます~?生きてます~??」
「あ、雫さん・・いたんですか・・」
「重傷ですねぇ・・」


やれやれと両手を開く雫
あの翌日・・景は登校前にニュースを見た
昨日のことをやっていたが、負傷者にも犠牲者にも「鈴宮裕司」の名はなかった
・・裕司は、昨日の事件での唯一の行方不明者となっていた・・。

天導寺重工の「小型作業用ロボット」のおかげで復旧は驚異的なスピードで進む世の中
当然人命救助や行方不明者の捜索、人命確保のための装備は整っている
・・「行方不明」という言葉自体が無くなろうとすらしている中で・・裕司はかき消えてしまった

当然それは不可思議であり、納得のいかない事だった

「・・裕司くん・・」

ぼそ、とつぶやいた時・・雫が背後から抱きついた

「ひっ・・!?」
「う~じうじしてたって始まりませんよ景さん?きっと地下道かどこかに落ちたんですよ、その内ひょっこり出てきますって♪」
「そうそう、前は太平洋で漂流して生きて帰ってきたんだよ?街の中なら余裕で生きてるって♪」
「行方不明というのは死んでいるワケじゃなくて「生きている可能性がある」って事でしょう☆」
「・・・そ、そうですよね・・生きてますよね・・裕司くんの事ですし・・」

・・そうだ、何度危険に遭ったっていつもひょっこり戻ってきた・・今度だって、きっと。
景はそう思って、にっこりと微笑んだ

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「それにしても」

・・と、雫がつぶやいたのは下校途中の事

「昨日のあのロボットは何だったんでしょうねぇ・・」
「そうだよね・・軍事用にしたって、あんな大きなのはないハズだし・・天導寺重工も小型モデルばかりだから・・」
『その事については私が説明しましょう』
「・・・ん?」


いきなり聞き慣れない声が混ざったので、雫と明がぴたり、と止まる
くるり・・と振り返るがここは人通りの少ない路地、いるのは後ろを歩いていた景だけ・・

「景さん、今何か?」
「え?・・いいえ、私ではなくて・・」
『失礼致しました・・騎士たるものまずは自己紹介を・・』

景の取り出した携帯電話から声がする・・
そして、電話はまたも輝いている・・!?

「な、なんかのゲーム・・?」
「喋るヤツあるんだ、すごいね~」
『・・この状態ではわかりづらいかもしれませんね』

また、昨日のように輝きが画面に集中し・・路地の隣、空き地に置いてあった廃棄資材に当たり、分解融合した
・・昨日とは違って、ロボットではなく一台のスポーツカータイプの「パトカー」が現れる

「え?ど、どーなってるのコレ!?新製品かなにか?」
「ち、違うんです・・「彼」は・・」
『私の名は「ディオン」・・宇宙警察機構より派遣されたエネルギー生命体です。』
「エネルギー生命体・・?」

両側の収納式ヘッドライトを開けて、目のようにするディオン

『昨日のロボット・・あのように惑星の平和を乱す者、それを阻止し破壊するために私達は派遣されてきます』
「・・昨日の・・って、何か知ってるの?」
『彼らは宇宙海賊ベイヴォルフの一団、そしてその先兵として派遣された中の一人が昨日のロボットです』

ディオンはそう言うと、突然ロボット・・昨日の姿に「変形」した

「・・わわっ!?」
「き、昨日の・・青い方のロボットですか~!?」

・・そう、TV報道の中にも、ばっちりディオンが戦う姿が記録されていた
映画の撮影のようで・・事実、目の前であった出来事として。
まして雫、明はその戦いを実に間近で見ていたのだ

「しかし・・その警察屋さんのロボットさん?・・がどうして景さんの携帯電話に・・?」
『・・ベイヴォルフに先駆けて、私は二週間ほど前に地球に飛来しました。その時に姫の端末に宿りまして。』
「やっぱり流れ星ではなかったんですね・・」
『宿った後・・私は戦うために力が必要でした。「勇気」が、大きく果てしない「勇気」の力が必要だったのです。こうして実体化できるのもあの少年のおかげ・・』

・・少年・・裕司の事だろうとは、三人とも容易に想像がついた
あの状況で景を助け、自らは瓦礫に埋もれ行方不明に・・

『・・大きく言えば私の心には、あの少年の意志も宿っているのです・・行方知れずと聞いて残念ですが・・』
「大丈夫、景さんにも言いましたが・・あの人は生きてる人ですから♪」
「そうそう、ひょっこり出てくるだろうから心配ないよ」
「・・・・・・・・」
『・・そうですか・・ならば、私もそう祈りましょう』

・・景はうつむき加減で小さく唸った

「ところでディオンさん?とゆー事はこれからもああいう大騒ぎが起きるという事ですよね?」
『ええ、ロボット兵が現れたら私が戦って対処する事になると思います。本来なら仲間の到着を待つのですが、ベイヴォルフの行動が早かったため私が単独で先行する事になりました』
「え?じゃあ・・「警察」って組織っぽい割に今いるのは君一人・・??」
『?・・そうですが、何か?』
「ちょ・・ちょっと頼りないですねぇ・・(汗)」
『ご心配には及びません、例え多勢だろうと強敵だろうと、私は姫に力をいただければいくらでも強くなります故。』
「・・私の・・・力・・?」
『・・「勇気」ですよ、私はあなたの秘めたる勇気、それを見極め仕える事にしたのですから』
「そ、そんな・・私に・・」

・・裕司くんのような事をする勇気なんて・・
・・脳裏にフラッシュバックする昨日の光景

「景は、十分勇気持ってるよ」
「え?」
「昔からそうじゃない、自分が知りたい事にはなりふり構わず突っ込む所。少なくともその間は何にも怖くないように見えたけど?」
「・・時々無謀にも見えますけどねぇ☆」
「そ、そんなので・・いいんですか?」
『勇気、とは挑む心・・何であろうと、それに戦いを挑む心こそが大事なのです』
「・・・・・・・」


・・思い悩んだその時・・街の方で爆発音がした・・

「ま、まさか・・!!」
『・・ベイヴォルフ!』

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『とぁっ!!』

ディオンは現場に参上するなり、ロボット兵に跳び蹴りを放つ
今まさにビルを砕こうとしていた敵は吹き飛ばされ、横倒しになった

『やっと出てきたか、宇宙警察の!』
『惑星上での横暴、私がこれ以上は許さない!!』
『ほざくな、俺より小せェヤツがピィピィうるさいんだよォ!!』

昨日と同型・・いや、一回りか二回りは大きいロボットは、やはり巨大な左腕を武器に襲いかかってくる
ハンマーのように勢いよく振り下ろされた腕がアスファルトを砕き、建造物の残骸と道路にあった車とを文字通り粉砕した
ディオンは、というともちろんその場に姿はない

「・・はぁっ・・・はぁ・・・」

離れた位置の、3階建てのビル・・その屋上に景達はいた
走ってきて息が上がっているが、ディオンとロボット兵の戦いからは目をそらさない

「・・ディオン・・さん・・・」

昨日と同じように翻弄しているディオン
・・このまま倒して終了か?・・いや、直後にそれが昨日とは違うシーンになった
ロボット兵の右腕が分離して飛び出し、ディオンがそれに捕らえられてしまった

「ああ!!」
『・・不覚!!』
『ちょろちょろし過ぎなんだよネズミィ・・』

ロボット兵は捕らえている右腕ごと、左腕でディオンに強烈な一撃を見舞う
青い装甲の破片が飛び、ディオンの身体は勢いよく吹き飛ぶ・・

『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!』

道路の上を数百メートル滑り・・ディオンは道路にめりこむ形で、ようやく止まった
ロボット兵がなおも迫り、また左腕を振り上げる
・・トドメにするつもりか?

「・・ディオンさん!!」
『・・これしきの事で負けはしません!!』


振り下ろされた左腕を、ディオンは両手で「受け止めた」

『・・何ィ・・?』

質量的にも、パワー的にもあり得ない・・
しかし、ディオンは巨大なそれを持ち上げ、段々と押し返している

『はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
『ぐぉぉっ!?』


ディオンが力をこめると・・左腕が、彼の掴んでいた周辺から一気に真っ二つになる
・・なんと、折れた・・

「・・す、すごい・・」
「って☆・・あり得ませんよ~!?」
「がんばれ~ディオン~!!」

立ち上がったディオンの両腕には、巨大な腕が被さっていた
かと思えばその巨大な部分が分離し、戦闘機のような形をとる
ディオンはそれに飛び乗り、また剣と、盾を構える

『姫・・これがあなたの持つ勇気の力!!』
『ガタガタうるせェんだよォ!!』

残った左腕の半分を切り裂くディオン
ロボット兵は頭部からレーザーのようなものを放つが、そんなものが高速で飛行するディオンに当たるワケもない

『・・ブレェェェド・インパクトォォォ!!』

真っ正面から、しかも超高速で接近したディオンは戦闘機から飛び降り・・剣を突き出したままロボット兵の身体を突き抜けた
反対側に飛び出し落着、着地も華麗に決めるディオン

『く・・そったれ・・・・』

爆発!・・・・・そして砕け散るロボット兵
ディオンは剣を盾に収め、爆発に背を向けた


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「・・あの戦闘機が・・私の勇気・・?」
『正確には「あなたの勇気が呼び出す、私が本来持っている力」・・「ウルズ」と呼ばれるものです』
「でも私、あのとき何も・・」
『勇気というのは発揮しようとしてするものではありません、本来無意識のものなのです』

ディオン(パトカーモード)はヘッドライトを動かしながら言う

『いつ出るかもわからない不特定の気力、だからこそ私たちの本当の力すら引き出せるのですよ』
「でもあれっきり?ウルズ・・ってディオンの力が強くなるだけなの?」
『いいえ・・恐らくあれは私のウルズ・ユニットの一部に過ぎません。全てのユニットが揃えば何かが起きると思いますが・・』
「・・恐らくって・・ディオンさんの力なんでしょ?☆」

ディオンのヘッドライトが閉じた

『・・ええ、ですが・・我々はその惑星にあった姿になります。その際にパートナーとなる者を選び「勇気」を頂かなくてはなりません。そして「ウルズ」はその星々によって様々な形があるのです』
「・・つまり、どうなるかは全く未知数だって事なんだ。」
「景さん次第、ですか。」
「私・・次第・・」
『裕司くんのように行動に発揮せずとも良いのです・・あなたはもう、それが何かはわかっているのですから』


・・景はディオンの言葉を、静かに噛みしめた



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