T.C.UNIONRIVER ~ユニオンリバー社~

START

「はっ・・・・はっ・・・・・はぁっ・・・・!!!」

走る、ひたすらに走る
少女は閉じた店先の段ボールに躓き、雪の中に倒れ伏して、それでも立ち上がって、死ぬ気で走る
・・・後ろは決して振り返らない、見た時点で「もう終わり」だ
辺りには何故か霧が立ちこめ、ここが街の中とは思えない程の異様な空気を醸し出している・・・


この浮遊大陸都市:「聖天の祭壇(サンクチュアリ)」には、天暦元年である第四次世界大戦の終結後2000年もの間、大きな犯罪は発生していない
ある意味では「楽園」と呼べるほどに事件も何も起きない平和な世界であったハズだ。

・・・こんな「怪物」がいる事なんて、聞いた事もない

今自分を追っている者の存在を背中に感じつつ、少女は頭の中で必死に考えを走らせる
テレビのニュースにも、ネットワークにも、まして噂にすら・・・こんな状況は聞いたことがない。
夢、そう・・・これは夢・・・
そう思う事も出来たろうが、さっき倒れた時に打った膝の傷からは血が・・・そして確かに痛覚もある


・・・夢じゃない、さっきの光景も・・・


それは彼女が通学途中に良く話をしていた本屋の店主であった
つい今し方、「消えて」しまった・・・のであるが

「怪物」としか言いようのないその物体は彼に近づくと、彼の身体からシートのようになった「何か」を引きずり出し、「食べて」しまったのだ
長いそれが全てが食い尽くされた瞬間、彼は風景にとけ込むかのように、消えてしまった


・・その「怪物」が、さっきから彼女を追い続けているのだ
死にたく・・いや、「消えたく」なければ逃げるしかない
それにしても誰にも遭遇しない・・夜とはいえまだ20時くらいのはずだ、せめて警備プローブの一機くらいは徘徊していないとおかしい。


「あぅっ!」

鈍い衝撃が彼女の身体を襲った
一直線の路地に出て走っていた段階で・・・後ろから、何かが「ぶつかった」のだ


「は・・・・あ・・・ああ・・・ぁ・・・・!?」


違った。
視線を下に下げた彼女は・・・自分の身体から生えた「腕」に気が付いた
長く伸びた「怪物」の「腕」が・・・彼女の小さな身体を無常にも貫いていたのだ。


「い、痛っ・・・ぁァ・・・・・・」


殺される・・・!!
泣きじゃくりながら覚悟したその瞬間、その貫かれた腹部からシート状の何かが引きずり出された


「ッ!?」


いつの間にか近づいていた「怪物」は彼女の身体から出てきた「シート」を掴み・・・
・・その凶悪な顎を開き・・「食べ始めた」


・・・私も・・・消されちゃうんだな・・・


絶望し、痛みに意識を失いかけた時・・
彼女は深い霧の色にも負けない、「白い光」を確かに見た。


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・・・空が白んで陽が昇る、今日も一日の始まり・・・
外や廊下からは、学生達の朝の挨拶、会話がひっきりなしに聞こえてくる・・



「温いな。」
「そ・・・そうですか?」


目つきも凛々しい眼鏡の女生徒と、何故か顔を紅潮させた可愛らしい女生徒・・
・・・いや、淡々とした表情で紅茶を(何故か湯飲みで)すする女生徒と妙にオドオドしているもう一人の女生徒。
入口に「生徒会室」と書かれた広い部屋で、何故か二人はそんな会話をしていた
テーブルにはティーポットとカップと、何故か大量の白い粉が散乱する様がある


「・・・ふぅ・・」
「・・・・(どきどき)」


彼女がほっと一息つくのを(何故か)顔を紅潮させて見守る女生徒。


「・・・不合格だな、旗先君」
「・・・・・・・・・(がく)」


・・評価を聞いてうなだれる。


「・・砂糖を入れてくれとは言ったが、何をトチ狂ったように投げ込み放題投げ込んでいたのだ?」


そう言ってテーブルの上の白い粉を一口舐める


「い、いえあの、その、緊張してたというか、その・・・」
「?」
「ヒヲウさんに「・・私に紅茶を入れてくれ(声マネ)」・・なんて言われたのは初めてだったので、緊張してしまってっ!!」
「私に「美味い」紅茶を入れてくれ」


ぴた、と止まる1年の女生徒「旗先ナル」


「・・・注文は2度目だ、今度は緊張しないだろう?」
「・・・・・・・・・・は、はひっ!!」


余裕もたっぷりに微笑む「凛々しい女生徒」こと2年生の「逆波ヒヲウ」
・・しかしてナルの様子は対照的に、余計に顔を紅潮させてしどろもどろになっているような気もするが・・
ヒヲウはそんな様子に気づく事もなく、席を立つと窓際に立って外の景色を眺める

広大に広がる学園都市「聖界学園(サンタ・マギスタ)」の上層階・・高等部の生徒会室は、絶景と呼ぶに相応しい位置にある。
遙か遠くには巨塔がそびえ立つ中央都市が見え、反対側の窓からは輝く水平線と、太陽に照らされて輝く海が見える
・・だが彼女は、それを眺める意図があって立ったのではない

・・・いつも通り「ただ、なんとなく・・・」だ。


「出来ましたー!逆波せんぱ・・いや、ひ、ヒヲウさん~!!」
「いちいち慌てるなよ旗先君、後で制服のクリーニングが面倒だぞ。」
「っっ!?ひ、ひをうさんっ!?て、手が・・っ・・・触れ・・・っ!?」


ナルの入れた二杯目の紅茶を飲むため、ヒヲウは彼女を助けながらテーブルに向かった。


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『それは忙しい人ですね』
「・・君もそう思うかい?」
『ええ。・・・・だけど、ヒヲウ?貴女は・・・』
「そうだね、私的には好きなタイプかな。」


自宅のベッドで、ヒヲウは電灯しかない天井を見つめて話をしていた。

・・・話?
・・・何と・・・?


「また出たのか?」
『・・ですが、今日も2人、助けられませんでした・・』
「・・・そうか」


・・「出た」「助けられなかった」
この単語は、即ち二人の人間がこの聖天の祭壇から・・・この世界から「消えた」事を示す

彼女自身が一度「消えかけた」身だ、その意味が痛い程によくわかる。

この「声の主」と知り合って・・・助けられて、共に戦い出して何年経っただろうか
今では当たり前になったが・・たまにヒヲウは、家を抜け出してはあの「怪物」と対峙している
誰に言われたワケでもない、まして、この「声の主」に求められたワケでもない・・

幼い頃から信じてきた、「ヒヲウの信じるもの」が、それが正しいと告げていた・・それだけの事だ。


・・何故「あれ」が「聖天の祭壇」にだけ出現するのかはわからないが・・・


「やるさ、私は。」
『無理は・・・』
「しないさ、私は。」
『そうです、ね。』


眠りにつきながらも・・・・ヒヲウは内に燃えている何かを滾らせていた。


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