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小学校の卒業式
あたしは隣のクラスの・・・前から気になっていた彼にさりげなーく声をかけた。


「あのー・・・」
「・・・なんだ女史?俺に話しかけるんじゃない・・・・・いらん非日常に巻き込まれる事になる。キミは死ぬほど後悔するだろう。」


いや、ソッコーあたし後悔したから。話しかけた事後悔したから。



「・・・そうだ離れろ・・俺の妄想に付き合う必要はないぞ・・・」
「・・・・・そうする・・・」


・・・なんだこいつ。


想像とかけ離れたヤツで、正直がっかりした
見た目はカッコイイし・・もっと面白いヤツかと思ってたのに・・・




なんでこんなヤツが気になっていたんだか・・・








中学に入って、今度は同じクラスになった
ヤツはあたしの後ろの席にいる

相変わらず言動が意味不明だ。キモいとか通り越して・・・引く。



「はい」
「女史、なんだコレは?」
「なんだって・・テストよ。今から。」
「フ・・・俺の何をテストしようと言うのか・・・これ以上試されるような覚えはないがな・・・フフフ・・・」
「・・・・・」


問答無用ではたいてやった。


・・・男だろうが女だろうが、もっと楽しいヤツはクラスにいる
なんでこいつが気になるんだろう。




「あんた、もっと真面目にしたらどうよ?」
「遠慮しよう。俺は目立つ事と己を制御する事が苦手でな」



俗に言う完璧超人。何でもできるクセにやらないのがこいつ。
何かにつけ「腕が疼く」だの「俺は狙われているから目立たない方が良い」とか意味不明な妄想を言って逃れる

・・・全く、何がしたいんだか・・・








ある日。


「なぁ・・俺に不用意に関わってくれるな女史、何度も言っているがキミも巻き込まれる事になるぞ」
「はいはいはいはいウザったい。席が近いと関わらざるを得ないのよ、OK?」
「知らんぞ、そろそろ最後の一週間が始まってしまうからな」



・・・なにそれ。



今更だけど、こういうのを厨二病って言うんだっけ?
こいつの病気は相当なモノらしいわ。・・さすがのあたしもそろそろキレていいわよね?





・・などと思っていた矢先、「1日目」が始まった



最初に風が止まった

次に人間が止まった

世界の全てがサイレント映画のように、静かで殺風景なものへと変貌していく


「なにこれ・・・」


朝起きると・・いつもの風景がモノクロになっていた
本来動いていた全てが直前の姿のまま、ぴくりとも動かない
あたしの家族も、通学路の人間も、飛んでいる鳥ですらも・・・

学校に駆け込んでみても差はなかった
何もかもが白と黒になっている


「なによこの夢!・・・お、おかしいんじゃないのあたし・・・」
「キミはおかしくはないぞ女史、「世界がおかしく」なったのだ」


気取った仕草で廊下を歩いてくるのは、あいつ。


「な、何よ!まさかあんたの仕業!?」
「ああそうだ。」


・・即答に唖然としてしまった。


「・・・だから言っただろう、最後の一週間が始まる。俺が興味をもったせいでキミは巻き込まれたようだな。」
「は?あたしに興味・・・って」


今そんな事はどうでもいい


「最後の一週間って・・あんた何をするつもりなのよ!?」


ヤツはメガネを外しながら話を続ける


「正確には「昔の俺」が「するつもりだった」・・んだがな。」



こいつは昔から空想がちだったという
当時、幼稚園児のヤツの元に現れた「かみさま」と名乗る不審者曰く


「おもしろいことをかんがえるキミにちからをあげよう、いちにちすきなだけかんがえるんだ。かんがえたことはきっとほんとうになるからね♪」


そう言って消えた、一瞬の出来事。
目的は今思ってもまったく不明。ただ・・幼年期の「妄想」は度を超して凄まじく、一日でとんでもない数を生み出した

ある日から妄想は現実となり・・・これまでにこいつを時に楽しませ、時に苦しめてきたという



「そして最後の妄想が「最後の一週間」・・・世界を破壊する怪獣が現れて世界を終わらせるというものだ」
「・・・・・・・・・マジなのね」


なんだか脱力してしまって、教室の壁にもたれかかる


「だけどあんた、なんでそんな妄想を・・・」
「厳密にはその続きがあるんだ、俺はその怪獣を倒してヒーローになる。」
「・・・・ハっ・・・ガキっぽい・・・」
「全くだ、だが俺はヒーローが好きで好きでたまらない性分でな」


ヤツは突然妙なポーズをとり、ジャンプした


「こうして自分がヒーローになる妄想ばかりしていたのだ」
「・・・・・ちょ・・・・・」


ライダーだっけ、なんだっけ。
そんな姿になり、普段とは明らかにテンションが異なるヤツがそこにいた


「さぁそういう事で行くぞ女史、こうなったらキミも一緒に世界を救うのだ!」
「は、はい!?あたしもやんの!?」




こうして、厨二病ヒーローとあたしの珍妙な一週間が始まった。










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「・・・一週間って、一週間何も起きてないじゃない・・・」


ヤツにつられて一週間、結局あたしは妙なサイドカーの隣に乗って日本中を旅してきただけだった。

誰も動かないのを良い事に食い歩き道中したり、タダであちこち観光してきたり。

・・・まー楽しかったけど、さ。



「油断はいけないな女史、最後の一日だからな・・・いよいよという所だよ。」


相変わらずバリバリのヒーローの格好をしたヤツが、サイドカーを運転しながら言う
・・・今更だけど中学生なのに運転していいわけ?ヒーローならOKってこと?



「油断も何も怪獣なんてどこにもいないし・・わっ!?」


モノクロの世界に、突然炎が巻き上がった
サイドカーは直前でブレーキをかけ、停止する


「お出ましのようだな」
「あ、アレが・・・・・」



デカイ


都庁ビルとか引っこ抜けそうなサイズの巨大怪獣

それがあたし達を見下ろしている



「俺はこの時のために数々の試練を超えてきた、かつての妄想を打ち破り真のヒーローとなるためにな!」



ヤツはヒーローらしくものすごいジャンプをし、手にしたレーザーガンを撃つ
怪獣はひるんで体勢を崩し、ヤツが続けて放ったキックであっさり倒れてしまった


「わ、すごい」
「当然だよ女史、自分の妄想に負けてたまるものか」


言ったが早いか、怪獣はものすごいスピードで立ち上がった

空中でポーズを決めていたヤツは、あっという間に怪獣に殴られて吹き飛んだ


「って・・・ちょっとぉ!?」


駆け寄ってみると、ヤツはただの一発でボロボロになっていた
ヒーローの装備は砕けてしまい、ヘルメットも割れて素顔がのぞいている


「・・・・・そうか、今の俺よりも当時の俺の方が妄想力で勝っていたという事か・・・!」
「はぁ!?」
「俺のヒーロースーツは妄想の力を具現化したにすぎない。」
「じ、自分の妄想に負けてどーすんのよ!?バカッ!!!どうなるの!?あたし達どころか世界の終わりエンド!?」
「すまないが・・・そういう事になるな。」


ぷつっ


あたしの中で、何かがキレた


「バ・カ・言ってんじゃないわよォォォォォォォ!!!!」


瓦礫となっていた鉄骨を掴み、怪獣めがけてぶん投げる

がつんっ!と当たって怪獣がよろける


「女史・・?」
「あたしは!やりたい事が!たくさんあんのよ!!」


何か掴んだ
適当に投げる
当たる


「人並みの学生生活送って!高校行って!できれば大学出て!そっから専門の勉強して!!」


何か蹴った
当たる


「稼いで!結婚して!!子供作って!!楽しい主婦生活送って!!」


レーザーガンを拾った
投げる
当たる


「あんたとさ・・・!!あんたと結婚して・・・!!死ぬほど幸せに生きてやるんだって決めてたのにさァァァァァァァ!!!!!」


何か掴んだ
投げた


「じょ・・しィ!?」


ヤツだった

当たる

怪獣が・・・倒れる



肩で息をしながら、あたしは吠えた

「ああ好きだよもうッ!!あんたが好きだからさぁぁぁぁぁ!!!だからぁぁぁぁぁぁぁ!!!だからさぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」






















「ッ!?」



はっ、と我に返る
目の前にはテストの解答用紙

・・・時間は・・・午後の最初の授業


「・・・・・・」


・・・何だ、夢か





「・・・・・!!!!!!!!!!」



周囲が驚く中、あたしは恥ずかしくて机に何度も頭を打ち付けていた










「最悪の夢だったわ・・・」
「おう、女史。」


珍しくヤツから声をかけてきた

・・・さっきの夢がリプレイされて、また猛烈に恥ずかしくなってきた

「な、ななななな何よっ!?」
「すぐに戻ってしまったので言い忘れたが・・・・・」



ヤツは初めて照れたような仕草を見せながら



「俺もキミの事は大好きだぞ」




とだけ、言った






数十ある「世界」の群れ
一つ一つに管理者である「神」と呼ばれる存在がついている
「神」は自分の任ぜられた「世界」を守るためだけに存在している
・・・それがすべての根幹である

「神」同士の関係は人間的であり、それぞれが協力したり対立したりもしているが、他の世界に関しては干渉しないのが基本である
・・・「神」全てを束ねる「大神」はそう残し、現在はどこにいるのやら・・・


そしてこの世界は「回り続ける世界」
「延々と同じことを繰り返す」という世界である
世界は「世代」で8段階に分かれており、それぞれの世代が終わって、次の世代がきて・・そして最初の世代に戻っている

この世界の神・・いや、「かみさま」は同じものを見続けるなどヒマでしょうがなかったので自分の管理する世界にちょっかいを出し始める
あくまでその世界のものを使っていたためにどんだけ大規模なことをやらかしても問題はなかったが・・


・第一世代(1900年代
「かみさま」何度目かの介入。
でかいこと(ビル爆破とか)をやらかそうと思って油断、咲夜がその気配に気づいた
・・・わずか数秒の出来事ながら、「この世界のものではないもの」が介入したため世界が狂い始める

咲夜はこの直後に死亡する運命を回避し、アステリアと知り合う
事故により消失するハズだった「エクレシアの遺産」が遠く離れた宇宙海賊・アースガルズに察知されてしまう
「次の世代」に切り替わるまで何事もなく過ごすハズだったA.I.O.Nを巻き込んで一大戦争が始まった

後に咲夜たちの呼びかけでカティらアースガルズと和解し世界は平穏を取り戻した
・・・が、その後の世界に影響が出ることを懸念した「かみさま」が強制的に「次の世代」への移行を開始

A.I.O.Nとアースガルズは事態に最後まで対処を試みるが、世界は無に飲まれて消滅した


・第二世代(9000年代
さて問題も解決した所で何をしようかなー・・とか思っていた「かみさま」
「帝国と反乱軍が同士討ちで滅ぶ」世界を眺めていると、見た事のない人物が何人か存在している事に気づく
レミィを初めとする反乱軍・帝国軍双方の異分子は独自の行動をし、一進一退の攻防を繰り広げる
歴史通りに滅ぶ運命は変わらなかったものの、彼らの行動に少しだけイヤな予感を覚える「かみさま」だった。


・第三世代(2900年代
何でも屋=トラブル・コンサルタントが横行する世代で事件を起こして楽しんでいた「かみさま」
・・・すると、またまた見た事のない若造がいる事に気づく
「ロディ」と「セラ」の存在が第二世代から送り込まれ(逃がされて)いたのだ。
・・・「かみさま」は宇宙の犯罪組織「クライン」を利用し、兄妹を謀殺しようとする
洗脳されたセラとロディの相撃ちを狙ったが、セラの自害に近い死亡で激昂したロディは「クライン」を壊滅
これに呼応するように(予定より格段に早く)起動した「遺跡」の一斉蜂起で世界は滅んだ


・第四世代(D100年代
世界を変えた要素であるロディ達は死亡した、これでOK・・
・・と思ったら等のロディが中世的な世代であるこの世代に飛ばされてきていた

「魔王」と戦い全滅ENDの勇者「レイス」一行に合流した事で、魔王を倒してしまうという結末へ分岐した
・・が、その直後強制的に「無」へと帰した事で世界は次の世代へと移行した


・第五世代(2000年代
今度こそ世界は元に戻った・・と油断していたところ、天導寺重工がこの時点ではあり得ない技術を持っている事が発覚
天導寺舞人はこれを上手く使って世界平和のために広め、戦い始めた
・・・慌てふためいた「かみさま」は部下である「世界を見つめる「観測点」を世界に介入させた
間接的な方法なら問題あるまい・・と、観測点「ラプラス」の操る「異形」を東京へ投入
「異形」は天導寺の関係者を消去し、その技術を「なかったこと」にしようとした

・・・しかし、異形へのカウンターをかますように、「セプター」が出現する
この時代どころか見たこともない技術の結晶であるセプターに驚愕する「かみさま」
セプターとなった裕司と仲間達は天導寺の令嬢・景の(強引な)提案でA.R.Kを結成し「異形」を駆逐し始めた

キレた「かみさま」は「ラプラス」に異形の大量投入を命令
A.R.Kや天導寺舞人らは自らの街・六澄区周辺を「空間ごと」「自分達ごと」封じる事で異形を封印した

・・・この結果には鬱憤が溜まったものの、その後予定通り第三次・四次大戦が起きて世界は終わりを迎えた


・第六世代(2000年代
終わったハズの裕司達の世代がもう一度訪れた
再度驚愕する「かみさま」・・・ロディ達の世代移動や先代での「封印」の影響で世界が「分岐」してしまったのだ
2つの世界が存在する・・これは世界が「可能性」を持ち、無限に増え続けていく事を意味している

かつて第一世代で行ったように、この世界に存在する「宇宙海賊」を地球へ差し向ける
・・「異形」ではなく、この世界に存在するもので決着を付けようと焦っていた

・・が、結果として「宇宙警察機構」も呼び寄せてしまう
景と警察機構の「勇者・ディオン」が海賊を一掃し、地球は平和を取り戻してしまった
それどころか戦争が起きるハズの世界が統一されてしまい、このままでは未来永劫安泰などというありえない結末に・・

・・「かみさま」はリセットボタンを押すように「無」へと全てを消し去った


・第七世代(天歴
再び始まった世代はまたしても裕司達の世界・・だったが、前回自分がやったように「封印」の終わりを迎えていた
これで戦争が起きて終末、地球は洪水によって滅びめでたし・・かと思ったら世界は「浮遊大陸」によって新たな時代を迎える
天導寺舞人が未来を予見して設計したこれにより、生き延びた人々がいたのだ
新たに「天歴」が始まり、世界は戦争とは無縁の平和を紡いでいく

・・・「かみさま」が手をこまねいていると、封印されたハズの「異形」が勝手に進化している事に気づく
「デリーター」となった彼らは「世代」でなく「世界」そのものから襲った人間を消し去っていく
「最初からそうすればよかったのか!」・・「かみさま」はラプラスに「デリーター」を操らせ、次々人間を消し去っていく
本来あるハズのない「世代」なのだ・・そうしていつかこの「世代」の存在が消えれば、今度こそ世界は元の円環世界に戻る

・・と思いきや、デリーターに襲われるも逃げ延びた一部の人間が「こちらの存在」に感づいてしまった
ある意味「神に近づいた存在」となった彼らは各々の考えで「デリーター」と対峙し始める
生徒会長・逆波ヒヲウを初めとする聖界学園の面々もその一部として戦い始めるが力及ばず・・

「天歴」は浮遊大陸全ての墜落を持って終わりを迎えた


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