T.C.UNIONRIVER ~ユニオンリバー社~

第07話-1

あれから数日の後、地下から冬眠を終えたクマのように這い出てきたシュウ。

・・しばらく寝ていなかったせいか、とろ・・んとまどろんだ目をしている


少し開いたドアから、事務所の様子が見える


「・・お前、もしかしてずっとそれ着てるとか言わねぇだろうな・・?」

「うん、着てるつもりだよ♪・・だって、ちょっと丸めればサイズぴったりなんだもん♪」

「・・・・・勝手にしてくれ」


・・ロディのシャツは、すっかりメイの物になってしまっているようだ


・・感心のないように廊下をすたすたと歩き、階段を下りて1階へ・・


そう思った瞬間、頭がくらっ・・ときて、世界が回転し始めた

・・いや、シュウ自身が階段を踏み外し、転げ落ちていった

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僕は「天才発明家」滝村修。

・・いや・・「あの頃」はただの「天才」・・やることもなく、くだらない毎日を過ごしていた


僕の過去ほど面白くないものはないハズだ。

・・姉さん・・滝村桜も、きっと同じ事を考えている


小学生にしてすでにニュートンの万有引力の法則を数式に書き表せた

・・くだらない

中学に入る頃には自分で独自の数式を作り、数学界をあっと言わせるような発見もした

・・くだらない


「・・天才天才って・・うっとうしい言葉。」


それが自分にとっては「普通」なんだから、しょうがないでしょ

・・僕は普通に生活できればよかった

別に友達が欲しかったとか、先生と普通に話したかったとか、そういう事じゃない

・・僕にとってはそれだって「どうでもいいこと」なんだ


「たった二文字で僕の自由は無くなってしまった」


・・姉さんも、それは同じ・・と言っても、姉さんは僕のように思っていないみたいだけど

僕は世間の目をうっとうしいと思ったけど、姉さんは「もう一つの顔」があったから順応する事ができたんだ

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「シュウ・・だいじょうぶ?」


目の前に突然、リボンを解いたメイの顔が映った

シュウはにこっ・・と笑って、手をつくと起きあがる

・・何を言うでもなく、そのまま1階ガレージのシャッターを開けて入っていった


「・・だ、だいじょうぶなのかなぁ・・・(汗)」


頭がおかしくなっていないかと心配するメイだが、少なくともシュウの頭なら彼女の頭よりは大丈夫だろう(失礼)

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ガレージに入ると、しばらく点検も何もしてもらえず、ホコリを被ったトランスポーター・ラディオンがそこにあった

・・や、久しぶり。

シュウはちょっとだけ口の端をつり上げて笑う


整備を続けるシュウの脳裏には、先ほどの事がきっかけで「くだらない日々」の想い出が到来していた

・・くだらない日々・・あの頃に比べて、今はどうなのか


あの時・・

あの時の僕にとっては、「全部」くだらない事だったんだ


だから・・

僕は、「滝村修」であることを一度、やめたんだ


世の人々は失踪事件だのなんだのと騒いだらしいけど、その間の事は姉さんしか知らないだろう

僕は姉さんの作った生物・・僕の相棒、唯一友達として迎えた「シード」と一緒にいた

シードは僕と違って気が短く、騒がしく、楽しい奴

・・僕達は滝村修とシード、ではなくて・・「世紀の大ドロボウ」として名を馳せた

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「怪盗ブリッツァー・・?」

「何だよ、そのセンスのない名前・・」

「盗みの手口は電光石火!まさに電撃のように盗んで去る、すげェドロボウなんだってよ!」


・・ここは日本の中学校、シュウのクラス・・一応通ってはいたものの、決してシュウから周りに関わろうとはしていなかった

・・ただ、周りが「天才」という事を理由に見世物のようにシュウをはやし立てた

シュウはもう慣れたもので、いちいちイヤな顔やイヤな思いをするという事も忘れていた

ただ、にこにこと愛想良く笑っていればいいんだな、と学習していた

彼の学校での成績はもちろんのこと素晴らしいもので、義務教育の規制が変更されていなければ間違いなく大学まで飛び級のできる状態だった

・・「くだらない」・・シュウにとって面白いと思えるのは、シードやサクラと過ごしている普通の日常だけ。


「滝村くん、はい、お弁当」

「・・ありがとう」


・・唯一、ここで比較的「愉快」・・いや、「和む」とでも表現すればいいのだろうか

そういった気分になれるのは彼に親しく話しかけている女子生徒「天澄遥(ハルカ)」との語らいでだけ。


・・シュウを特別扱いしない、普通に接してくれる家族以外では唯一の人間・・

誰にでもにこにこと愛想良くしているが、ハルカに対してはサクラ達と同じように笑いかける事ができた


「・・いつもありがとう」

「別にいいよ~・・そんな改まらなくても・・(汗)」


・・だが、決してそれでくだらない日々が変わったワケではない

周囲の人間は過剰なまでに特別扱いをし、自分の発言にいちいち反応したり、驚いてみせた

それでもシュウは、いつものように微笑んでいた

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「・・シード、準備はいい?」

『おう、もっちろんやで!』


・・がしゃん・・がしゃん・・・・


重い歩行音と共に、シュウの見つめる先を3メートルくらいのロボットが通り過ぎる

・・ロボットではなく、正しくは「シード・シェル」という名の、シード専用の強化服のようなもの

シュウもマントにゴーグル、服装は黒を基調とした地味なものに着替えていた


・・怪盗ブリッツァー・・

別に自分で付けた名前ではない、サクラが悪ノリで付けた名前。

普段の生活のストレスに耐えかねたシュウは、夜な夜な世紀の大ドロボウとして盗みを繰り返していた


自分の考えた作戦で、自分の考えたように行動し、自分の思った物を盗む

・・・こういう時こそ、自分は自由でいられる・・


なんだか、そんな気がした


シードが警備員を捕まえてガスで眠らせ、その間にシュウはセキュリティを突破する

・・馬鹿げた行動、常軌を逸脱した作戦、人間とは思えない身のこなし

それを駆使して敵の設置した「セキュリティ」を破る

・・盗みが目的ではない、彼はあくまでもそういった思惑を破る事に快感を求めていた


普通の日常が「くだらない」なら、「普通じゃない日常」を求めるしかない

・・シュウの学生時代は、こうして過ぎていった

第07話「天才と謳われて」


仕事内容(メニュー):楽しみを見つける事

目的地・標的(ターゲット):特になし


依頼人(クライアント):別に、頼まれなくてもやるよ。

注意事項(ワーニング):特になし



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