第08話-3

S.G西安支部・・

急ピッチで開け広げられたドックの扉を、巨大な正方形のカーゴコンテナが牽引されて通り過ぎていく

・・この支部始まって以来の大騒ぎとなっているのは、リィズの乗る事になった大型試作ギアのためだ


「ラルフさんもぉ、無事に新型機の適正・・通ったそうですよぉ」

「ま、あいつ元々戦闘機乗りだし・・」


ラルフは数日前に太陽系を離れていた

・・それというのも、リィズ同様新型実験機を渡される事になったのだが、肝心の実験機が諸事情により動かせないという事態になってしまった

だからパイロットがこっちから出向いた、それだけの話なのだが


・・問題は、その試作機が「空間用戦闘機」であるという事だ

ギア(特に量産型)が好きなラルフだがそのポテンシャルを生かし切る事は苦手で、いつも負け色である(2話、3話参照)

ところが戦闘機はゲーム・現実を問わずもの凄い腕前で、一時期は「西安の鳳凰」の異名をとった程である


「・・その天才戦闘機乗りが、無理にギアに乗りたいなんて言い出して・・あんなヘボエースになってしまったと」

「大人しく戦闘機選んでいればぁ、今頃は本部勤務の幹部階級でしょうにぃ・・」

「レオネもそう思うわよね?・・やっぱあいつ、地に足ついてない男なのよ」


・・それは誉めているのかけなしているのか(汗)

ともあれ・・ラルフは戦闘機に乗って、試験飛行をしながら帰ってくるという

ワームドライブは太陽系に入る時の一回しか使用しないという話なので、大体一週間くらいはかかるだろう


リィズはこの場にいない男の事はさっさと忘れて、格納庫に運び込まれた自分の乗機へと駆け寄っていった

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ロディとネスの二人は、ブレードバッシャーの中からフォボスの光景を眺めていた


「・・この裏にある衛星だな?」

「ええ、9年前・・もとい、今で言うと二日前に調査団が向かった遺跡がある衛星です」

「まさか裏側に、名前のない衛星があったなんてなぁ・・」

「百数十年経って今更見つかった衛星、ってのがちょっと不可思議な気もしますね」


遺跡に向かおうと、ロディ達は小惑星を避けて進路をとった


『お・・お兄ちゃん・・・・・』

「?・・どうした、セラ?青い顔して・・」


いきなり通信回線が開いて、今にも倒れそうな程青い顔のセラが映った

ロディは何事かと質問する


『シードちゃんが車にひかれたの』

「ま・・マジかぁっ!?」

『・・次は私か、それとも詩亞さんか・・・』

「な、何の話だ!?」

『・・・・・』


セラからの通信はそれっきりだった

ロディはイヤな予感と、段々こみ上げてくる危機感を一気に爆発させた


「戻るぞ、ネス」

「は、はい!!」


一体何があったのかは知らないが、急いで戻らないと妹がヤバイ事になりそうな気がする・・・


「ヤバイのか・・ヤバイのかセラっ!?」

「メイ様の姿も見えませんでしたが・・」

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事務所に戻るまでには、衛星港の混雑もあって3時間を要した

ラディオンは信号無視を5回、一方通行の逆行を3回、空前絶後の超高度ダイブを1回して・・事務所のガレージに突っ込んだ


だだだだだだだだだっっ!!!・・と階段を上り、事務所のドアをばたん!と開ける

ソファーの一つにはセラと、すやすや眠っている詩亞の姿

反対側には包帯でぐるぐる巻きにされたシードが横たわっていた


「無事か!?セラ!!」

「お兄ちゃん・・」


セラはソファーの上に寝ているシードを指さしながら言う


「・・次はきっと私か詩亞さんが・・・」

「だから・・何の話だ?」


・・以下説明


「・・メイの作ったケーキを食べたらシードが事故った?」

「うん、シュウさんが後で何とかするって言ったから、とりあえず応急処置だけしておいたけど・・」


シードは確かにかなりのスピードでひかれたらしいが、流石にアーマーを着ているだけあって「重傷」より少しはマシな状態のようだ


「俺さ・・呪いとか祟りとかそーゆー関係は信じてないんだぜ?」

「で、でも、信号無視のトラックが3台連続でジェットストリームアタックみたいに突っ込んでくるなんてそうそう起きる事じゃ・・」


※しかも全員ひき逃げ。


「・・・そうまで言うなら俺もそのケーキを食ってやるよ」

「お待たせー♪」


開いていたドアから、エプロン姿のメイがあっけらかんとした顔で現れた


「あ、ロディ、お帰り」

「・・・・」


セラががたがたと震えだす

ロディは何気にその手にしている物を見た


「ほぉ・・なかなか美味そうなアップルパイだな」

「えへへ~・・ロディも食べてみる?」

「今その話をしていた所だ」


ロディは丁度良い大きさに切られていた一つを手に取り・・口へ運んだ


・・何ッ・・・!?


予想していた、焦げているとか、甘すぎるとか、味付けが狂っているような状況は大ハズレだった

一瞬、水の一滴が落ちるようなイメージ・・明鏡止水の境地に立ったような感覚


・・これは・・まさしく・・・・・!


「美味い」

「そーでしょー?・・材料いっぱい買ってきたから、ボクもっと作っちゃうよ♪」


思えば今までパンばかりで生活していたようなものだから、こういう機会はなかった

もっと早くに彼女の特技に気が付いていれば・・とロディは心底後悔した


「・・お前、プロになれるぞ」

「にゃは~♪」


今日は誉められ続けているためか、これ以上ないほど照れるメイ

ロディもよしよし、と頭を撫でてやる


「ンじゃ残りの分は俺がいただくぜ~♪」

「・・お兄ちゃん・・(汗)」


先ほどの話をすっかり忘れている、いや・・彼は信じていないと言ったか。

・・セラは不安に押しつぶされそうになっていた

兄までメイの作ったお菓子を口にしてしまった・・・もうこれ以上ない災厄が訪れるのかもしれない


「セラも食うか?」

「いいよ・・そんなに食べたら太っちゃう」

「そうか」


・・確か母を探しに行ったのではなかったか?・・・セラは目の前でアップルパイに夢中の兄を見て大きな大きなため息をついた

・・もう、まるで子供なんだから・・・


直後・・

この寒いのに開いていた窓から、一つの小さな網目模様の物体が投げ込まれてきた

色は緑・・だからといってメロンというワケではない


「・・何、コレ?」

「セラ様!離れて!!・・それは!!」


ネスが慌ててセラの身体に飛びつく

彼女はそれを手放してしまい・・・・床にネスもろとも倒れ込んだ刹那


ずどぉぉぉぉぉ・・・・・・・・


爆発が、事務所の中を埋め尽くした

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「・・うぐ・・・」


ロディはとっさにセラとネスの前に出て、爆発の衝撃をほとんど食らっていた

それでも生きているのは、爆発の規模がピンポイントで「点」であった事と、ロディの頑丈さ+上着の防御力があればこそだ


・・痛ってぇー・・・また肋骨くらい折れたか・・・?

ちゃっかり右手にアップルパイが残っているのは、どういうご愛敬だか知らないが(汗)


「お兄ちゃんっ!!」

「マスター!無事ですか!?」

「・・ああ、ちょっと肋骨くらいはヤっちまったかもしれねぇが・・何だったんだ、今の?」

「・・手榴弾ですよ、20世紀くらいに使われていた品ですけどね」

「・・・・・外にはもう誰もいないよ・・誰が投げ込んだのかわかんなくなっちゃった・・」


言い終えた瞬間、セラの頭に天井の破片が落ちてきた


ごすっ!


「はう・・・・・・・」

「・・・?」


いい所にヒットしたおかげで、彼女はあっさり気絶し・・ぱたん、と倒れてしまった


「せ、セラ様!?・・・・まさかホントに・・!?」

「・・こりゃあながち迷信ってワケでもなさそうだな・・・用心しねぇと」


・・今更、って気もするが・・・


ロディはセラを抱えながら、ちょっとだけ冷や汗を流すのだった

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・・ユニオン事務所でロディがセラをソファーに寝かせていた頃・・

西安支部では、全長30メートルの巨大ギアがついに起動しようとしていた


「たいちょー、準備はいいですかぁ~?」

『んっふっふっふ・・・了解してるわよ~♪』

「それはよかったですぅ~・・」


このときリィズはとんでもなくヤバ気な空気を漂わせていたのだが、レオネは気付く素振りもない


『G-H/SG-X2「G・スパイラル」起動!!』


音声認識システムがリィズの歌うような声を読みとって、G(グランド)スパイラルと呼ばれた巨大ギアのエンジンリアクターを始動させる

巨大な角のような頭・・そこにギョロリ、と光るモノアイが点灯し、吼えるような音を立てて全ての駆動系が回り出す


『・・・まずは駆動系チェック・・オールグリーン』

「エンジンリアクター・出力調整も大丈夫です!」

「センサーチェック、問題ありません!」

「・・だ、そうですよぉ、たいちょー。」


周囲に展開していたチェック目的の整備班、見物の他部隊メンバー、百人以上いる皆が揃ってその巨体を見上げる


『・・了解、じゃー武装チェックに移るわよ!』


リィズの声と操作は同調し・・グランド・スパイラルはゆっくり転身して、格納庫から離れていく

後部にはチェック用のケーブルがいくらかつながっているが、かなり余裕があるのでずるずると引きずられて本体に続く


『右肩パーツ「バルカンファランクス」』


だだだだっ・・という軽快な音と共に、肩からは小型の機関砲が連射された

演習用のターゲット・・専用の「ダミー・ギア」が一瞬で蜂の巣になる


『左肩パーツ「パルスレーザー」』


しゅっ・・・という空を切る音、レーザーの光が蜂の巣になったダミーをさらに貫いた

・・爆発し、四散するダミー


『背部パーツ「スパイラル・キャノン」』


出てきたばかりの新しいダミーは、あっさりと吹き飛んでしまった

・・周りで見ていた皆も、戦艦の主砲クラスというその破壊力に圧倒される


「お疲れ様でした二佐、テストは完璧です!・・格納庫へスパイラルを戻してください」


そして、整備班の一人がリィズにテストの終了を呼びかけた

・・だが


『私は・・私が・・・私がぁぁぁっ!!!

「ど、どうしたんだ!?」

「ギアに乗るの相当楽しみにしてたから、精神が高揚して・・!?」

「いえいえ、確かたいちょー・・お酒飲んでましたからぁ・・」


レオネの方を信じられない、という顔で凝視するギャラリー一同


グランド・スパイラルはがしゃ、がしゃと疾走し・・ケーブルを引きちぎり、大ジャンプした


『脚部パーツのテストぉ・・行くわよ~・・♪♪』


脚部パーツは・・爪先裏に装備された「ソニッククラッシャー」という装備

これは、毎秒数万という超振動でキックによる格闘戦のダメージをアップさせる目的で付けられたものである


『必殺!!イナズマキィィィィィック!!!』


・・ごっしゃぁぁぁぁぁっっ!!!!


演習場の地面はえぐれ、無論の事ダミーは完全粉砕され・・・そこには、大きな大きなクレーターができあがっていた

スパイラルの自重と、ソニッククラッシャーと、落下による加速の三点セットが生み出した究極の破壊力・・

今この場で笑っていたのは、酔っぱらいのリィズと、状況がよく飲み込めていないレオネくらいなものだったという


・・※何度も言うようだが、リィズ=トリーシア二佐は19才である(笑)

ましてギアに乗る前に飲酒などと、とても今がどういう時なのかを理解しているようには思えなかった


・・こうして、いつも以上にドタバタしたまま、空白の三日目が幕を開けようとしていた

時間以外に特に何の異変もなく、皆誰もがいつも通りの生活を送っていた

何の異変もないのは、平和な所以だと、そう確信していた

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