2013/02/25(月)10:56
キャスリン・ビグローの新作「セロ・ダーク・サーティ」を観る
オサマ・ビン・ラ=ディンを追いつめたのは一人の女性だった!女流監督・キャスリン・ビグローが描く壮絶なドキュメンタリー 「セロ・ダーク・サーティ」予告編http://www.youtube.com/watch?v=gI7TxhnzXrU 「ライフ・オブ・パイ」に続いて、先日、今年のアカデミー賞6部門にノミネートされた話題作「「ゼロ・ダーク・サーティ」を観てきました。監督は、今年62歳になるアメリカの女流監督・キャスリン・ビグロー(下の写真) 彼女は1983年の「ラブレス」以来、男性監督も顔負けのスケールの大きいアクション映画を撮り続けているハリウッドでも数少ない女流監督です。イラクを舞台に、アメリカの爆弾処理班の苦闘をドキュメンタリー・タッチで描いた「ハート・ロッカー」は、前夫であったジェームズ・キャメロン監督の「アバター」とアカデミー賞を争い、結果は「ハート・ロッカー」が主要6部門で受賞、彼女は女流監督として史上初のアカデミー監督賞を受賞したことは記憶に新しいところです。 「ハート・ロッカー」予告編http://www.youtube.com/watch?v=J22-8Bu4mHw 「ハート・ロッカー」は、上の予告編のような緊迫したシーンが全篇続いています。主役は、前任者の殉職で、新たに爆弾処理班に編入された「命知らず」の二等軍曹ですが、班のメンバー全員が主役のような感じで、いわば、「集団が主役」のように、当時観たリュウちゃんには感じられました。あの時の感じでは、爆弾の処理のデティルに目が奪われ、個々の人格は余り見分けることは出来ませんでした。 今回の「ゼロ・ダーク・サーティ」、全体の映像の印象は前作の「ハートロッカー」と類似していますが、以下の2つの点で、「ハート・ロッカー」よりも後々に強い印象の残る映画になると感じました。(1) 映画の内容が、2001年9月11日のアメリカの同時多発テロの首謀者とされたアルカイーダの指導者・ウサマ・ビン・ラーデンの殺害であり、「ハートロッカー」と違い、テーマが実に明確であること、(承知のようにビン・ラーデンは、米国の同時多発テロから丁度10年目の年(2011年5月2日)にパキスタンの地方都市アボッターバードの豪邸で、アメリカ軍によって殺害されたとされています)(2) ビン・ラーデンの居場所を長期に渡って追跡し、遂に居場所を突き止めた「功労者」が、若く美しいCIA分析官のマヤ(ジェシカ・チャステイン=1977年アメリカ生まれの女優)であったこと、「ハート・ロッカー」の「集団主役」と違って、この映画は明確に彼女が主役です。 つまり、テーマが明確、主役が美しい女性、リュウちゃんのような中東の現代史に全く疎い人間であっても、容易に作品の世界に入り込むことの出来る映画なのです。 映画のタイトル「ゼロ・ダーク・サーティ」は、直訳しますと「深夜0時30分」2011年5月2日、ビン・ラーディンが潜伏しているとされた豪邸への突入作戦が開始された時間を指しているようです。この作戦の詳細につきましては下記にウィキペディアに掲載された文章を一部省略して下記に引用します。 2011年5月2日、アメリカ軍による作戦が開始される。目的はあくまでビン・ラーディンの殺害であり、生け捕りはほぼ想定されていなかった。 一部報道によれば、これに参加したアメリカ海軍の特殊部隊を中心とした約15人(25人説もあり)のメンバーは、ビン・ラーディンとその家族がいると推定された建物の敷地内にロープをつたって降下、建物を急襲して2階・3階部分には午前1時ごろ突入、側近が応戦したが、約40分の銃撃戦ののち邸宅を制圧した。ビン・ラーディンは武器を持っておらず、応戦したともしなかったとも報じられ[、頭部と胸部を撃ちぬかれ死亡。米軍は遺体を収容した。他にビン・ラーディンの子息と思われる20歳の男性、また別に兄弟2人の男性と1人の女性も死亡。女性は夫人の1人と報じられたが、後に「別人で夫人は負傷した」と訂正された。アメリカ軍側に人的損害は出なかった。その死はパキスタン政府当局によっても確認されている。 映画の前半は、ビン・ラーディンの部下ないしは関係者と思われる人物への、CIA担当官の凄惨な拷問のシーンが連続します。この拷問シーンについて、アメリカの上院議員らは、「ビン・ラーディンの所在を割り出すためCIAが拷問を用いたという印象を与える」として製作したソニー・ピクチャーズに抗議したそうですが、戦場でこのような非人道的な行為が行われることは常識であるとリュウちゃんは思いましたので、「よくぞここまで徹底的に戦場の非人間性を表現できたもの」だと感じました。 いわば、CIAの、ひいてはアメリカの恥部を暴きだす映画表現、キャサリン・ビグロー監督の英断に敬意を表したいと思いました。 映画の後半のクライマックス部分は、上記の豪邸への突入作戦を、実際のドキュメンタリー・フィルムを見ているような真迫の描写で見せてくれます。前作「ハート・ロッカー」で培ったキャサリン・ビグロー監督のハードなドキュメンタリー手法が見事に結実した画面だったと思います。 この非情な映画の中で、唯一人、美人分析官のマヤは常に冷静で、タフな男でも過酷と思われる任務を淡々とこなして行きます。しかし、冷静ではあっても、決して冷酷な人間ではない。分析官マヤを演じたジュシカ・チャステインは見事にこの難しい役を演じていたと想います。(ジュシカ・チャステイン) 非情な任務を成功裏に終えて、特別機で一人アメリカに帰って行くラストで、彼女が涙を流すシーンが印象に残りました。いい幕切れだったと思います。 あのラストの涙、彼女の心には、そんな感情が揺曳していたのでしょうか?