ことしのテーマ その2
島でも、世界でも、争いごとを知らないで育ったカカには、戦争の話はとてもショックでした。カカは心に誓いました。戦争をして島のみんなを苦しめることは絶対にしてはいけないと。そのためには、世界の国の代表と自分が仲良くする必要があるのだと思いました。もう一つ。トト王国でも身近に迫った問題がありました。皆が電気を使うようになり、便利な生活を覚えてからは、毎晩、停電が起こりました。小さな発電機で起こす電気では足らなくなってしまったのです。便利な生活をするには電気が必要です。でも電気を起こすにはエネルギーを使わなくてはなりません。カカは島を守るためには、これ以上、地球を温めてはいけないことを知っていました。カカは必死に考えました。どうしたら良いのか、夜もココナッツの油で作ったろうそくの灯りの下で、インターネットを使って調べ物をしました。毎晩、毎晩、地球と島の人たちのために必死で調べて、カカがたどりついたことは、風力発電と太陽電池を使うことでした。風力発電は大きな風車を風の力でまわして電気をおこすもの。これなら地球の空気を汚しません。島の中でも海風がいつも吹き付ける岬に風車を作ればよいのです。太陽電池は、太陽の光を集めて電気を起こしそれを蓄えるもの。これなら地球の空気を汚したり、地球を余計に温めたりすることもありません。島の中でも日当たりの良い平らな場所に発電パネルを置けばよいのです。早速、王国の会議で発表して、皆で取り組むことを決めました。でも、その前に大きな問題があります。風力発電を作るのにも、太陽電池を作るにもお金が必要です。会議の中では、大きな国にお金を借りればよいのではないか?という意見も出ました。それにはカカが賛成できませんでした。世界の会議で大きな国の支配者に出会ったときに感じた印象がとても良くなかったからです。この人とは距離を置きなさい。死んで星になった代々のトト王国の王様たち、カカにとってのお父様やおじい様たちが、そう教えてくれたような気がしたからです。風力発電や太陽電池を作るために、どうしたら良いのでしょう?材料を買うお金が必要なのです。カカは世界の会議に出席したときに、世界中の人たちがトト王国を訪問したいと挨拶してくれたことを思い出しました。世界からお客様を呼んで、島での生活を楽しんでもらおう。楽しんでもらったかわりに、島にもお金が残る。カカはそう考えました。最初にカカは、トト王国のお金の単位を、世界で一番使われているお金の単位と同じにしました。カカは世界の会議に出席するたびに、世界中の代表の人たちに「トト王国にいらしてください。」と声をかけました。世界の人たちがそれを知り、喜びました。トト王国を訪れるためには、一番近い大きな国まで飛行機で飛んで来て、そこから何時間も船に乗らなくてはなりません。大きな国の支配者は、空港で世界のお客様が立ち寄るだけなのを、悔しく思っていました。船に乗って、大きな国から離れたらトト王国のお客様です。カカはお客様を乗せる船をトト王国で作られたココナッツの油を燃料にして動くようにしました。ココナッツの油はガソリンとは違う匂いなので、お客様もよろこびました。島に着いたお客様を乗せる車もココナッツの油を燃料にして走るものです。排気ガスが臭くないので、空気が汚れません。お客様はとても満足して、よろこびました。島の誰もが、お客様を心から歓迎し、島に古くから伝わるおもてなしをしました。島の人たちは、昔のように一生懸命働きました。みんなの心に、風車と太陽パネルをそろえるのだという同じ目標があったからです。島を訪れた人たちは、きれいな海と、太陽の恵みの食べ物をとても楽しんで、お土産をたくさん買って帰りました。島でできるココナッツの燃料を使い、島で採れる食べ物を食べてもらい、島でつくったお土産を買って帰ってもらうことで、島では毎年たくさんのお金が使われました。そのお金をトト王国では、大切に貯めて、少しずつ風車と太陽パネルを買い集めて行きました。 十年が経ちました。今では島で必要なエネルギーのすべてが、風力発電と太陽電池とココナッツオイルでつくることができるようになりました。トト王国に遊びに来るお客様も毎年増えて、島の皆がそのおもてなしのために、一生懸命働いていました。カカも結婚して二人の女の子のお父さんになりました。子供たちは島の誰からもかわいがられ、叱られ、教えられ、昔のカカと同じように、育っています。いつかはカカの跡を継いで、島の女王様になる教育を受けているのです。自然と親しみ、おもてなしの心でお客様を迎え、何よりも島の人たちを心から愛しています。どちらが女王様になっても、二人が協力して島の人たちを守ってくれれば、それで良いと、カカは思っています。 カカとトト王国は、世界で一番地球を汚さずに、地球を大切にしている国として、世界の会議で表彰されることになりました。表彰式でカカは世界中の代表の前で五分間、演説をすることになりました。カカは今まで勉強してきた英語で今考えていること、地球のこと、島のことを話しました。カカが話している間、会場はシーンとして、カカが話し終わると会場の誰もが立ち上がって拍手をしました。カカはトト王国の代表として、皆にほめられました。カカは島の皆がほめられている気がしてうれしく思いましたが、ひとつだけ心に引っかかることがあるのでした。 島に戻るとカカはひとり、島の岬に立って海を見ていました。この二年、三年と海を眺めていると海水の量が増えていることに気がついています。島の砂浜も昔より狭くなりました。地球を調べている世界の偉い学者のグループが、あと三十年もすると、トト王国の島は海に沈んでしまうと発表していることもカカは知っていました。 隣の大きな国の支配者も、年を取りました。もう昔のようにトト王国を自分のものにしたいとは思わなくなったようです。やがては、海に沈んでしまう島には興味がなくなってしまったのかも知れません。大きな国は相変わらずエネルギーを使っています。トト王国のような小さな国よりも、エネルギー源の石油をたくさん生み出す国を自分のものにしたくて、軍隊を送り出して戦争をしています。 そんな大きな国を横目で見ながら、カカは地球と島のことを考えています。たとえ島が沈んでしまっても、島の人たちの美しい心は残ると信じています。二人の娘たちがきっと島の人たちを愛し続け、どんなに大変なことが起こっても守り続けると信じています。きっと、きっと・・・。大丈夫。 水平線の向こうに静かに沈む太陽が、やさしく、うなずいたように見えました。