2023/12/29(金)04:02
気紛れペルドン 納棺師 16
最期の北京中華饅頭を食べてしまうと悲しくなって来た。新たに手に入れる為には、彼女に北京に帰ってもらわねばならない。孤独を味わえばならない。
「北京饅頭が無くなれば悲しそうに、腹をすかせた野良犬の様に、空のレンジを見詰めるのね」
其れは図星かも知れない。
「私は饅頭屋の出前じゃないわ」
彼女の鋭い切り口をかわさなければならない。
「上海だけがクリスマスを祝えたらしいね。北京も天津も駄目だったけれど、上海だけが租界になっていた」
「皇帝陛下は気紛れに上海にサンタを招聘したのかも知れない」
「そうかな」
と僕は呟いてみた。
「君の気弱なボスが、自分が書記だった上海にクリスマスプレゼントを贈ったのかも知れない。それが出来たのは、君のボスの地位がせり上がった所為じゃないかな。詰り故郷の上海に良い想いをさせたい。武漢ウイルスで鎖国してしまった上海に、少し借りを返したいと考えた元上海の書記がさ」
「そんな解釈誰もしていないわ」
頬を緩めながら彼女はまんざらでもないと御機嫌になった。
「蔡奇より鼻の差程抜いたな」
「鼻の差は中南海では大きいのよ」
と自分の鼻を高くする。
「皇帝陛下は何か体の調子を悪くされた。もし万か整地の事があれば、壮大な陵墓が造られるどころか、山の中に密かに埋められるかもしれない、と陛下はパニックされている」
「だから上海にだけサンタを招待したってわけなの」
「自分が棺桶の蓋を被ったら、誰も信用できない。信用出来るのは自分の奥方だけだとなると、奥方を来年早々に、委員に格上げし、次いで政治局常務委員に。そして国家主席にと皇帝陛下が考えられても、可笑しくない。そして奥方を国家主席にする力はまだある」
「中々の想像力ね。見かけより」
「何時も中華饅頭を御馳走になっているから」
「北京に買いに行けと言いたいのかしら」
玄関のブザーが鳴り、カメラが訪問客を大きく照らし出した。痩せた狐のようなお隣さんが満面の笑みを浮かべ立っていた。