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カテゴリ:小説
にほんブログ村 にほんブログ村 にほんブログ村 意外な友人たちはすぐ傍に 理不尽さに対する思いと、心の痛みとに襲われて海野は、シヴァ神にさえ、こう頼んだほどである。 「シヴァ神さま。私を殺しても良いから、神山さんを蘇らせて下さいよ!」 さすがのシヴァ神も、そういう力は持っていなかった。生成や破壊というのは、もっと大規模な事なのだから、個人的に誰かを甦らせたりは出来ない。海野もそれはよく分かっている。分かってはいるが、「般若事象」の大災害や異変で、家族も親類縁者も無くしてしまった海野にとって、神山と言う同年代の友人がいると言う事は、それだけで大きな心の寄る辺であった。また、この大異変に対して、共に立ち向かう同士であった。その心強い友人を果敢無くも失ったのだ。海野のその心の内を察して、皆は海野を気遣った。中でも最も海野に寄り添おうとしたのは、山本五十六だった。山本は海野が川端の叢に座り込み、ものも言わなくなっていた時、自分も一緒にその叢に座り込み、そこで海野と酒を呑み明かした。そこにはやがて、小沢治三郎も加わった。小沢も察して、酒瓶を持って来たのである。 「長官!海野先生も!はい、酒持って来ましたよ。私もお仲間に入れて頂きましょう」 「おう!気が利くじゃないか。よくやった!」山本が言った。 「小沢さん。ありがとう」と海野も言った。 「女将がね、これを皆さんにって、作ってくれたから、持って来ました」小沢は、竹で作った大きな器に、たくさん詰めてある女将の手料理を、その場に置いて献杯と、小さく言った。 三人が座っているその叢は、その日の夕方、神山の遺骨を元に還した、その河の岸辺にあった。三人ともそのつもりは無かったが、結果それは、神山への献杯の場所になった。そこで山本も小沢も、生前、神山がどんなことをし、どんな人物であったのか、その思い出を海野から聞かせてもらい、これまで知らなかった神山の活躍ぶりを知ったのだった。 「実際、神山先生のお話を賜っていると、軍人をやっていては、決して聞く事が出来ない、刺激的なお話しばかりで、僕も軍人なんかにならずに、心理学者になれば良かったと、後悔しましたよ」と、山本が言った。 「初めてでした、私も。神山先生がどんなに優秀な方でいらしたのかを、よく物語るお話しばかりで、本当にねえ。軍人は頭を柔軟にしなくっちゃあねえ・・」小沢治三郎も、酒の器を片手に、しみじみと言った。 海野も、この辺りまで吞むと漸く、気がしっかりして来たらしく、常の海野らしい話しっぷりに戻っていた。 「人ってえもんは、ほんとうに、わからんものですなあ!」海野は河の流れに向かって、もっと、叫びたかった。神山を自然の大地へ、古代のインドの土に、還したこの河に叫びたかった。酒をグイと、吞んで海野はそこへまた酒を注いだ。 「二十一世紀からこの世界に、紀元前五世紀のこのインドに来て、古代の世界で、その土に還ったなんてねえ・・。神様はこんないたずらをするものなんですねえ」海野は、口から吐いて出て来そうになる神への愚痴を堪えて、また酒を呑んでいる。気を弛めたら、神への悪態を吐き兼ねないのを自分で分かっているので、それを、言葉には出さずにいたのである。 「おや。このシウマイ!なかなかいけますぜ!!」唐突に山本が言った。山本はシウマイと勝手に決めたが、実際それは一見、シウマイによく似た料理だ。山本は器を手に、二人にもそれを勧めた。 「シウマイみたいで、実際はつくねと言う感じだ」小沢もうまそうにそれを頬張っている。海野も同じ事をした。 「実際、これは、うまい!」海野がようやく「うまい!」と言ったので、二人の顔がほころんだ。三人は、また酒を注ぎ、存分に酒を呑んだ。 にほんブログ村 その翌朝、三人は久しぶりに寝坊をした。忌中なのだ、これで良いのだと三人は、実際に艦隊を「忌中、神山博士を悼む」とした。無論、海野たちも同じである。 「事が多すぎました。異なる次元に繰り返し、移動させられて、実際我々は、疲れ果てていたんですよ。暫くは何も考えず、心身を休ませたいものです」山本は、思い切った事をする。期限を切らずに、山本の全艦隊を暫時休み、としてしまったのだ。 「大切な人を失ったのですから、喪に服すのが当然ですよ。海野先生の御心とお身体が、しっかりと回復なさるまでは、わたくしども海軍軍人も動かずというわけです。焦る必要も無いのだし、海野先生には、ほんとうに、ごゆっくりして頂かないと」 山本は、海野が神山を偲ぶ心を大事にしたかった。それは、海野を思い遣っての配慮でもあった。 軍人は、現実には戦死した仲間たちを思い、偲ぶ暇など無い。戦争中の軍人は特にそうである。戦闘海域で、喪に服している暇は無いからである。簡素な海軍葬で戦死した仲間を送る事が出来たらまだ良いが、その時間さえ無いのが戦時の艦隊である。 山本はそんな海軍で生き抜いた。だからそれだけ辛く、悲しい思い出も多かった。小沢治三郎もそれは同じであった。海野が常の心を取り戻すには、ひと月ぐらい必要だろうう。全艦隊は、通常の休暇に加えて、このひと月間を休みとして、この際、艦隊全ての士気を高めようと言う意味もあったのだ。海野は日米両艦隊にとっても、重要人物である。その海野の心身の状態を、特に気遣わなければならない。 海野はまだ、心ここにあらずの状態で、魂が抜けたような有様だった。酒を呑んだら多少は元気になるのだが、それで気が晴れるわけでは無い。皆は、海野をさりげなく見守り、何かにつけてよく、声を掛けていた。いつもの海野に戻ったら、またどうせ、慌ただしい日々に戻るのだ。それなら今は、落ち着こうと、青年も、麻衣や二人の医師達、そしてモロも、決めたのだ。思えばこの、時空から時空への移動に加えて、様々な怪事象が始まってから、休暇など無かった。これは、言ってみれば、自分たちには、初めての休暇だ。それなら、誰憚る事無く、休もう。皆がそう決めたのだった。 海野の研究室にいた頃には、三か月に一日の休みさえ無い生活が続いたものだったが、今度の冒探検は、一年と半年を過ぎてなお、休みと言うものと縁が無かった。 海軍で山本五十六と言う司令官が、英断を下して、こちらまで長い休暇を取る事が出来るのだ。 皆は、神山の冥福を祈ると同時に、この貴重なひと月半ほどにもなる休暇に入った。 「鍵。モロを救った鍵って、何かを示唆してるんだと神山先生、おっしゃってたよね?」 広い、木製のテラスに厚手の布で日除けがなされ、その日除けの下に、藤と竹を組み合わせて編み上げた大き目の椅子に、ゆったりと腰かけて青年は麻衣とモロに話しかけた。 「はい。神山先生は初めにそうおっしゃっておられました。何の鍵なのかは分かりませんが、そう、何かを示唆するものだって、僕の襟首を掴まんばかりの勢いで。それで僕はこの鍵を神山先生にお渡ししたんです」モロがその時の、神山との問答を思い出しながら言った。 「ふうん。鍵が示唆するそれこそが鍵と言う訳かあ、神山先生がいなくなってしまった今、ぼくらだけでその示唆している何かを、見付けられたら良いんだろうけど」青年は然し、ゆったりした口調で言う。休暇を楽しみながらの謎解きだ。神山の言っていた事を聞き出しては見たが、青年一人の思考でそれが解けるとは思えない。医師達二人は、いずれ交替で医院『ayur deva』へ帰り、日々訪れる多くの患者たちの診療をしなければならない。皆と同じく全て休暇にしてしまったら患者たちが困るのだから。 まだ今は、医院をシヴァ神が護っていてくれるので、雲井、楠の二人や、浄行者とその従者ももう暫くは、『タパス』に逗留し、皆と一緒に過ごすことにした。殊に浄行者のとその従者は昨日の今日、マドラの街から遠く離れた、郊外の医院から着いたばかりだ。疲れを癒やし、暫時この宿で休まなければいけない。医院に帰れば、二人の医師の手伝いや、患者の世話で、パパカンダもカヴィも忙しいのだ。 今は、幸いにもシヴァ神が医院を診てくれている。シヴァ神は、大勢の患者を一挙に治癒させる「癒しの光」で、患者を治癒させた。シヴァ神には、これぐらいの治療はお手のものなのだ。シヴァ神だけが、何くれとなく忙しく、動き回っていたが、神の化身は疲れたりしない。瞬時に空間を移動して、あちらこちらに目配りをしていた。 状況の変化はまだあった。生前は、浄行者と従者の施主であった神山に代わり、海野がその役目を果たす事になったからである。パパカンダヤーナも従者のカヴィは、それに気を遣い、また遊行の旅に出る決心をしたが、心配は要らない。と、いうのは、海野が施主であるとは言うものの、それは、厳格に決まっているのでは無く、海野たちのグループが皆で柔軟に、パパカンダや、従者の、カヴィの暮らしや経済面を支えるので、何か、アクシデントがあっても、相互で補完する事が出来る。お金やその他、出家遊行者と、その従者の今後には、だからそれほど心配はいらないのだった。また、浄行者もその従者も、二人の医師の元で患者の世話をする。パパカンダとカヴィ・サルマンは、こうして医院で働く報酬を、布施として受け取る事が出来るのだ。 この時期、古代インドには既に、事細かな徴税法も定められており、報酬を得た者は法に則って税金を支払う決まりがあった。王国毎に分かれている古代のインドでは、国によってその法には差こそあったが、徴税に関する限り、さして現代と変わらぬ、細かい定めがあったのである。その一方で、法がそれを徴税の枠内に入れない職業の者は、その法に則り、徴税をされなかった。 時代が進み、次第に徴税の対象者が広がっても尚、徴税されない者たちもいた。それはパパカンダヤーナの様な行者だ。行者は職業では無い。社会の仕組みの外におり、神と真実に仕える人として、法律の適応外の立場だった。 一方、職業的な聖職者は課税の対象にされていた。占い、呪い、祈祷など宗教的な行為の対価を得る者、それで生計を立てている者は、浄行者とは立場が違う。徴税の対象となったのは主に下級のバラモンたちである。下級のバラモンは、現代の祈祷師に近い立場の者が多かったようである。 浄行者は定住をせず、遊行の生活をしている者達だ。聖職者でも、遊行の者達から税を取り立てる事は出来ないから、その対象外になっていた、と言うのが本当のろころだろう。 パパカンダヤーナの場合、その出家遊行の生活を支えている信念は、権威や権力の世話にならない事だった。並々ならぬ覚悟で遊行の道に入ったパパカンダヤーナは、権威や権力に依存したら、それは奴隷と同じだと考えた。彼はバラモンの出であったが、その立場を捨てて出家したのである。高級バラモンの家に生まれたパパカンダヤーナだったが、その家は、代々権力にへつらい、聖職者と言う権威の陰に隠れて 、悪行三昧。虚偽、詐称などは日常的で、聖職者と言うその立場を寧ろ、おざなりにしていた。 その有様はパパカンダの理想とする信仰者の生き方とは、かけ離れていた。そのままバラモンの家を引き継げば、彼は今頃、王侯貴族同様に贅沢な暮らしを保障されていた。だが彼は、それをきっぱりと捨てて出家したのである。 彼は、最近この休暇に入ってから、青年たちの輪の中に入るようになっていた。そこに、医師の楠や、雲井もいたからである。パパカンダは神山の言っていたと言う「符牒」や頻りとこだわった「鍵」の示唆するもの、と言う謎掛けを聞くと、次第にその謎について考え、自分の考えを雲井医師や楠、青年助手に話す事があった。 「鍵の示唆しているものですか。何でしょうねえ?でも私たちが思うより、簡単な事なのかも知れませんよ。その鍵が、無量大数に似た影を映し出すとか言いましたねえ?」と、パパカンダが言う。 「ええ。光の影に、∞ という今パパカンダさんがおっしゃった文字が映るんです」 「無限大というのですね、あなたがたの世界では?」 「はい。こちらの世界で言われているさっきの・・」 「無料大数のことですか?」 「あ、はいはい、その無料大数。よく似た概念ですよね!」 「ええ。まあ、そうですねえ」考える事も数える事も出来ないと言う・・。数えられなければもう、数の概念ではありませんからね」 「無限大とおんなじじゃ、ありませんか・・」 青年がこう、言いかけた時、いきなり(水平になる、真直ぐになる、一直線になる!)という声がした。青年助手の頭の中には、「水平になる!!真直ぐになる!!」と言うその声が反響していた。青年は反射的にキーンと耳鳴りのする頭部に手を当てて、その場にうずくまった。 頭の中で大きく反響しているその声には、聞き覚えがあった。(どこかで確かに聞いた・・。) 「どうなさいました!!」と言う、パパカンダの従者、カヴィ・サルマンの声が聞こえた後、青年の意識は遠のいた。 ![]() 雲井、楠の二人の医師が至急、青年を診察した。意識は戻らない。原因が分からないまま、青年助手は、宮崎の臼杵でも、同じ症状で何日も昏睡状態になった事がある。今度のものも、その時の症状に似て、急に意識を失ったのだ。以前と同じように、内科の楠が主治医になり、精神科医の雲井が、青年の付き添い医の役割をする。 ここは暫く、青年を安静に寝かせて、様子を見るしかない。 「何者」か、は、また一歩、見えない時空の狭間にいながら、こちらに近付いて来た。 亡くなる前日、神山はモロの部屋の床に置かれていたその鍵が、神によって故意にモロの部屋に置かれたものだ、と語った。神は、その鍵で何を示唆したかったのか?あの時、神山は、無我夢中でそれを考え、また、モロとその鍵の事で押し問答になり掛けていたのである。 神山がモロに言った「神が置いたもの」と言う意味は、神山ならではの、鋭い洞察から出たものだ。鍵は何かを解き明かす。そしてその示唆するものとは何か? 鍵の示唆するものこそが、謎を解くヒントだ。その示唆したものが謎を解く手掛かりを与えてくれるはずだ。 では、鍵は何を示唆すると言うのだろうか? 鍵と言う言葉。単語としてだけでは無く、そうだ、概念として考えれば「鍵」の示唆するところは数知れない。鍵穴、キーマン、切り札、キーポイント、キーワード。鍵が無ければ前へ進めず、その手前にはこの概念が示唆するものを探さねばならない。 神山はこれを、モロが首から下げているのを見て察したのだろう。自室の床に「落ちていた」とモロはその時言ったが、それは「置かれた」のだ。その裏に、「神」が意図した何かがあるのだと。 そのモロは、いつもなら、青年や麻衣、医師達のグループの輪にいるのに、今日は自室に籠った切りだ。 青年が倒れて、医師達はまだそこに付き添っている。モロは然し、青年が急に倒れて、昏睡状態になっている事も露知らず、午前の陽も高く、暑くて寝てなどいられない時間なのに自室から出てこないのだ。 元気なら、一階に設えられている、この広いテラスに出て、日除けの下、心地の良い寝椅子に横になっておしゃべりを楽しむのが一番だ。 「モロ君も神山先生の死で、悲しみの余り、ショックで寝込んでいる訳ではあるまいね?私が様子を見に行ってみましょうか?」テラスで寝椅子に横たわっている雲井医師は唐突に、こう、言われて驚いた。そこには、山本五十六が立っていた。山本は、このように突如相手の前に現れて、ものを言うのが得意であった。山本のそれは確かに、雲井の意表を突いた。 「あ、山本提督。モロの様子は僕が・・」出し抜けに声を掛けられ、驚いた雲井医師が、テラスの寝椅子から起きた時にはもう、山本は、歩み去ったあとだった。 山本は海野に気を遣い、モロの姿が見えない事にも気が付いて心に掛けていた。海野の方は一人で表に出かけている様だ。大方、今は一人きりになって、心の整理をしたいのだ。だが、モロは異次元からやって来た人で、とても繊細な神経をもっていた。知能も高い。それだけに山本は、逆にモロを気に掛けていた。 こんな心で山本が、モロの部屋のドアをノックしたが、返事は無かった。部屋のドアには、内鍵が掛けられていて、中には入れなかった。山本は、モロが外出で鍵を預けいるかどうかを確認したが、宿の係は、預かってはいませんよと言う。ではモロは、中にいて眠っているか、それとも故意に、ノックに返事をしないかだ。 鍵を開けてくれぬ以上、どうしようもない。山本はモロが外出でもする時には、自分にも知らせて欲しいと係に告げた。 神山と言う人物の突然の死は、それだけで、皆に大きな影響をもたらした。山本は再び、戦時の軍艦を思い出していた。仲間の死は大きな損失だった。それに加えて、遺体も戻らぬ事さえ多かった。人の死、取り分け家族や仲間の死の重大さを、山本も、小沢も嫌と言う程見て。感じて、そして悲しんだ。それだけに山本は、このような時こそが用心するべき時なのだと、忌中に対する心得があった。 人は時に、悲しみの余り、バカな事をするものだからだ。 いずれにしても、長い休暇になりそうだと、山本は思った。 (続く) にほんブログ村 にほんブログ村
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2024/08/29 10:26:58 PM
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