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THE Zuisouroku

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2025/10/17
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カテゴリ:小説
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 この時空間は連綿としてつながり続け、果てしなく流れている大河の岸辺に立ちながらそれを見ている時に感じる、あの空虚な感覚・・。
 自己が如何なる理由によってここにいて、何に由来していま、この時空間にあるのかと言う永遠に答えの出ない問いを発している何者かの気配をそのすぐそばに感じる時、あなたと言う存在に付いて、一体あなたという人は誰なのかと言う、概念的名辞ではもはや測り知る事が出来ない「何か」になってしまったあなたは、その雄大な大河と一体になっている自己を発見するだろう。

 その時あなたはまさに、いままで確かに佇んでいたはずの大河の畔から離れて、時空間も言語も絶し、それを決して寄せ付ける事の無い謎の「場」に立っている。
 あなたは最早その刹那、あなたでは無い。かと言って他の誰でも無いのだ。
 だが、あなたの自意識はそこにあって、元の大河を眺めているのだが、その時あなたの意識は実体そのものに一体化している。
 時間も言語も空間も、超絶する実体とおなじなにものかに変化して、実体と同じものとなっている。
 ただ、あなたの肉体は相変わらずその大河の畔にあって、傍から見れば元の様に貴方はそこに物質的な体を有しながら佇んでいるので、誰もそのあなたの様子が変だとかおかしいとか、そんな怪訝な風に思われるような事も無い。

 あなただけが時空を超絶し、そして一体となっているところのそれは、何なのか?
 それは、説明をしようとあなたが例え一言だけでも言葉で表した途端に失われるが、時間、空間、そして言語を超絶したところに、あなたの本質は超然としてあり続けている。

 一言でも言葉にすれば、その超然たる何者かはこの世界の中では途端に相対化され、何者とも言えず、また何者とも呼べないところの至極下らない、ありふれて陳腐なものに変化し、批評家たちによるえげつない言葉の攻撃に晒される。

 その消息は、実体と書いたこの文字を見ると良く分かるだろう。 
 あなたが言葉にした途端、あなたが一体となっていたはずの超絶的な存在は、実体と言う陳腐なただの言葉に化けてしまい、その正体を隠してしまう。

 神山も山本も、再び消滅した様にその姿を何処かへと消した。
 が、海野を始めハルゼイも宇垣も、誰一人、それを怪しむ者はいない。
 彼らはみんな、そんな事にはもう慣れているのだ。
 何ものをも超絶して孤高としたなにか、何者かに支配されている世界なのだから・・。
 自分たちはもう、この大きなものか魔人か知らぬが、そんな名の付けられない存在に弄ばれながら何とか元の世界を取り戻すしか他に、手段が無いのだと言う事を嫌と言うほど知らされている。

 海野たちの周囲にいる者たちは 例え誰がいなくなろうがもう、いずれ戻って来るさ、とそれを気にも止めずにいられるようになっていた。が、それは或る意味、海野たちの進歩であると言えた。

 焦ったって無駄。世界は核兵器によりとっくに壊滅した。いまさら焦ったって何が出来る、と言うその「何」が無いのだ。いっそ潔く「何も無い」と言う方がすっきりする。

「この世界を否定するような奴は嫌いだねえ、ぼかあ!なあ、おい!」
 海野は感情を抑えながらもついに我慢がならず、溢れる自己の生存への情熱と、生きる事へのただならぬ熱意のために、いつもの如く唐突に、誰から言われるともなくそう叫んだ。
「ぼかあ!この世界の事を、決して禅坊主どもが言う様な、仮の世界でもなんでもないと思ってるっ!
 何が仮の存在だっ!僕らはちゃ~んと生きて、生きてここにあるじゃあ無いか!なあ、おい!この世界が実際には存在しないんだとかなんだとか、そういうバカバカしい事を言う人はどっかがおかしいんだ!生きてここにあると言う、この事実をどう見るんだ!自分がいまここに、正にこうして存在出来ている事に感謝さえもせずに、仮にあるだけだなんて!どうしてそんな事が言えるんだ!そう言う、トンチキがぼかあ大嫌いだ!」

「そうだよ、海野君!君らしい意見だ。君のその思いは君が科学者として謙虚である証拠だと思ってる!海野君。今後もその意気軒高なところで大いにやってくれ!」
 本当は、大洋に向けて半ば八つ当たり気味にしゃべり、怒鳴っていた海野に、突如こう言ったのは入室したなりの国連国家元首、内藤尋だった。

「あっ!内藤首相!」
 大洋は、思わぬ助け舟が現れた事に顔を輝かせながらこう言った。
 その後ろには副首相で大学の研究者としては大洋の先輩格の荻野渉も一緒だ。
「科学者として謙虚であろうとすればするほどに、腹が立つんだろう?トンチキな宗教観に誑かされるバカ者共の事が腹立たしいのは海野君、わたしにもよおっく!分かるよ!」
 内藤は、凝っと海野の瞳の中を覗き見るが如くにまじまじと彼を見て、うんうんと大きく二~三度頷くと更に「で、どうだい、この研究室の使い心地は?」と尋ねた。
 
 内藤は国連軍の総司令官として、神山を日本から北米まで送ってくれたあの巡洋艦『妙高』を、改めて神山艦隊の旗艦とした。
 神山艦隊には海野と共に神山も参加出来する、海洋科学調査艦隊の任務を付与し、その中に一つ大きな部屋を用意して、それらを海野と神山とが自由に実験と検証に仕えるよう、立派な最新の機材を投入した研究室をつくり、彼らとその配下の将兵らに入室と使用の権限を与えた。
 また陸上にも、シェラネヴァダのこの地下シェルターの中に『妙高』のものと同じ規模の研究室を作って、海野や神山が研究に不自由しないよう、二つの研究室を与えてくれたのだった。

 海野は内藤の質問に気を取り直し「あ!はい、首相。それあもう、使い勝手が良くって助かっております。これで益々一層研究に励んで一刻も早い人類世界の復旧に資したいと、そう願っております!」
「おいおいどうしたんだ?海野君?そんなに改まり過ぎるなよ。海野君!俺の事は元の通り内藤さんで良いよ、そんなに改まれらるとやりにくくって困る」と、言って笑顔になった。

「はい、首相。然しそれではあんまり・・。今や、閣下は国際連合を内包した『日本国連国家』Japan and United Nations (JUN)の元首であらせられます。そのようなお方を・・」
「構わないって言ってるだろう?この内藤尋は、例え何者になろうと内藤尋なんだから、第一僕は、君の兄上のお寺の檀家総代をしていた時から君の事はよく知っているんだ。君が次第に学問を深くしながら育っていく過程を僕はずうっと見ていた。君の兄上が核戦争に巻き込まれて不幸にも亡くなられてしまった事は、首相として悔やんでも悔やみきれんが・・。」
「総理・・。ありがとうございます。兄もきっと喜んでおる事でしょう。私も、内藤首相の為とあらば、そして、全人類の将来のためならば、世界は仮に存在しているんだ、なんて言うへんちくな事は考えもしません!わたしだって、ここにこうやってちゃんと!存在しているんですから!」
 海野はまたも、存在に付いての仏教的な見解を「へんちくな発想」だと繰り返したが、研究室の事についての彼の感謝の念も十分に伝わった。
「それで良いんだよ!あ~良かった!俺もこれで少し君の役に立てた訳だな!調査船『あらなみ』の時には大失敗をしてしまい、君や神山博士には、なんとかいま出来得る限りの良い環境で研究をして貰いたくってねえ!」と、内藤はそう言って相好を崩すと「神山博士は?」と、思い出した様に聞いた。

「はい。それがですねえ・・、神山先生はまた行方が分からなくなりまして・・。然も今度は、山本提督も消えてしまって」
 海野の答えに内藤は「でも、その内にまたあえるんだろう?もう俺も、人が消えたり、生まれ変わってきたりと、そう言う現象には慣れっこになったよ。なにせ神山博士のひいおじいさんの霊魂までが、実体を持った人間としてこっちの世界にいるって言うじゃあ無いか!こうなったらもー!天変地異でも何でも来いってえもんだよ!なあ、海野君!」

「はい、総理。おっしゃる通りです。私は飽くまで、珍妙な仏教の屁理屈なんか信用しませんがね!そうやって、へんちくな否定の哲学なんかに逃げ込むのでは無くて、科学者として少なくとも、常に科学に対して謙虚でありたいと思っております。仏教なんかに敗けるものか、ですよ!」
「そうだ、海野君!その意気軒高な君こそが、本物の海野君と言う人間だよ。そうとも!世界が仮に存在しているなんて言う人は、この世界には一人だっていないさ。科学者としての君のそう言う謙虚さには俺も感服しているよ!」

「僕はこの冒険が、いつまでも続いて欲しいなあって思っています!だって、みなさんと一緒ですからこんなに心強い事は他にありませんし、いつもすぐにこの世界で最も優れた政治家の皆さんや、すごい学者の皆さん方にお目に掛かれるんだなんて!僕にはこんなに楽しい事はありませんから!それに、いろんな神様までが助力して下さってる・・」
 ここで太洋が話に入って来た。太洋も久しぶりの内藤の顔を見て余程嬉しいらしく、その喜びはその顔全体が輝いている事からも分かる。

「おう!太洋君も、その意気!その意気だ!海野君や君に、荻野君も含めても、もう海洋生物学者は世界にたったの三人しか生き残っていないんだ。君たちにはひとかたならぬ苦労ばかりを掛けるが、頼んだぞ!太洋君、荻野君!」
 海野もうれしい笑顔でそれを聞いていた。二人共に自分の学問上での弟子である。
 その愛弟子の二人が、国連国家の元首にこう褒められて嬉しくないわけが無かった。

「はい!」
 と答えて太洋は「でも僕は思うんです。お経って流れなんじゃあ無いのかなって。これまでにも、知らなかった事を神山先生から色々と教わりましたが、仏教の考えていた事って流れなんじゃあ無いかって。それも川船みたいな。」と言った。
 これには海野が、困惑気味に「なに?川船え?」と言う。



「はい先生。大きな河の上に小舟が浮かんでいてその舟が、大きな流れと共に流されて行くでしょう?」
「ああ!船下りか!」
「はい。まあ、そう言う所かもしれませんけど。ともかく河だけが流れ去って行くと言う事じゃないんだなって・・。その河に浮かんでいるひとつひとつの小さな船が、僕たちなんじゃあ無いかって。だから人間存在はその持っている視点として、各々が何をどうとらえているのかで考えも見解も変わってきますよね。いままで言われていた事には、小舟で一緒に流れていく、大河を下って行く、大河の上に浮かんでいる自分、って言う視点が無かったんじゃないかと思うんです。流れるものって、大河の水だけでは無くって、自分と言う小舟も同じ様に流されている。僕はそんな感じに受け止めています。ここに神山先生がいらっしゃらないのが残念ですが、僕!神山先生が帰って来たら早速この考えを聞いてもらいます!若し僕のこの視点が好ければ、なんかのお役に立つんだったらですが、そうしたらなお更嬉しいんですけど・・」
 海野は変な顔になってこれを聞いていた。科学者として謙虚であれと言ったばかりの自分の見解をまたこいつは、妙ちくりんなお経の説なんて持ち出して来るのかと、いささか海野は食傷気味だ。

「おい太洋よ。おまえ、かぶれたんじゃあ無いか?へんちくりんな仏教なんかに引っ掛かってる場合じゃあ無いんだぞ。いまはおまえ、そう思ったとしてもなあ、仮にある存在なんて言う、そんなアホみたいなものがあると本気で考えているのか?」
「いいえ。それは嘘だと思います、仮にある自分なんて言う者は。でも、視点とか流れとか、そう・・。運命とか神様とか、そういうことを表すには仏教の視点を少し補ってやればヒントにはなるかもしれないなあって。神山先生の色んな幅の広い御見識をお伺いすると、神山先生のお考えはそう言う複合体でしょう?混然一体となったものでしょう?それが自然と出て来るって凄いなあと思うんです。事実、神山先生には幾度も助けて頂きました、数秘術もそうでしたよね!」
 と、言う太洋を、恰も自分の孫でもみるように目を細めながら、頑固者で知られる小沢治三郎提督がこう言った。

「太洋君もさすがに成長したもんだ!」
 小沢は直言居士らしく、このただ一言だが、この様に言って大洋を誉めた。

 海野は小沢治三郎がこう言ったのにはさすがに反論する気にはなれなかった。なにせ小沢提督は合理主義者だ。その小沢が大洋の言う仏教の視点とやらを、こんな風に褒めてくれた事が寧ろ海野には意外の感がしていた。

 そこに内藤が「まあ!ともかく。みんなで協力しなくっちゃあな!神山先生には米国の素粒子論が専門のゴードン博士にも会って貰おうと考えていた矢先だったんだがね・・。またどっかに消えてしまうとはなあ。いま一番必要とする人が、ここぞ、と言う時になると消える。なんだかそんな気がしないかね?俺みたいな無用の政治家は消えずに、君たちのような有能でこれから大いに働いてもらう人に限って、神だか何だか知らんがすぐ、どっかへ消してしまうんだからなーあ!困ったもんだよ!」

 そこへ「ああ、内藤さん!ここだったのね!さがしたわー!」と、米国務長官のキャシー・アーネストと国務次官補のジェームズ・プラットがどやどやと入って来た。

「あのね!これを持って来たのよ!」
 キャシーは右と左の両手に大きな箱を提げている。脇に立ったプラット次官補の両手にも、四角い大きな箱が提げられていた。

「海野博士、研究室が出来て如何?使い勝手が良さそうね」
「遅ればせながら長官と僕とで、米国側からのお祝いに馳せ参じました!間もなく後ろから、さらにもう一人、キンケイド副長官ものっそりと両腕にシャンパンの入った箱を重たそうに持って入って来た。

「おめでとうございます」と言葉を区切りながらゆっくりと言いながらキンケイドは静かにそのシャンパンンが半ダースも入った、重たい箱をそっと部屋の真ん中にある卓上へ置いた。

「あー!重かった!改めましてみなさん!アメリカ合衆国政府からみなさまへ!ハロッズ大統領がまだ野生化したままでおりますので、わたくしどもでやって参りました!」

「おう!おめでとう!ウミノ!カミヤマ!」
 言いながら入って来たのはハルゼイ提督である。ハルゼイは、政府側の三人よりも先に来ては礼を失すると思ってか、その一歩後から祝いにやって来たのだった。
 きょろきょろと辺りを見まわして「カミヤマはどこなんだい?」と、海野に尋ねている。

「ハルゼイ提督。それがですねえ!例によってまた、神隠しと言ったところで・・。神様が神山博士を消しちゃうんじゃあ、神が重なるじゃアありませんか。ねえ、提督!」
 
 海野が困惑半分冗談半分にこう答えると、ハルゼイと一緒にアメリカ政府の使者三人も頷いた。

「そうか、また消えちまったのか?随分色んな人が消えるねえ!」と、ハルゼイが応じた。
「全くですよ。然も入れ代わり立ち代わってねえ!あの神山博士に付きまとっている変な男がいたでしょう?未来から転生して来たって言う変な奴が。こういう事が重なると、どうも僕は、あいつがなんか絡んで居そうな気がしてなりません。あの男、神山先生とは過去に因縁があるらしくって、未来から時を遡ってこの世界へと転生してきたと言うんです。執念深い男でしょう!」
 海野が心配そうに言って言葉を濁す。

「うん。肝心要のカミヤマに、そんな男が付きまとっていたなんて。俺が知っていれば、こいつでぶっ飛ばすところだが!」と、ハルゼイは愛用の45口径を取り出すとそれをさっと!見事な手さばきでそれを軽く腰へと戻して見せた。

「どこに消えちゃったんでしょうねえ?せめてこのシェルターの中にいてもらいたかったわ」
「でも、いずれまた、御帰りになりますから」と、形象と本質を見分ける能力を神山によって見出された日本画家、高野井画伯が呟くように一言、言った。

「そうですとも。神隠しなら必ず帰って来ます・・。」と、冷静な宇垣纒提督も続けた。
 宇垣がこう言うと、それはまるで霊能者の予言みたいに聞こえるから不思議だ。
 宇垣にも屹度、何か将来役立つ形而上の力があるのかも知れない、と、そんな思いが海野の脳裏にふっと過ぎる。
 海野も科学者としては断固形而上の事には関心を示したくは無いが、さすがに育ちが育ち、寺の次男坊で、若い頃には禅僧の雲水修行をし、禅寺の住職ができる資格もあるだけに、その上からは訳の分からない事象をそれなりに重んじてはいた。
 ただその宗教という曖昧な場に、逃げ場を求めないのが海野のスタンスなのである。

「みんないろいろと立場や、見解能力などが違っても、その様々な点で重要な人たちばっかりなんだから、今後も共に協力して行こう!」と、内藤が言うと「僕も賛同します、内藤閣下!とプラットが応じ、アメリカ側の三人それぞれが贈り物の箱を開けにかかった。

 キャシーは手造りのホワイトクリームパイを大きな箱に四つ入れて持って来た。ミートパイもある。
 プラットはオードブルの大きな皿を取り出して見せた。
 そしてハル・キンケイド国務副長官が、シャンパンの栓をポン!!っと大きな音を立てて開けるとそこにいる全員から歓声が上がった。

「冒険はまだまだ続くが、今日はお祝いだ!ありがとうキャシー!」と、内藤が代表して礼を言う。
 乾杯の音頭は研究室の平穏を祈念しながらと、海野が代表して取る事となった。

 テーブルには心のこもった品々が並び、殺風景だったこの研究室にも俄かに明かりが灯った。

「今後の冒険はどんなんでしょうねえ!」と、太洋が無邪気に言う。
「そうだな!俺たちは、今後益々、危険極まる探検隊になるぞ!太洋君はさっき、流れと言っていたがが、流れる人の視点がそうだと言うなら、さすがに哲学者には無い科学者の合理的な視点だね!自分も乗った小舟で大河を流れて行くと言うのは。神山先生がいたらさぞ太洋君の子の意見を誉めてくれたに違いないぞ!」
 内藤が本気で太洋を誉めた。

「では!新たな船出を祝して!!」
 海野が音頭を取り、一同が一斉にシャンパングラスを干してはや、二杯目を注いでいる。
「ミートパイもあるわよ!」言いながらキャシーがそれを切り分けて皿に盛り分けた。

「これからも、どんな冒険や探検が待ち受けているんだろうか?楽しみだな!」
 内藤がこう言うと、太洋がそれに深く頷いた。
「内藤首相。首相が付いて下さって僕たち、本当に心強いんです!」
 太洋の嘘も隠しも無いこの一言には、さすがの内藤も面食らって
「あっはっはは~あ!ありがとう太洋君!」と照れながら言う。

「あー!間に合いましたあ?コロがお散歩ってねだるものだから、おそくなっちゃってごめんなさい!」 
 息を切って勢いよく入って来たのは麻衣とコロである。
「ワン!!」
「あら~!おいしそーお~!」と麻衣が、大きなパイを見ながら目を丸くした。
 麻衣はアメリカの家庭で拵える、こんな手造りの大きなパイを見るのは初めてなのだ。

 キャシーが早速「はい!麻衣。おいしいわよ!」と言って、皿に盛り分けたそのひとつを取って麻衣へ手渡す。
「キャシーさんのお手製なんですかあ?うっわーあ!おいっし~い!」
 太洋も一緒に一口頬張った。
「ほんとーだ~あ!すんごく!おいしいです!」

 こうしてささやかな祝いの宴は続いた。
 今後、彼らを待ち受けるのは希望在る全身の道なのか、それとも悲しき退歩か?いずれにしてもそれが茨の道である事に変わりはない事を、ここに集う全員はすでに覚悟していた。
 楽な冒険などありはしない。

 未だに魔人の支配下にはいっている古代のインドの人たちを救出にも出向かなければならない。
 日本の事も、シヴァ神やヤマ神の力で護られているとはいえ、彼らの最も気に掛かることであった。
 日本艦隊を守っている南雲の事が頭をよぎる。

 懸念される事だらけなのは皆が同じであった。彼らの冒険は未だ半ばにさえ達してはいない事を彼らは知らない・・。

(『般若』終わり)

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Last updated  2025/10/25 05:45:57 AM
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