2012/11/20(火)17:28
絶園のテンペスト 第7話 「ファースト・キス」
『ひとりの少女が唐突に殺された』
『ある日、魔法使いの姫君が樽に詰められ島流しにされた』
★そして、ある日、復讐と魔法をめぐる、時間と空間を超えた戦いが始まった
・前のお話は→ 第1話~第6話 あらすじまとめ
第7話 「ファースト・キス」
『愛が運命を導くか、それとも運命が愛を導くか。それは、われらの人生がめいめい試さねばならぬ問題』(ハムレットより)
☆富士山麓の吉野と真広。寒さを凌ぐため廃バスの中で夜を過ごす。
『結果はどうなるとしても、もうすぐすべての不合理が正される。愛花ちゃんを殺した犯人が見つかったら、真広は迷うことなくその手にかけるだろう。復讐、そのためだけに今の真広は存在するんだから。だとしたら、復讐が終わったその先は』
☆携帯で愛花の姿を見る吉野。寝たと思った真広が、
「久しぶりだな。お前、しょっちゅう携帯じっとながめてたけど、それしなくなったろ最近」
「ああ、腹立つくらい寒いな」
☆吉野の脳裏に過ぎた日のことが浮かんでくる。
『あの日.....あの日は暑くて.....』
☆図書館で夏休みの宿題を手伝っている時、愛花が吉野に言った。
「キス、夏が終わる前にしましょうか」
☆赤くなる吉野に、
「ここではいやですよ。初めてどおしなんだし、場所にもこだわりたいですね」
☆夏休みの最後の一週間をいつも過ごしている別荘、そこに吉野も一緒にと言う。真広と一週間、一緒にいることにもなるのだが、
「吉野さん、真広と仲良くしてあげてください。あの人の友だちになれるのは、吉野さんぐらいなんですから」
『愛花ちゃん、真広の気持ち気づいてるんだろ。だったら...』
☆そこに真広からの電話。吉野は呼び出される。
「暇だろ、駅前に来いよ。じゃあ、10分後」
☆いきなり暇だと断定され、呼び出された駅前、ナンパした女の子がふたり。合コンは失敗だったよう。吉野と真広はダーツでムキになるし。真広が吉野に彼女を作ってやろうとしたと言うが、吉野は迷惑だからやめてくれと言う。
「彼女って、欲しいから作るとか、そういうものじゃないだろう。好きな子ができて、その子と一緒にいたいから、だから、彼女になってほしいって思うんだろう。そういうのは」
「シラケた」
☆帰宅した真広は愛花に合コンのことを話す。愛花は真広に吉野のことを、
「いいですか、吉野さんは、良く言えば順応性が高く、悪く言えば主体性がないんです。どんなむちゃくちゃな状況でも普通に行動することができますが、自分で積極的に動いたり、状況を変えようとすることはない。だから、およそ女性を引っ張っていくような気質ではありません。逆に引っ張ってもらわないとダメなタイプです。普通の女性なら、あんな煮え切らない人は願い下げでしょう」
「まあ、それはもっともだけどよ」
「吉野さんと合うのは、真広みたいなのです。気ままで身勝手で、何でも自分の思い通りにしたがって、人をふりまわしてもまったく気にしない、王族みたいな人。そういう人にとって吉野さんは最適でしょう」
男どおしで付き合えという話ではないと言って、こうも話す。
「それでも、真広は吉野さんを大切にしたほうがいい。あの人は何があっても必ず味方になってくれるでしょうから」
そして吉野には愛花からのこんなメールが届いていた。
☆眠れないバスの中で、真広は吉野にたずねた、
「好きな女と付き合う気分て、どんな感じなんだ」
「どうなんだろうなあ。どんな形であれ、別れって必ず来るだろう。好きな人と付き合えたら、よけいにそれを考えるのきついんじゃないか。そんなもんだよ」
「星、きれいだな。前も星みたよな、一緒に....」
『真広は一生、気づかないかもしれない。自分が愛花ちゃんに、ただ恋をしていたってこと.....出合い方が違えば、あるいはふたりは』
★あの夏の日のこと(吉野は夢を見た)
☆真広の家の別荘に3人でやって来た。吉野と愛花は、表面上はつきあっていないようなふりを。真広は愛花に、
「おまえ、吉野のことホント嫌いなんだな。別荘に誘うなんて、思い切りこき使って憂さ晴らししようっていうんだろ。それとも、何かたくらんでるのか」
「たくらむ? そうかもしれません」
☆夜、こっそり会う、吉野と愛花。
☆こんなにたくさんの星は見たことがない。こぼれ落ちそうだと言う吉野に、
「夏の星は本当に節操がないですからね。めったやたらと輝いて」
「愛花ちゃん、星、きらいなの?」
「好きです。輝きを必死に誇示しようとする。消え行く間際に自分がここにいるということをわかってもらおうと。その愚直な願いが好きです」
☆ふたりがキスをしようとした時、吉野を探して真広がやって来る。
「トランプしよう」
☆次の朝はふたりで、ひまわり畑へ。自転車が倒れ、ふたりは....
「やっぱり、やめておきます。ひまわりに見られていますから」
☆寒さで目が覚める吉野。真広は戦いの準備をしていた。
「決心は記憶の奴隷にすぎぬ。記憶しだいでどうとでもなる」
「ハムレットか、悪くないな。今日でこの復讐劇も終わりだ」
『見たまえ。夜明けの空が茜色の衣をまとって あの東の丘の露を踏みつつ越えて来る』
「行くぞ」
「ああ」
(次回、魔女を断つ時間)
○葉風は決戦に備えてお休み? 愛花、あやしげで美しいですね。真広は自分が愛花に恋をしていたことも、吉野と愛花がつきあっていたことも、ずっと知らないままなのでしょうか。
○次回、決戦の時。愛花を殺した犯人もわかるのかな。絶縁の樹、はじまりの樹と葉風の謎も解けてくるのでしょうか。どんな結末になるか想像つきませんが楽しみです。