めくまんのブログ

濡れおんな

ある民宿の話ね
部屋は畳敷きのふた間だったさ
真夜中、大きな水滴の音が
ポチャン、ポチャン
ってして目が覚めた
その音が、異様なほど部屋に響いてる
うっさい、蛇口ぐらいちゃんと締めとけよ
止めなくちゃ
おや？
起き上がると、まわりが良く見える
寝るときは確か真っ暗だったはず
なんで部屋が明るいんだろう
寝る前に飲んだジュースとコップまで
はっきり見える
？
後ろを振り返って、息を呑んだ
ひっ！
背中を向けた女が立ってる！
海女さんだ
その全身がぼうっと光って部屋を照らしてる
大きな音は、畳にできた水溜りに
白い衣装から一滴、一滴
したたり落ちる水音だった
あまりの怖さに、
なにしとんねん！
って大声が出た
すると、背中を向けている女が
すっとこちらを向いた
両手に何かを抱いている
赤ん坊だ
その子もずぶ濡れで、
水がしたたり落ちてる
ところが、その子の体から落ちる水滴は
畳に落ちても音がしない
ひいーっ！
右手がすっと何かを差し出した
折られた新聞
読め、といわれているような気がして
思わず受け取った
怖くてその新聞がぬれていたかどうかもわからなかった
手が勝手に新聞を広げる
母子無理心中
って書いてある
ぞっとして、逃げるように隣の部屋へ這い出した
襖を閉めて灯りをつけ、
そのままじっと朝を待った
夜が明けて、玄関から音がする
宿の人がきた、
と玄関に走った
ここ、お化けでるやろ、出んとは言わさんど
そんなもんうち出ませんで
死ぬかと思うほど怖かったんど
ほんとのこと言え！
言わんと死なすど
いや、ほんとにそんなことないです
そんなことはないと、ついさっきの話をした
そんなんでましたか
出た！
なにがあった！思い当たる節あるはず
すると宿の主人は、首をひねって
ありますが…
しかしうちにでましたか…
不思議がってる
あるんやないか
いえいえ、海女さんの心中でしょ？
赤ん坊抱いてでしょ？
それ、ほんの数日前にありました
でも、その人うちとは全然関係ない人なんです
なんで海女さんの幽霊が出たのか
今もわからないんだって