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青き天体研究所

青き天体研究所

Father's Day

『そう言えば今日父の日ですね。○○さんは何か予定でも?』
『いやぁそれが全く。親孝行は考えているんですがねぇ。』
『ハハハ。それは私も一緒で―――』

プツン、と音を立ててニュースを放送していたモニターは真っ暗となった。
電源を消した少女はモニター越しで言っていたある言葉に疑問を浮かべた。

(父の日?何だろ、それ…)

外見9歳に見えるこの少女は深く考え始める。
思えば最近、街中で「父の日に…」等の看板を見かける事に気付いた。
果たして父の日とは一体何なのだろうか?幾ら思案しても何も分からない。

「……そだ。お姉ちゃんに聞こ。お姉ちゃんなら何か知っていると思うし。」

少女はそう言って立ち上がり、その"お姉ちゃん"なる人の下へ駆け足で向かい始めた。

これが少女――レイにとって長い一日になるとは知らずに……。



Father’s Day
~日頃の感謝を込めて~




「父の日、ですか?」
「うん。それって何なの?」

食堂に居たフィスはレイの突然の質問に目が点になった。
父の日、それは誰もが知っている日であるものだと思っていたからだ。
だがレイが特殊な環境である事を思い出すと、わかり易い様に言葉を選んでいく。

「え~とですね。父の日とはお父さんに何時も頑張ってくれてありがとう、てお礼をする日ですよ。」
「そうなの!」
「はい。その日には一般的に薔薇を贈るみたいですけど、ほとんどの人は違う事をしている見たいですけどね。」
「そうなんだ。」

レイの驚きようを見て微笑むフィス。
その様子に気付いていないレイはしばらく頭を抱えている。
その姿は他人から見て微笑ましい姿であった。

「ねぇフィスお姉ちゃん、お父さんに何したら良いかなぁ?」
「えっ!?そうですね。レイちゃんがする事なら何でも喜んでくれるんじゃないですか?」
「う~んでも何したら良いのか分からないし……。お姉ちゃんの時は何したの?」
「えっ。」

その質問を聞き、息が詰まる。
そして少し考え、申し訳なさそうに話し出した。

「済みません。私の親が居た時代にはそのようなものは無くて……。」
「そうなの?ゴメンネ、変な事聞いちゃって。」
「気にしないで下さい。それより役に立てなくて済みません。」

そう言って再び笑顔になり、レイの頭を撫でた。
レイはそれを嫌がらず、むしろ嬉しそうにそれを受けていた。
気持ち良いのか、レイも笑顔になっていく。

「……何をしている。お前達。」
『見ているこちらが恥ずかしくなるような事をせんでくれ。』

その二つの声を聞き、レイとフィスは振り向いた。
そこには食堂のAランチ+プリンを持っているイリスとリアライズ化していないイヴの姿があった。

「あ、イリスお姉ちゃんにイヴお姉ちゃん。何故したの?」
『それは我等の台詞だ。で汝等は何をしていたのだ。』
「私達で良ければ力を貸すが。」
「そうですか?ではまず……」

そう言ってフィスはイヴとイリスに分かり易いように説明する。
その内容を聞き考え始める二人。
レイは二人を期待の眼差しで見つめている。

「……残念だが何も出来ないな。」
『我も同意見だ。済まぬな』
「え~ッ!何で!?」
「私は10年前の記憶を失っている。故にその頃父の日にした事も分からないんだ。」
『我はプログラムだ。そのような質問に答えられん。』
「そう言えばお二方はそうでしたね。イヴさんに関してはリアライズ化出来ますから忘れていましたよ。」
『オイオイ……。』

フィスのボケをイヴが突っ込むと言う珍しい行動を余所にレイは目に涙を浮かべていた。
恐らくこの人に聞けば分かると思っていた人が、自分と同じく何をしていいのか分からない事にショックを受けたのだろう。
その事を察したイリスは自分が持っていたプリンをレイに渡し、

「全く、泣く必要無いだろ。これでも食べて少し落ち着け。」

レイは黙って頷き、そのプリンを食べ始める。
だがその程度で機嫌は戻らないだろうと確信しているイリスとフィスは他の方法を考え始める。
レイが納得する、父の日にやる事を。
真剣に考えている二人を余所にイヴは一言呟いた。

『葵と唯が居るであろう。その二人に聞けば良いのでは?』
「「あっ。」」

すっかり葵と唯の事を失念していたようで思い出したかのように声を上げる。
レイはその声にビックリしてプリンを零してしまう。

「私のプリンが~~。」
『……当の本人はさりげなく機嫌が治っていたとはな。プリンごときに涙するな。』
「だって~~!」
「それよりレイちゃん、葵さんと唯さんに父の日の事を聞いてみては何故でしょうか?あの二人なら私達より分かると思いますし。」

フィスの言葉を聞き自分の目的を思い出したレイは少し考え始める。そして、

「うん。わかった♪じぁあ行ってみるね。」

その一言を残し、レイは食堂を出て行った。
フィス達はその姿が見えなくなるまで見送った。






「父の日にした事ぉ?」
「うん。葵お兄ちゃんと唯お姉ちゃんは何したのかなぁと思って……」

恐る恐るレイは葵達に尋ね始めた。
レイにとって葵は言葉使いからどうも恐い印象があるため少しながら苦手としている。
しかしお父さんの喜ぶ顔が見たいが為、勇気を振り絞って尋ねているのだ。
そんなレイの事情等知りもしない葵は何をしていたか深く思い出そうと努力していた。

「私は手作りの物を渡したなぁ。何時も喜んでくれたっけ、お父さん……」

と葵が考えている間に唯がレイに教えた。
その教えられた事をフンフンと頷くレイ。

「まぁ私のところは特殊で父の日になるとお祭り騒ぎになっちゃうからね。これと言った手間をかけた物は渡さなかったかな。」
「父の日にお祭り騒ぎだとはなぁ。流石暴力団。」

葵のその一言で一瞬、その場が固まったような気がした。
唯は笑顔でいるものの明らかに引きつっている事が分かる。
まさに一触即発状態であった。

「あ~お~い~。何が暴力団だって~!言っとくけど朝月組は由緒正しき家系なんだからね!ちょっと恐い人が多いけど……」
「何が由緒正しき家系だ。テメェん所は俗に言うヤクザだろうが!」
「ヤクザ言うな!そう言うあんたは父の日になにさたのよ!」
「普通に手作りのマーサージ券とか肩揉み券とかだよ!中等部になるまで小遣いは貰ってねぇんだからな!!」
「プッ。ダサ。」
「その喧嘩買ったぁ!今すぐ表に出ろやぁ!!」
「良いわよ。やってやろうじゃない!ヤマさんに教えて貰った武術、見せてあげるわ!」


そう言って双方武術の構えを構える。
双方隙を伺いながら退治する。
そして数秒後、気合の入った咆哮と共に二人は激突した。





その頃レイは既に葵の下を離れ、何処かへと向かっていた。
自分の中で父の日に渡すプレゼントが決まったからだ。

(手作りの物、かぁ。何が良いのかなぁ。)

レイが葵達の話を聞いて選んだプレゼント、それは手作りの物だった。
ただし作ろうにも何を作ったら良いのか分からない。
そこでレイが父親の次の次位信用出来る人物の下に行く事にしたのだ。


小高い丘を真っ直ぐ進んで行き、そこにそびえた研究所にたどり着く。
その研究所の前に一人の女の子が立っているのが見え、レイはその娘に向かって話し掛けた。

「秋桜お姉ちゃ~ん!」

その声を聞いた女の子は振り向いた。
秋桜と呼ばれた女の子はレイを見て少し怯えているような風であったが気のせいだろう。

「レイ、様?ひ、久しぶりだね。ど、何故したの?」
「剣お兄ちゃん、居る?ちょっと剣お兄ちゃんに用があって来たんだけど。」
「剣様に?何かあったの?」
「うんとね、あのね……」

そう言ってレイは今までの事を自分なりの言葉で話し始めた。
その話を一応真剣に聞く秋桜はフムフムと頷くだけでだった。

「……なるほど。父の日にね。そう言う事なら剣様はもちろん、僕も協力するよ。」
「ホント!」
「うん。でも残念だけど剣様は居ないんだ。兄様と一緒に依頼を受けて行っちゃったから。」
「そうなんだ……」

当てにしていた人物が居ないと言う事を聞き落胆するレイ。
その様子を申し訳なさそうにする秋桜。
二人して暗い雰囲気をかもし出しているので何となく周りの空気がどんよりしてくる。
そんな時だった。
突然秋桜が何か閃いたかのように両手を合わせた。

「そうだ。確か姉様が今日、シフォンケーキを作るって言っていたんだ。だから姉様に言って生地を分けて貰って、手作りのケーキを渡したら良いんじゃない?作り方なら姉様が知っていると思うし。」
「ホント!」

秋桜の提案を聞き、嬉しそうに笑う。
その顔を見た秋桜は微笑を浮かべ、レイを"姉様"の下へ連れて行った。



"姉様"こと美桜に説明したところ、「許可」の一言で台所を貸してくれた。
更にシフォンケーキの作り方を知らないレイの為に付き添ってくれるようであった。
慣れない手付きでエプロンを着て、早速調理にかかった。
不慣れた手付きで小麦粉をふるいにかけていく。
その間美桜はレイでは出来ない事をやっていき、着々とシフォンケーキのたねが出来ていった。
そのたねを空気が入らないように型に流していき、温めて置いたオーブンの中に入れる。
出来るまで少し時間がある。
そう思った美桜はレイに、

「……何故して父の日にプレゼントを渡そうと思ったんですか?」
「はい?何故したの?突然。」

突然話し掛けられたレイは急に聞かれて驚きを隠せないでいた。

「いや、少し気になりましてね。」
「………お父さんには沢山大切な物を貰ったから。それに私、迷惑ばかりかけてるもん。だから、ね。」

そう、レイは"お父さん"と出逢ってから沢山のものを貰ったのだ。
衣類、食べ物、家族、そして名前……。
これと無いほど大切なかけがえの無い宝物を与えられ、気持ちに表現出来ない幸せをくれた"お父さん"に何かをしてあげたい。
かつてから思っていた事をようやく実行出来ると思い、この事を思いついたのだ。

「そうですか……」

そんな思いがある事等知らない美桜は相槌を打つ。

「なら最高の物を作って、最高のプレゼントを送ろうよ!僕も手伝うからさ。」
「と秋桜が言っていますけどレイちゃん、何故します?」
「……うん!」
美桜と秋桜の好意に素直に感謝しながらレイは頷いた。





「ハァ、ハァ、ハァ……急いで帰らないと。帰って来ちゃう……。」

あれから数時間が経過した。
辺りは朱色に染まって綺麗な景色をかもし出していた。
そんな景色等目にもくれず、レイは駆け足でデア ブロイエ ヒンメルヘと向かって行った。
両手にはしっかりと箱に包まれたシフォンケーキを持っている。
それだけに走り難いのだが……。
それでもなお走り続けるレイ。
全ては"お父さん"に喜んで貰う為に。
そう思ってなお一層スピードを上げた瞬間、足がもつれ地面に向かって倒れてしまった。
勢い良く倒れたのでレイの膝から擦り傷が出来ている。

「痛たた……。あっ!?

起き上がって見るとそこにはレイの体重で潰れてしまったシフォンケーキの箱があった。
恐らく中身もぺしゃんこに潰れているだろう。

「そんなぁ、折角作ったのに……。」

そのショックでレイはその場に座り込んでしまう。
今までの頑張りが全て無駄―――そう思ってしまったレイの目には涙が浮かんでいた。
もう如何しようかと考えていたその時であった。

「何やってるんだ、レイ?」
「あっ……。」

その声を聞きレイは後ろを振り向いた。
そこには"お父さん"の姿があった。
辺りが朱色に染まっている為、顔がよく見えないがその声からはっきりと居ることが分かった。

「全くこんな所で座り込んで一体何を……ん?」

そう言ってレイを立たせると、"お父さん"なる人はある物が目に付いた。
それは先程、レイが潰してしまったシフォンケーキの入った箱であった。
それを拾い中身を開けて中身を確認する"お父さん"

「これ、お前が作ったのか?」
「うん。でもそれ、地面に落ちちゃって……」
「ふ~ん……どれどれ。」
「あっ!?」

そう言って"お父さん"なる人は一口ちぎって食べてしまった。
その出来事に言葉を発してしまうレイ。

「……うん。上手く出来れるじゃないか。美味しかったよ、レイ。」
「あっ。」

"お父さん"に頭を撫でられ声を発してしまう。
ずるいと思った。
まるで何でもお見通しだと言わんばかりにいつもこうやって頭を撫でてくれるのだ。
そして自分が見たかった笑顔を見せてくれる。
それは本当に……。

「……あ、そうだ。」

撫でられている途中、もう一つのプレゼントの存在を思い出したレイはすぐにポケットをあさり始める。
そして……

「はい、これ。」
「?何だ、これは……。」

レイが渡したもの、それは小さなクマ(らしきものの)マスコットであった。
クマの頭には紐のような物が通してある。

「これ父の日のプレゼント♪ホントはそのケーキとセットだったんだけど、潰れちゃったからね。」
「……もしかしてこれ、ストラップか?」
「うん!私の手作りだよ♪」
「…………ありがとな、レイ」
「エヘヘ・・・」

再び"お父さん"に頭を撫でれてるレイ。
計画は少しずれてしまったが、結果的には"お父さん"に喜んで貰ったので成功と言えるだろう。
その充実感と満足感がレイを包んでいく。

「じゃあ行くか!」

そう言って"お父さん"はレイをおんぶする。
急にやられた事なので驚くレイだが、おんぶして貰った事嬉しさの方が優先し笑みを零した。

「うん!」

背負われたレイがそう言うと"お父さん"はそのままデア ブロイエ ヒンメルへと走っていった。






デア ブロイエ ヒンメルに着く頃には既にあたりは暗くなってた。
先程までの朱色の景色とは違い、漆黒に包まれた世界もまた幻想的であった。

「お帰りなさい。"お父さん"」
「その言い方止めろフィス。そう言って良いのはレイだけだ。」
「親馬鹿ですね。……あら?」

"お父さん"と話していたフィスは彼の背中に誰かが居る事に気付いた。
それが誰なのか、確かめる為顔を覗かせた。
そして誰なのか分かった瞬間、笑顔になって"お父さん"に言った。

「あらあら。よほど疲れましたのか、それとも気持ち良かったのか。どちらにせよ何だか幸せそうに眠っていますよ、レイちゃん。」
「ん、そうか。道理で静かだと思った。じゃあ布団用意してくれないか?」
「はいはい。」

笑顔を見せたままフィスはレイの部屋を少し片付けに行った。
それを見計らってレイを降ろし、近くにあったソファに乗せる。

「ホント、ありがとな。レイ……」

そう言って彼は寝ているレイに向かって笑みを見せた。
それを察したのか、レイの表情は終始笑顔を見せていた。


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