2009/09/29(火)11:48
ローズ・アダージオ
バレエ「眠りの森の美女」の第一幕第二場で、国中の人々から祝福された主役のオーロラ姫が登場する。バレエの山場は、たいてい、主役の男女のパ・ド・ドゥなのであるが、「眠りの森の美女」では、主役のオーロラ王女が、デジレ王子の登場以前に四人の求婚者たちから薔薇の花を一輪ずつ受け取るもの凄いバランスと精神集中と技術を必要とする「ローズ・アダージオ」という関所を越えねばならない。登場間もなくして、オーロラ姫役のダンサーは、ペアのダンサーのデジレ王子のサポートなくして、この難所を一人で乗り越えなくてはならない。祝福され、愛され、陽気な、美しいオーロラ姫役は、こぼれるほどの笑みで、登場とともに舞台で踊るが、この「ローズ・アダージオ」を迎えるとともに、どのダンサーも一息飲むというか、神妙な面持ちになる。なってしまう。そして、無事、関所越えに成功した瞬間、決めポーズのオーロラ姫は、満面の笑みを浮かべている。それは、オーロラ姫の笑みでもあり、ダンサー自身の笑みでもある。 *************************** 先日の土曜日に、娘の小学校で運動会がありました。例年、2学年ずつまとめて同じ演技(ダンス)をしていますが、5,6年生は、プログラムのおおとりで、「組み立て体操」をします。例年、運動会の練習はできる限りストーカー並に見学しています。今年は、組み立て体操だけに、かなりストーカー丸出し見学でした。デジカメでこっそり動画を取って、娘に、ここをこうする方がいいんだよ、と改めて家で教えたりしました。(自分が頑張っているけど、全体の中の自分のバランス(ちょっとした指先、目線など)が気が付かないことがあるので。)と、教えたりもしました。 というか、ダンスと組み立て体操は、私の中でもの凄く違いました。ダンスは、多少のミスのごまかしはできますが、組み立ては、相手もかなり意識しないといけません。事に娘は、体格の関係上、ひたすら「土台」「土台」「土台」「土台」・・・・です。ピラミッドでは一番下の土台でした。運動場の練習で、膝小僧に砂がめりこんできて痛くて嫌だと言いました。痛いけど、頑張ろう!と、毎日ねぎらっていました。一番の山場は、演技始まってすぐにある肩車で両手を離して一度ポーズ→そのまま中腰になって、肩車から首を抜いて太ももに相手の子を立たせて「サボテン」をします。ここがなかなか出来なくて、出来ても遅れたり・・・出来たと思ったら、次の日は出来なかったり・・・・で、もう嫌だ、やりたくない、と自信をなくしたり・・・・・とにかく大変でした。この肩車さえ、成功したら、後はノーミスで出来ます。(ほとんど新体操の審判か?私は?)運動会前日の最後の通し稽古も見ようと思ったのですが、歯医者の予約が入っていて、間に合うかと思ったものの、待ち時間が予定外に長くて、見れませんでした!!!!肩車できたの!??と娘に後で聞いたら、「できた」といったけど、この目で見ていない限り、出来た範疇がどの程度なのか想像もつかず・・・ 当日、干物になりそうなぐらい暑い中、とうとう本番を迎えました。 いつも、見学をしていたので、どこで見ればベストポジションかわかっていました。運動場の練習に入ってからは、いつも遠くから、娘の立ち位置の関係上、後ろ姿のストーカーしかしていませんでした。本番は、堂々と前から見せて頂きました。ビデオや写真撮影の人だかりの一列後ろから、隙間を縫うように見させてもらいました。(主人にデジカメで動画とってもらいました。)演技が始まって、着々と一人技をこなす娘。いよいよ、2人技に入ります。肩車です。娘もきゅっと口を引き締めていました。ここで、うまく上がるか上がらないかで、演技の流れが変わるでしょう。ドキドキして見て入れなかったです。でも、何が起こっても、ちゃんと見届けてあげないといけないと思いました。なにが起こっても、お母さんは、今まであなたがどんなに努力していたかを見てきたのだから、絶対に大丈夫だから、と、眼力で娘にビーム光線を送ります。 力士が土俵入りをするように、娘が踏ん張って肩車を始めました。ふんがー!と、仁王立ちは、武蔵坊弁慶も彷彿させます。(すみません冗談みたいですが・・真剣です。)金剛力士像みたいになって力強く立ち上がれ~~~!と祈るしかありません。立ち上がって、肩車の上のこと、娘と二人で手を水平にのばして、ぴっ!っと決めのポーズ。肩車成功です!次は、少し膝を曲げて中腰になって、上の子を首から抜いて、そのまま太ももに立たせて、「サボテン」です!これも、本当に苦労しました。出来るのか?と思った日々です。ぴ!成功です。ああ、神様ありがとう。力士にも見え、武蔵坊弁慶にも見え、金剛力士像でもいいと祈ったその姿は、姿からはもの凄くかけ離れていますが、そこにあったのは「ローズ・アダージオ」!!!でした。 「肩車」&「サボテン」=「ローズ・アダージオ」を成功させた娘は、満面の笑みを浮かべました。その後は、快調に演技が進みます。2人組が終わると三人組、5人組、ピラミッドへと、だんだん大きな隊形になって行きます。ひたすら、土台街道まっしぐらの娘です。 すべての演技が終わった時、笑顔の娘がいました。入学時、高学年の組体操を見て、あんなふうに娘ができるのだろうか?と不安でした。お兄ちゃんが6年生の時に、三重の塔で難しい危険な?技に取り組んだ時、もの凄く苦労していて、無事塔が成功した時、ほっとしてよかったよかった!と涙がにじんだのを思い出しました。娘が5年生になって、あの子の中の(私の中の?)「ローズ・アダージオ」を成功させて、すべてこなせて、よかったね!という感動以上に、ほっとした気持ちで、涙がボロボロ出てきました。涙ぽろりん~はよくありますが、今回は、嗚咽しかけてしまいました。他の人の目にとまると恥ずかしかったので、思わず演技終了後拍手で見送ってから、運動場のフィールドと反対側の端っこに向かって小走りに逃げてしまいました。 後ろの方で、「感動して泣けてきたわ~!」等、感動の感想を漏らしている保護者達の声が聞こえました。誰だって、普通のお子さんのお母さん方だって泣けそうになるんだもん、私だって、泣いたっていいよね?おかしくないよね?泣いたっていいんだよ。えーんえーんと子供みたいに手の甲で涙をぬぐいました。 今年の運動会も無事終わりました。みんな、よく頑張った!!