「ファーバンティーの面影」「ファーバンティーを死守せよ!エルジアは不滅である!」 私が基地を出る前に聞いた言葉だ。 我が国から始めた戦争。始めの電撃的な侵攻により、我が国に「負」の文字は無いと思われていた。 装備も補給も兵士の補充も、全てが敵軍より充実していた。 ところが、敵に空の戦いの英雄が現れると、次第に我が国の重要な施設が破壊されていき、補給もおっつかなくなり、ヒドイ所では見捨てられた基地もあると言う。 私は陸軍で歩兵小隊の小隊長をやっていたが、首都に配備された部隊であった為、まだ敵と戦った事は一度もない。 敵軍が首都に迫ったある日、私のいる部隊の宿舎に中隊長が入ってきた。 「小隊長のサムはいるか」 サムとは私の名前だ。 「自分です中隊長。何かありましたか?」 鬼と言われた中隊長の顔は、いつもより恐ろしい物だった。 中隊長によると、ファーバンティー沖でISAF海軍の艦隊が集結し、 首都へ直接の揚陸作戦を行おうとしているとの事だった。 そこで政府が数年前に立てた侵略対処計画を元に、「首都防衛大隊」を結成する事になったと言う。 「それで自分ら小隊に何の用でしょうか?」 中隊長は「まだわからないのか・・」と言う顔をしていた。 「君の小隊は首都防衛大隊第1中隊の傘下に置かれる。先程一般市民に外出禁止命令が出された。明日早朝、全中隊を野戦本部へ移動する為に装甲部隊が到着する。それに乗車し、国立図書館噴水広場へ行くんだ。」 追い込まれた状況で、初めての実戦だ。 首都なので若干補給も円滑に行われるが、はっきり行って開戦よりも敵の力は大きくなっている。 しかも敵には、百戦錬磨の空の英雄が居て、士気は我々の数億倍だ。 だが、私はただ了解と言うしかなかった。 「・・・・了解しました中隊長」 「すぐ装備ををまとめろ」 翌日、基地本部前に集合したのは我々第2小隊と、死闘を繰り広げたウィスキー回廊で唯一生き残ったエリート部隊第5小隊であった。 装備はまるで違った。我々第2小隊は、タクティカルベストに防弾チョッキ、装備が詰まったバックパック。 第5小隊はタクティカルベストのみであった。 小銃も、我々はキラキラと輝くAK74であったが彼等の物は 個々で改造がされ、ドロドロに汚れていた。 顔にはドーランを塗り、兵士達は一つも動かずそこに立っていた。 何なんだあれは・・・・ そう思っていると、第5小隊の小隊長が宿舎から降りてきた。 服はやはりドロドロに汚れていた。 するとその小隊長がこちらに歩いてきた。 「・・・てめぇら・・・ 今回が初めての実戦か?」 「そうだ 今回が初めてさ」 一瞬上から見られた気がしたが、次に小隊長は笑顔になった。 「死ぬんじゃねぇぞ 考えてるほど敵は甘くないぜ 俺はボビーだ よろしくな」 小隊長は笑顔から、鬼の様な顔になって自分の隊へ戻っていった。 やがて我々を輸送する為のBMPと海兵隊のUAZが我々の前に停止した。 中隊長が宿舎から出てきて、再度到着後の行動順序等について聞かされた後、我々はBMPに乗りファーバンティーのほぼ中心部にある国立図書館噴水広場へと出発した。 ここでも第5小隊と一緒であった。 第5小隊全員がヘルメットに刻んでいる無数の丸と二重丸について「それは何なんだ」と聞いてみた。 「ただの丸が十単位での敵兵をやっつけた証拠だ。二重丸が車両だ。」 そうだ。以前私が戦闘後の戦場へ視察に行った時に、若い兵隊がマジックで ヘルメットカバーに落書きを書いていたのを思い出した。 しかしあの時とはわけが違う。 ヘルメットはまるで、違う迷彩を施された様になっていた。 だがこの痕跡が、戦争では階級ではなくどれだけ敵を滅する事が出来るかで信頼、信用を得る事が出来るかと言う事がそこでわかったのである。 そうこうしている内に、国立図書館噴水広場についた。 停止後、いきなり「展開!」と中隊長が叫んだ。 五つの隊が整列すると、中隊長は「行動開始!」とだけ言ってどこかへ去っていった。恐らく前線の作戦司令室に行ったのだろう。 我々第2小隊が待機室に全員入った頃、上空で爆音が聞こえた。 誰かが叫んだ 「敵機!ISAF軍機2機!」 敵機に向けて発砲する高射砲と対空ミサイルの音が聞こえた。 5分程かけて全員やっと入った小さな待機室から、30秒程度で全員が飛び出し、空を見上げた。 2機は高速で左に旋回しながら洋上へ戻っていった。強行偵察であった。 敵の上陸が近い事を察した司令部が部隊の展開を早めた事を知らされた。 「小隊集合!急いでBMPに乗れ!」 ちょうどその頃、敵艦隊が動き出したらしい。 司令部の動きが慌しくなった。我々第2小隊は埋め立て地で降車し、味方戦車部隊の後ろで待機した。 すぐ横を第5小隊が通った。彼等は遮蔽物の少ない所に突撃兵を置き、重火器を持った数名はビルの中庭から海岸に砲口を向けた。 2時間ほど経った時、遠くで爆音が聞こえた。どうやら山の向こうから榴弾砲、ロケット砲の部隊が敵艦隊に砲撃しているようである。 上空を通るミサイルが絶えなかった。 やがて砲撃が終わると、上空を6機の戦闘機が通りすぎた。元々戦闘機パイロットを目指していたため、軍用機の見分けはついた。 EF-2000にF-22・・・・ 戦闘機隊が出撃したと言う事は、迎撃であると私は判断した。 皆が上空を見つめていると、近くで大爆発が起きた。 視点を下に降ろしていくと、遂に上陸部隊が確認出来た。 「敵が近い・・・ 全員装備品のチェック!安全装置解除!」 まだ数回しか撃った事がないAKを今日だけでその数回分使って大丈夫だろうか・・・・ このヘルメットは本当に役に立つだろうか・・・・ 今までにはなかった軽い思いが頭を過った。 今年の初めに入隊し、すぐに戦争が起きてしまった新兵の通信兵は体が震えていた。 さすがに言葉をかけてやる事が出来なかった。 何をしても、何を言っても、もう上陸部隊は目の前まで迫っていた。 パパパパパ・・・と音が聞こえた。 海岸線に位置した部隊は攻撃を開始したらしい。 攻撃ヘリが真上を通りすぎた。 唖然として見ていると、部下が肩を叩いてきた 「小隊長 前進しないのですか?」 部隊を指揮する事を忘れていた。 怖いんだな・・・自分も・・・ 「小隊前進!海岸線まで移動する!」 近くまで来たトラックに乗って海岸線まで行くと、そこはまさに地獄であった。 上空を飛ぶ弾丸、どこに落ちるか我々にはわからない迫撃砲、手や足のない味方・・・・ 降りなくては自分達もああなると思ってとっさに私は指令した。 「トラックから降りろ!撃ちまくれ!」 知らぬ間にAK74の引き金を目いっぱい引いていた。 ジャムらないかと言う戦闘前の心配など、どこかへ吹っ飛んでいた。 (ウラァァァァ突撃だ!うろたえるな!) (一歩も引くな!首都の土をやつらに踏ませるな!) 皆狂っていた。私もとにかく叫んで叫んで叫んだ。叫びすぎて声が枯れてる事も、とっくの前に弾が切れてることもわからなかった。 「小隊長!小隊長! どうすればいいんですか! 小隊長!!」 我に返った自分の目の前に広がっていたのは死体の山。血だらけの海岸に思わず2,3歩引いてしまった。 他の隊はとっくの前に撤退していた。 「あそこのビルまで撤退するぞ!姿勢を低くしろ!死にたくなければ俺についてこい!」 マガジンを交換し、一息つこうとしたが、そんな暇があるわけはなく、また私は走り出した。 敵戦車の砲撃や迫撃砲弾をギリギリで回避しながらビルまで行くと、新兵で構成された第1小隊が隠れていた。 「何やってる!攻撃しろ!敵はすぐそこまで来てるぞ!」 狂気にかられた第1小隊の小隊長は笑っていた。 この小隊にも、生き残りは少なかった。 笑っている小隊長を蹴り飛ばし、小隊の隊員に命令した。 「・・・・第1小隊!お前らは第2小隊に編入だ!ついてこい!」 20号線を挟む様に第1小隊と第2小隊の無反動砲を配置し、機関銃士をビルの影から射撃させ、隙を見てライフル兵を突撃。 昔、陸軍士官学校で同僚がボードゲームで使った戦法を使った。 12号線から何かが近づいてきた。敵戦車だ。 「M1!」 敵戦車が二両、12号線より入ってきた。 (砲塔操作不能!戦車長が戦死した!) 周波数が合っていたのか、敵の無線が聞こえる。 RPGは射撃可能の状態だ。 「砲手!やれ!」 バシュッと二発のRPG弾頭が一台のM1戦車に吸いこまれていき、炸裂した。 「良いぞ!装填急げ!」 もう一台のM1が、反転を開始した。 逃げるつもりだ。 「逃がすな! 高めに狙えよ! 撃て!」 第2波の攻撃も見事に命中した。 乗員が出て戦おうとしている。 「今だ突撃!乗員をやれ!」 戦車の裏へ回ると、もはや処置を施しても不可能な体になった乗員が苦しんでいた。 (・・・・やれ!・・・・) 引き金が引けない。 どれだけ力を入れても、何故か引けなかった・・・故障ではない。 体が震えている。興奮しているのか恐怖なのか・・・ (・・・俺・・・が・・・お前を・・・殺す!) 向こうが最後の力を振り絞り、ピストルを抜き出した。 そこに逆からまわって来た機関銃士が迷わず彼の顔面に弾丸を撃ち込んだ。 バババババンと5発撃ちこまれた彼の顔は、顔とは思えない形になっていた。 「・・・・・ん 歩兵だ!三時方向!約二十名!」 敵の歩兵が近づいていた。 構えたAKのサイトに捉えられた兵隊は、訓練とは比べ物にならないほど、堅い。 「ロケットだ!伏せろ!」 敵兵が放ったロケット弾が外れて無反動砲の配置位置に着弾した。 小さな植木から出てきたのは真っ赤な死体であった。 飛んでくる肉片に耐えながら、射撃を続けたが、溢れる様に出て来る敵に 追いつかず遂に後退を命令した。 「くそ!きりがないぞ!後退する!」 私も知らぬ間に足に二、三発食らっていた。 ちょうどその時、タイミング悪く敵戦車が四両も来た。 「急げ!俺はもう構うな!」 私を担ごうとした兵隊にそう言いかけると、私は携行していたマカロフを必死に戦車に射撃していた。敵戦車の砲撃にも耐えうる戦車に拳銃弾が効くわけがないとわかっていたが、やらないよりマシだと私は必死に引き金を引いていた。 地を響かせ、戦車は機関銃を撃ちながら接近してきた。 実戦経験初日でもう死ぬのかと何も出来なかった自分に涙が止まらなくなった。 敵戦車がすぐそこまで迫ると、向こうで何かが動いた気がした。 死ぬ間際、ついに幻覚まで見るようになったかと、気にしなかった。 しかし・・・・・ その次の瞬間、先頭のM1戦車は炎に包まれた。 向こうから何かが飛んでくる。無反動砲だ。とても効率の良い攻撃法で、発射元はどんどん近づいていた。 聞き覚えのある声がした。 そうだ これは第5小隊の・・・・・ 自分に駆け寄る人間がいた。 「どうせこうなるだろうと思って助けに来たぜ 第2小隊小隊長さんよ!」 ボビー小隊長が強行偵察任務についていた車輌隊を連れて各部隊の救助に来たのである。 UAZに乗せられた私は、第5小隊がボビー小隊長しかいない事に気づいた。 「小隊長 部下はどうしたんだ?」 彼は少し答えたくないような顔をしたが、すぐに返してきた。 「俺のヘマで皆死んだよ 迫撃砲で一発・・・敵は本気だ」 小隊長はその後顔を下に向けたまま、その後何も喋らなかった。 悪い事を聞いてしまったと・・・今は思う。 突然窓にヒビが入った。 「くそ!こちらグランドマスター22!先頭車へ!敵の真っ只中に入ったぞ!どうなってる!おいお前!銃座につけ!」 車輌隊が攻撃を受けた。助手席に乗っている注意が私にダッシュK機関銃の射手をしろと言った。 「くそ!」 重いコッキングレバーを全体重を引き上げる。弾速が速くて狙って撃つと言うよりはバラ撒いて脅す感覚であった。 「3時方向!俺達だけ独立するぞ!」 中尉が私に指示をする。 ダダダダンと私の体に衝撃を与える重機関銃。 私が衝撃を受けるごとに兵隊が一人づつこの世の者ではなくなった。 ダダダンダダダンダダダンダダダン・・・・ 熱い薬莢が何度か顔に当たる。訓練なら必ず避けていたが、今は正確に人を殺し、生き残る為にしっかりとサイトの中心に敵を合わせなくてはいけない 中尉が必死に無線でわめいている。 「野戦司令部が占領されただと?!」 4号線の目印であるガソリンスタンドが見えてきた。 「総司令部へ行くぞ!野戦司令部が占領された!」 「4号線を左だ!敵大部隊の真っ只中を突っ切るぞ!」 「了解!」と枯れた声で私は叫んだ。 ダッシュKに弾薬を装填し、再び構えるとUAZの屋根にピシッと火花が散った。 ファーストフードショップの二階から狙撃手がこちらを狙っているのがうっすらと確認出来た 「二時方向!ファーストフードショップに狙撃手!気をつけろ!」 ボビー小隊長が叫んだ。 「援護するぜ 第2小隊小隊長さんよ」 ボビー小隊長が窓から小銃を撃って援護した。 狙撃手にダッシュKを放つ。弾丸は狙撃手を囲む様にバラバラに着弾する。弾の出が悪くなった。なんなのだろうか・・・・ 相当運がついてないなと思った。 弾が詰まったのである。まずい。こんな所で相手に隙を与えてしまった。 コッキングレバーを二、三回引きなおし再び狙撃手にダッシュKを向けた時、バシッと言う音と共に 血しぶきとガラス片が私の顔に飛んできた。 「中尉!中尉!返事して下さい!」 中尉の鼻から白い物が見えた。骨である。 顔に一発食らい、明らかに即死であった。 その時ボビー小隊長が叫んだ。 「おいお前!運転をやめろ!車から出て後ろに隠れるんだ!」 運転手の二等兵は震えていた。 「降りるんだ!死にたくないだろう!」 車を止め、私はその二人と共に後ろに隠れた。 「お前の持ってるそれは何だ!」 運転手が持っていたのはAK系の銃ではなかった。 「じ、自分のは敵弾で損傷しました!近くの敵の死体からこれを奪うしかなかったんです!」 これではいざと言う時マガジンを共有出来ない。 「おいお前!てめぇはあの死体からAKを取って来い!」 ボビー小隊長が近くの死体からAKを取ってくる様、二等兵に指示した。 その間にも敵弾がどこからか飛んできていた。 「援護するぞ第2小隊小隊長!撃て!」 どこに敵がいるかもわからないが、撃って音で脅した。 「行け行け行けぇぇ!」 敵の弾幕に二等兵が飛び込んだ。 「第2小隊小隊長さんよ!左から援護しろ!」 再びAK74が唸りをあげた。 AKはさすがに重い。敵のM16がうらやましいと思った。 二等兵が戻ってきた。 「来ました!」 二等兵が戻ると、ボビー小隊長が前進するかどうか作戦を立てた。 「そこの建物の間からまっすぐ抜ける事が出来れば敵のすぐ横をバレずに通る事が出来る。敵が通路を確保していなければな」 狙撃手が使っているのは恐らくM24。ボルトアクションのスナイパーライフルである。装填の間のチャンスならたくさんあった。 パン!と言う音の後に聞こえるカチャキン!と言う弾を装填する音と薬莢が落ちる音。 その微妙な音を、ボビー小隊長は聞き分けていた。 「二人、準備しろ。あと三発、敵が撃ったらあの建物の間から抜けていけ。」 パン・・チャキン! パン・・チャキン! そして三発目のパンが聞こえた途端にボビー小隊長が大声で叫んだ。 「行け! 早くしろ!」 始めに二等兵が走った。 「援護しろ小隊長!俺は狙撃手をやる!」 そう言うとボビー小隊長は走っていった。 小隊長は素早く建物と建物の間をつたい、上手く敵を混乱させていた。 自分も狙撃手に向けて銃を撃ったがしっかりと狙ってもいないのに、当たるはずもない。 ボビー小隊長は狙撃手の近くまで行くと手榴弾を取り出し、建物に投げた。 見事に手榴弾は狙撃手のいる窓に入り、窓や壁ごと狙撃手を吹き飛ばした。 あの地獄を数分で制圧し、無事にこちらへと戻ってきたのだ。 「小隊長!行け!建物から抜けるぞ!」 建物の間に入り、とにかく走った。 途中にあった隙間から除くと、敵のM1戦車とM2歩兵戦闘車が並んでいた。 その隣りには敵のハンヴィーもあった。 「おい二等兵 お前あのハンヴィーを操作出来るか?」 ボビー小隊長はハンヴィーを奪う気だったのはその時点でわかった。 「たぶん大丈夫だと思います。」 しかし、戦車の外には歩兵小隊が二個ほどの人数に敵が乗っているハンヴィーも多数あった。 するとボビー小隊長はおもむろに何かを取り出した。 少し大きめの白い袋に入った濃い緑の丸い物。手榴弾である。 「ここへ来る途中に敵兵や味方の死体から取ってきた。これをそこら中に投げ込んで混乱してる間に生きてるハンヴィーを奪おう」 非常に単純な作戦だが効果はありそうである。 作戦を決行する事にした。 「二等兵 お前はここから手榴弾を投げ込め。小隊長 君は向こうからだ。 俺は敵の気を引く。俺が撃って敵が撃ち返してきたら投げ込め」 ボビー小隊長が走っていった。 道路のど真ん中に出て敵の気を引くのは常人が出来る事ではない。 建物の間からボビー小隊長が見えた。 (敵だ!) (逃すな!殺せ!) 車両の35mm機関砲から佐官用の9mm弾まで全てがボビー隊長に撃ちこまれたが隊長には一発も当たらなかった。 ボビー小隊長が射撃を開始した。 ババン!と頭に響くAK74の音が、我々には目立った。 「投げ込むぞ二等兵! やれ!」 一人5~10個持っている手榴弾を一個づつ投げていくと相当のダメージを与えられるだろう。 投げ込んでいると遠くからボビー小隊長の声が聞こえた。 「ハンヴィーを奪え!俺のとこまで来い!」 ハンヴィーを奪うと二等兵はコンバットナイフを取りだし、キーの差込口を壊して中に突っ込み、エンジンをかけてしまった。 「そんな技どこで習ったんだお前?」 「訓練学校時代、ワルな上官から教わりましたです。」 二等兵の意外な素顔だ。 人は見かけによらないと言う言葉を、こんなところで改めて納得した。 ボビー小隊長の所へ行くと、胴体から血が流れていた。 「安心しろ・・たまたま当たった9mmだ・・包帯をしてくれ」 気がつけば、周りが敵部隊がほとんどであった。 野戦司令部の前を通ると敵のハンヴィーとM1戦車。 野戦病院の前を通ると敵のトラックとハンヴィー。 戦闘指令通信所の前を通ると敵のトラック。 味方の施設のほとんどが占領されていた。 上空では戦闘機同士のドッグファイト。 近くに落ちてくる戦闘機は恐ろしかった。 ファーバンティー国立公園に見えたのは掩蔽豪の前が死体で埋め尽くされた地獄であった。 もうダッシュKを構えても遅かった。 「さっき通ったジョンソン記念橋に戻ろう。向こう側の総司令部へ行こう。」 無線を聞いていると、総司令部防衛の為に複数の部隊が総司令部へ向かっている事がわかった。 「おい小隊長 ダッシュKを構えて戦えよ 敵がウジャウジャいるぞ」 ボビー小隊長が弱い声で言った。 「どうしたんだボビー だいぶ発熱してるな。もう少しで総司令部だ 頑張れ。」 ジョンソン記念橋までの間に見たのは敵と燃えている味方の戦車や兵隊であった。 道端で投降し、武装解除され、着ている物全てを剥がされる者。 手錠をかけられ、動く事の出来ない様にさせられた者。 残酷な世界であった。昔の自分にこんな事想像出来ただろうか。 こんな物を見ると、何故自分が軍に入ったのかわからなくなってくるのである。 「小隊長 深く考えるな 勝てば勝ち 負けたら負けだよ。どうせ俺達は捨て駒さ。」 その場の全員が少し笑った。 いつもなら大きく、赤い色の夕日がビルや車に反射して綺麗だった。鳥が海の向こうへ飛んでいき、海岸には穏やかな波が 押し寄せたファーバンティー。 今は綺麗な夕日が銃撃音に、鳥が戦闘機に、海岸の波は上陸する敵と血にかき消されてしまった。 「俺達は負けは決まってた 強欲はやっぱりダメなのさ 過ちに気づいていれば良かったのにな 人間はいつも気づく事が出来ない。」 ボビー小隊長はその言葉を残し、AKを抱かかえながら眠った。 「小隊長 ジョンソン記念橋につきました。」 ジョンソン記念橋につくと、川で動く砲台となった駆逐艦が所構わず砲撃を行っていた。 ジョンソン記念橋を通ろうとしたその時、上空から綺麗な航跡を描いて反転してきた戦闘機が「何か」を落として 飛び去っていった。 視点を「何か」に集中させると、一瞬目の前の映像がスローモーションになった。 ゆっくりと落ちる黒い物体。その物体が落ちた時、体が宙に浮いた感覚があった。 その後は全く記憶になかった。 気がつくと私は野戦病院にいた。 聞いた事の無い言葉、敵の軍人達。 思い出した。自分はジョンソン記念橋を渡ろうとして・・・・ 痛い・・・・骨なのか・・・体が痛くて動けない。 「ゆっくり休んでくださいよ サム少尉」 私に喋りかけて来たのは、あの二等兵である。 隣りのベッドで寝ていたのだ。 「ボビー小隊長殿は戦死しました。腹に一発食っていた様です・・・・」 ボビー小隊長はあの時、過ちに気づく事・・・・人間はいつもそこに気づかないと言った。 人間は先を読む事が得意ではない。 その場の感情で動いてしまう。だから今回のような戦争が起きてしまう。 子供の喧嘩とは良く言った物である。 私達は一度経験をした。人間は学習する。起こすのは簡単だが、起こさない様にするには相当の努力が必要だ。 だがその努力が報われれば人がたくさん死ぬこの地獄のような戦争は起きないだろう。 ・あとがき これも大分前に打ったものです。 軽いノリで打ってたら、結構長くなりました。 実は結構色んな人に見てもらってる作品です。(駄作を押し付けて申し訳ないです--;) ファーバンティー攻防戦における、エルジア陸軍からの視点です。って見りゃわかりますね^^; ファイルの作成日時を調べようとしたら、PCを買い換えたの忘れてて2006年になっちゃってました^^; 相変わらず旧作ばかりアップしてますが、これは当時としては結構力を 入れて打っていた作品だった気がします。 ここまで長くなっちゃったからね^^; 結構修正も入れてますしw |