よく聞く学校の怪談に「夜になると音楽室の(肖像画の)ベートーベンが笑う」の類があります。肖像画はモデルの内面まで描き出すものでしょうか…。
昔、肖像画にまつわる怖い話を読んだ記憶があって探したらオスカー・ワイルドの作品でした。ワイルドは児童文学の『幸福な王子』で知られますが、詩人・劇作家でもありました。アイルランド出身で、『サロメ』などの劇作があります。作風は耽美・退廃的。
41歳の時、ホモセクシャルを咎められ投獄されてしまいます。出獄するころには世間から忘れられてしまい、46歳で亡くなりましたが、寂しい葬儀だったそうです。

「象牙と薔薇の葉とでつくられたアドニスのような」美しい青年の肖像画を見たヘンリイ・ウォットン卿は、画家に頼んでドリアン青年に会わせてもらいました。卿はドリアンの心の奥にあった禁制のものへの欲望を引き出してしまいます。
ドリアンは、永遠の美を持つ肖像画に嫉妬し、自分の代わりに肖像画の絵姿が年を取ればいいのにと言います。
今まで足を踏み入れたことのないロンドンの下層地区に入り浸って、次々と周りの人を不幸に陥れるドリアンでしたが…。
初めは純粋に恋したシビルを、利己的な理由で傷つけてしまってから、ドリアンの転落は始まりました。彼の美しさは、子供っぽい無垢・無知と表裏にありました。ドリアンは人の気持ちがくみ取れないのですね。
ウォットン卿の「真実の美は知識の萌(きざ)しと共に滅ぶものだ」という言葉は万人に通じるものではありません。知識が広がっても美を保つ人がほとんどでしょう。しかし、ドリアンは卿の言葉通りに破滅の終末を迎えます。
自己犠牲の上に他者を救う「幸福な王子」と対照的ですが、どちらも極端です。王子もまた知識の萌しと共に滅びた美だったかもしれません。
参照元:オスカー・ワイルド 渡辺温・訳『絵姿』(ドリアン・グレイの肖像)青空文庫
☆萌…ホウ、ボウ、めば(え)、めぐ(む)、きざ(す)、も(える)、
も(やし)、たみ

