☆複数の未来☆乙一『フィルム』
乙一の短編集『さよならに反する現象』から『フィルム』 幼なじみの少女が、“あなた”に未来の日付の入ったフィルムを映し出して見せました。ピントがぼけているように見えるのは、複数の未来の平均値が映し出されるから。何年経っても、“あなた”は孤独な姿でしたが、就職も結婚もしています。 映像が終わると、少女は“あなた”に選択を迫ります。 未来は、いろいろな要素で変わっていくでしょう。未来の映像がひとつではないというイメージは新鮮でした。 ある時々の選択によって、その後の人生が変わるということはあります。学校、職場、結婚相手などなど。ですが、その後のずれは、映像のブレ程度なのかもしれません。「あの時、ああしておけば、今頃はもっといい人生が送れたかもしれないのに」は幻想かもしれません。 劇的な出来事は起こらなくても「平凡な」人生を送れることが幸せだと感じます。 少女が告げる「あなたは人がひとりでいることのさみしさを知っているから、家族をおろそかにしないのです。さみしさを知っているあなたの言葉は、たくさんの人のさみしさを癒やすことができるのです」と言う言葉が響きます。 “あなた”に与えられた選択肢は、ふたつのさよならのどちらを選ぶかでした。 参照元:乙一『さよならに反する現象』角川書店 から『フィルム』