相場が急反発しても経済は回復しない
節目の8000円に到達したところ株式相場は急反発した。昨年夏からの下げ波動が一段落したということだ。「戦争バブル」が解消された。相場の予想が本コラムの目的ではないので詳しくは説明しないが、とりあえずは予想通りの展開。各国の金融当局が相場のてこ入れを行っているので、それだけ激しく反発したということだろう。1万2000円程度までは抵抗が小さいのでスムーズに上がる可能性はあるが、それ以上を期待することはできない。日本もアメリカも、ビル・クリントン政権の終盤(つまり大統領選挙の最中)に株価は大きく値下がりしている。ジョージ・W・ブッシュ陣営の財布と言われたエンロンの経営状態がおかしくなったのもその頃だった。つまりレッセ・フェール(なすに任せよ)流の市場崇拝経済はその当時、すでに破綻していた。その後もアメリカの経済システムは改善されていない。2003年にイラクを先制攻撃、戦時体制に入ったため戦争ビジネスは大儲け、つまり国庫から巨大産業の金庫へ資金が移動したのだが、そうしたカネが社会に還流することはなく、「アメリカ帝国」は沈み続けている。日本も後を追っている。今後、資金が社会をスムーズに循環するようになっていれば2010年頃に8000円で下げ止まるだろうが、簡単ではない。2000年からはじまる長期の下げ波動を考えると、日経平均株価は5000円まで下がっている可能性がある。経済システムを再生させる手始めは、とりあえず税制や規制を1970年代より前に戻すことだろう。大企業の経営者は勿論、政府、官僚、そしてマスコミは「実効税率」の国際比較で日本の企業は負担が重いと叫んでいるわけだが、「実効税率」の比較が実際の企業負担の比較とは違うということは少なからぬ人に指摘されている。国によって課税システムが違うわけで、計算にどのような数値を使うかで結果は違ってくる。こんなことは経営者や官僚ならわかっているはず。政治家やマスコミはどうか知らないが。フランスの「職業税」、イギリスの「ビジネス・レイト」(事業所などの不動産に課税される)などは「実効税率」の比較では計算に入っていないようなので、それだけで税率は下がってしまうが、国によって課税ベースが違うという点も忘れてはならない。課税ベースが広くなれば税率も低いように見えてしまう、逆に日本のように所得を課税ベースにすると高く見えるということだ。同じ長さを図る単位だからといって、センチもインチも光年も一緒くたにして「比較」できないことを「賢明なるエリート諸氏」なら理解できるだろう。そこで、GDP(国内総生産)をベースにした比較が行われている。神奈川県総務部税制企画担当課長によると、2004年の数値で法人所得税と企業課税で比べると、日本が3.8%なのに対し、アメリカは2.2%、イギリスは2.9%、ドイツは2.1%、イタリアは5.1%、フランスは4.3%になっている。さらに社会保険料の事業主負担を加えると、日本は8.3%、イギリスは6.7%、ドイツは8.9%、イタリアは13.8%、フランスは15.3%、公的な医療保険がないアメリカでも5.6%に膨らむ。さらに不動産課税の問題、引当金など抜け道の多さなどを考えれば、日本企業は世界の中で有利な条件で商売しているとしか言えない。その結果として社会の崩壊、労働環境の劣悪化がある。そして大企業はカネを貯め込んできた。資金が滞留すれば、社会システムは崩壊する。大企業の負担が重けば、大企業にカネが貯まることはなかったはずだ。「実効税率」の比較はインチキだということだ。