G-20が解決できない経済破局
ロンドンでGー20の会合が開かれるのに合わせ、数千人規模の抗議活動が展開された。多くの逮捕者を出し、原因は不明だが、ひとりが死亡している。会議では深刻な不況からどのようにして脱するかを議論したそうで、2010年までに5兆ドルの財政出動やIMFの資本力強化、ヘッジファンドの規制などが決まったという。 現在の経済状況は資本主義システムの本質的な矛盾が原因であり、過剰生産の調整で解決することは困難だろう。G-20の参加者にとって有効な解決策は、自分たちや仲間の利益を生み出す仕組みに反することになる。会議の後に株式相場が上昇するということは、権力層の富や富を生み出すシステムは守られたことを意味し、庶民にとって好ましいことではない。庶民の立場からすると、株価のさらなる暴落を前提とした経済政策を考える必要があるということだ。 1970年代の初頭、リチャード・ニクソン米大統領はアメリカ経済の行き詰まりを認識し、デタント(緊張緩和)へ舵をきろうとしたのだが、政治的、経済的、思想的、あるいは宗教的に冷戦を必要としていた勢力に敗北してしまった。そこに登場してきたのがシカゴ大学のミルトン・フリードマン。富の集中を肯定、「弱肉強食」のレッセフェールに近い主張を展開する経済学者で、その理論はチリの独裁者からはじまり、アメリカ、イギリス、日本などへ広がった。1980年には中国も導入し、ソ連が消滅した後はロシアの権力者も飛びついた。自分たちの利益になることを理解したからであろう。資本主義経済の行き詰まりを「暴走」で突破しようとしたように見える。 後発ではあるが、ロシアでも日本より速いペースでフリードマン的な経済政策が実行され、一握りの富豪を産む反面、庶民は地獄へ突き落とされた。日本が進んでいる道を理解するためには、ボリス・エリツィン時代のロシアで何が起こったかを調べるべきだ。当時の出来事に興味があるならば、アメリカの雑誌「フォーブス」の編集者だったポール・クレブニコフの本『クレムリンのゴッドファーザー』を読むように勧めたい。なお、「編集者だった」と過去形で表現したのは、2004年にクレブニコフがモスクワで射殺されたからである。 さて、資本主義システムは富の集中を肯定するわけだが、そうなると資金が一部に滞留することになり、社会に循環する資金は枯渇して経済活動は停滞する。滞留した資金は投機市場に流れて「バブル」が膨らむ。これが「カジノ経済」なわけだが、それによって膨らんだ「資産」は幻影にすぎない。投機市場へ資金が流入し続け、誰も売らないなら幻影は消えないだろうが、そんなことはありえない。早晩破綻することは明らかだった。 そうしたゲームの終盤になると、目前が利くプロは「カモ」を探す。損を押しつける素人を捜し始めるのである。1980年代に日本では石油や魚などを帳簿の上だけで転売する「コロガシ」が流行った。当時、本業が行き詰まっていた会社は「財テク」と称してコロガシに参加していたが、最後にカモられたのは、こうした素人企業だった。今回、アメリカは「証券化」などの手法を使い、損を世界に押しつけた形になっている。 もっとも、不景気だからといって、富が消滅するわけではない。消えるのは幻影にすぎない。富がどこに蓄積されているのか、どのようにして蓄積されたのか、そうしたことを調べる必要がある。要するに、ヘッジファンドやタックスヘブンを徹底的に調査したうえで、規制を強化しなければならない。そうした作業をしないまま、金融機関や大企業を税金で「救済」するのは「盗人に追銭」。こうした調査や規制を誰が嫌うかを見るだけでも,今回の恐慌で誰の責任が最も重いかを知ることができる。 調査や規制の強化を求める声に対し、スイスなどのタックスヘブンは早めに譲歩することでビジネスを維持しようとするだろうが、莫大な資産を隠す手助けをしていた銀行に対する庶民の怒りが収まることはないだろう。(日本は例外かもしれないが) 恐慌が表面化する切っ掛けになったのは投資銀行のリーマン・ブラザーズの倒産。その直後に保険会社のAIGも経営破綻したことが明らかになったのだが、この保険会社は第2次世界大戦のころからアメリカの情報機関(OSS)と深く結びついていたと言われている。 OSSの後身、CIAは自身の「地下銀行」を保有、そうした中にロッキード事件で登場したディーク社や東南アジアの麻薬取引に利用したナガン・ハンド銀行、アフガニスタン工作で利用されたBCCIなどが含まれている。AIGもCIAネットワークに組み込まれていた可能性が高いということだ。 そうした「闇」を封印したまま金融機関を復活させるため、アメリカの権力者が日本の郵政マネーに目をつけたとしても不思議ではない。郵政マネーを自由にするためには郵政民営化を計画通りに実施する必要がある。アメリカの権力者やその代理人たちは民営化の見直しなど許せないことだろう。勿論、日本の庶民としては絶対に民営化を許してはならないが。 (2009.4.3)