本のタイトル・作者
なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない [ 辻仁成 ]
本の目次・あらすじ
第1章 新型コロナがやって来た
第2章 未曽有の危機へ立ち向かう
第3章 体も心も疲れ果てた時だからこそ
第4章 世界が落ち着きを取り戻すまでにぼくたちが出来ること
第5章 アフターコロナの世界では
引用
「ツジー、退屈だな。でも、この退屈にはきっと意味がある。今、神は僕らに考え直す時間を与えているんだ。いろいろなことを僕らは考えないとならない」
感想
2020年読書:230冊目
おすすめ度:★★★
あの時、みんなが何をしていたのか。
どんな日常を送っていたのか。
それを今、知りたいと思っている。
全世界の人が、みな同じように災禍に見舞われるということを、自分が生きているうちに体験するとは。
そしてそれが戦争という形でなく、国籍も人種も宗教も関係なく――国の対策や状況による違いはあれど――ある意味誰しもが「平等」な条件のもとに置かれる状況。
あの時、何してた?
私は日々を記録するのが趣味なので、ちまちま書き残しているけれど、こういうことって後世への資料にもなるし、みんなもっと書いて行こうぜ。
飢饉も疫病も天変地異も、昔の日記に書いてある。
今なら膨大な数のtweetだろうか。
これは、著者のブログ「
Desing Stories」の日記の再録。
辻仁成さん、お名前は有名で知っているのだけど、本を読んだことがない。
『冷静と情熱のあいだ』の人…という認識で、最近「世界一受けたい授業」?か何かのテレビ番組に出演してらして、「パリに住んでいて、シングルファザーをしていて、料理が得意」だと知った。
息子さんが高校生で、著者の見た目がすごく若いので、40後半~50半ばくらいかと思っていたら、まさかの還暦。わお。
アジア人、若く見える…!と言われるだろうなあ。
在仏20年近い著者が、ロックダウンされたパリで過ごした日々の記録。
淡々と撮った静かなドキュメンタリーみたいな、そういう短編映画みたいな。
日記形式の小説みたい。
これ、一年前なら世界の終わりを描いたフィクションだったんだよね。
伊坂幸太郎『終末のフール』のように。
でも、これはリアルで、私たちはこの世界で生きていく。これからも。
辻さんは心配性で神経質。気分の浮き沈みも激しい。
しょっちゅう思い悩んで、たまに振り切れてスコーンと明るくなる。
なんというか「家族だとめんどくさいけど、友達なら楽しい」だろう人。
どういう物語を書くのか、小説も読みたくなった。
息子さんが言っていた、環境問題もコロナも同じだ、という言葉。
大人たちはレンガの家を作らないといけないのが分かっているのに、作らない。
むしろそれを笑い飛ばしている。
これ、胸に刺さる。
これまで、自分は「子ども」や「若手」にいた。
将来に対する責任は、前の世代の人たちのものだった。
でも、今私は「大人」で、「中堅」である。子供がいる。
責任は、私にある。
最後の、働くことが喜びだったと気付いた、と言うクリストフ。
働くことって、結局人と繋がることなんだと再認識する。
触れる、話す。人間の根源的な欲求と喜び。
じゃあ、この「~レス」「ステイホーム」「ソーシャルディスタンス」は、致命的だ。
だからみんな、辛いのだ。この日々が。我慢できないんだ。
『コロナ後の世界 いま、この地点から考える』に、人間は「HumanBeing」ではなく、「Human Co-being」なのだとあった。
「人間」という言葉もそうだな。ひとは、ひとの間にありてひととなる。
そして、同著にコロナは「ただ生きる」のではなく、「よく(正しく、美しく)生きる」ということを奪った、とあった。
この本のタイトルにもあった、「なぜ、生きているのか」ということでもある。
なぜ、生きているの。
なにが、いちばん大事?
辻さんが家に閉じこもって欝々とする息子に、「そんなことよりシーツを洗え」と言っていて、「そういえばいつシーツ洗ったっけ?」とさっそく洗濯しました。
読んだ日にちょうど「世界ふしぎ発見」で今のパリの様子をレポートしていらして、「ああ、ここが本に出てきたマルシェか!」と映像で見られて嬉しかった。
日々は続いていく。
仕事へ行く。ご飯を作る。子供の誕生日を祝う。
何を描いているのか分からない点描。ちいさなモザイク。
けれど俯瞰してみれば―――あの時、ああ、あの絵の一部だったのかと思うだろう。
ここで色が変わった。
そのことを、今、知りたいと思っている。
その渦中にあってそれを見ることが叶わないと知りながら。
新型コロナ関連本レビュー
2020.10.26「
年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済学 [ 森永 卓郎 ]」
2020.10.28「
パンデミックブルー(感染爆発不安)から心と体と暮らしを守る50の方法 [ 古賀 良彦 ]」
2020.12.14「
コロナ後の世界を生きる 私たちの提言 [ 村上 陽一郎 ]」
2020.12.18「
コロナ後の世界 いま、この地点から考える [ 筑摩書房編集部 ]」
↑
「みたよ」「いいね」の代わりに押してもらえると、喜びます。