本のタイトル・作者
カミサマはそういない [ 深緑 野分 ]
本の目次・あらすじ
伊藤が消えた
潮風吹いて、ゴンドラ揺れる
朔日晦日
見張り塔
ストーカーVS盗撮魔
饑奇譚
新しい音楽、海賊ラジオ
引用
「あの……詩って、どうやって書くんですか。どんな気持ちになれば書けるんですか?」
訊ねてみると、クヤクヤさんは少し困ったように首を傾げた。
「どうって……ただ書くんです。何ていうのかな、考えてることや湧き上がってくる感情に名前をつける、みたいなものかな。もやもやしてよく見えない存在に向かって、精いっぱい目を凝らす。そして形を抽出して言葉にする。まあ、読んでくれる人はいないけど、そういう問題じゃないんだ。言葉は誰も聞いてなくても出てきちゃうものだから」
感想
2021年297冊目
★★★
読後感が悪いというか、荒涼として救われない、ひとりぼっちで世界の果てに取り残されたような印象の短編集。
今の言葉で言うと「いやミス」(読後、イヤな気持ちになるミステリー」のこと)?
地平線まで真っ白な世界とか、自分以外のすべてのものが止まってしまった世界とか、どこまでも広がる砂漠とか、そういう心象風景。
そのなかで「新しい音楽、海賊ラジオ」だけは爽やかさがある。
パンドラの箱の底には希望が残っていた、みたいな。
これは海が侵食してしまい、電波も貴重になり公共放送しか流れなくなった世界で、インディーズの音楽を流す海賊ラジオを探す少年たちの物語。
ほとんどが海に沈んでしまった世界、に「凪の明日から」を思い出した。
深緑野分さんはまだ2作しか読んだことがないんだけど、アニメ的な光景が頭に浮かぶ。
「見張り塔」は戦争の話。
結局、何なんだろうね。
私たちは、「敵」を作り出さないと生きていけないんだろうか。
それほどまでに、人は弱いんだろうか。
目に見える敵がいたほうが、戦いやすい。
殺せば終わりだから。
最後にこの少年はこれからどうしたのだろう、と考えた。
彼らの町を滅ぼした「敵」はこの世のどこかでまだ生きているんだろうか。
けどきっと、そいつらはもう、ここまで来ない。
「ストーカーVS盗撮魔」は、ネットこえええええってなる話。
投稿内容から個人を特定することを趣味にしている男。
私もTwitterやってるしブログもやってるし、気を付けよ…と思った。
(いやもう遅いんか…。)
店の名前とか場所とかまで書いて投稿している人を見かけると「だいじょうぶ?!」って言いたくなるもんな。
カミサマはそういない。
God is Hard to Find.
救われない物語のなかで、カミサマは結局、人間の「祈り」なのだと思う。
誰も助けてくれない、誰も助けてくれなかった状況の中で。
カミサマはそういない。けれどどこにでもいる。
God is Anywhere.
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