本のタイトル・作者
わたしの美しい庭 (一般書 272) [ 凪良 ゆう ]
本の目次・あらすじ
5歳で両親を亡くした百音(もね)は、お母さんの元夫である統理(とうり)に引き取られた。
翻訳家の統理は、仕事と子育てを両立させるため、屋上に神社を持つ「縁切りマンション」の宮司と大家を継いだ。
統理の同級生だった路有(ろう)は、彼氏が女と結婚して自分を捨て自暴自棄になっていたところを統理がマンションに引き取り、今は一室を借りながら移動バーをしている。
マンションの住人・桃子さんは、母からの見合い話に辟易している。39歳になったいまでも、高校生の頃に付き合っていた坂口君を忘れられないから。
坂口君の弟・基は、うつ病で東京から戻って来た。頑張って頑張って、もっともっと。すぐに元に戻る。彼女が東京で待っている。すぐに元通りだ。その、はずなのに。
引用
「理解できないならできないでしかたない。だったら黙って通りすぎればいいんだ。なのにわざわざ声かけて、言い訳して、路有に許されることで自分たちが安心したいんだろう。けど良心の呵責はおまえらの荷物だよ。人を傷つけるなら、それくらいは自分で持て」
感想
2021年306冊目
★★★★
凪良さんの作品、4作目。これまでの中では一番好みの雰囲気だった。
『滅びの前のシャングリラ』『すみれ荘ファミリア』『流浪の月』と読んできて、この方が言いたいことは同じなんだな、と思った。
作品ごとに扱いたいテーマを変える人もいるけど、この人は同じことを、違う言葉と物語で説明したい人なんだな。
家族ではないつながり。雨の日に軒先に身を寄せ合うような、ゆるい連帯と共感。
そういう意味で、
そして、バトンは渡された [ 瀬尾まいこ ]
が好きな人はこの作品も好みじゃないかな。
タイトルの「わたしの美しい庭」は、屋上の神社のことを指す。
私の頭の中では、新海誠「天気の子」の屋上神社のイメージだった。
そこだけ天から光が差し込んで、きらきらと光り輝くような。
この話の中では、桃子さんが好き。
職場で指導リーダーをしていて、「悪口を言われるのもお給料のうち」と達観している。
「とりあえず明日がんばるための小さな愉しみを拾い集め」て。
近所のおばさんたち、と作品の中で描かれる「世間」みたいなものが、私の中にもある。
それが型にあてはめていう。「○○は××だから…」というようなことを。
そのほうが簡単だから、楽だから、安心できるから。
自分の頭で考えなくていいから。心で感じなくていいから。
雨が降るときに、因果を求めることなく、その雨をただ眺めていられたら。
唐突な雨に、止まない雨に、誰かを責めたくなる時も。
緑が濡れて光る。世界は息をひそめ慈雨を受ける。
駆けこんで来た濡れた人を労わる。濡れたままでいたい人は放っておく。
軒先に身を寄せた者同士。
やがて雨はあがる。鳥が歌い出す。
夏には蝉が声を張り上げるだろう。
洗われて真新しく生まれ変わった世界。
草木に露が玉のように輝く。
地面はぬかるんで、踏み出せば足を取られる。
皆めいめいに、己の道を行く。
空に虹が出ることもあるだろう。
私たちはただ、身を寄せた者同士。
それでも「あ、」とお互い声をあげ、目を合わせて、笑い合えたら嬉しい。
私は世界をそんな場所だと思いたい。
わたしの、美しい庭。
これまでの関連レビュー
・
滅びの前のシャングリラ [ 凪良ゆう ]
・
すみれ荘ファミリア [ 凪良ゆう ]
・
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