本のタイトル・作者
自転しながら公転する [ 山本 文緒 ]
本の目次・あらすじ
母が重い更年期障害になり、看病のために東京から茨城の実家に戻った都。
森ガール系ファッションブランドで店長まで勤めたが、今はコンサバ系のアウトレットモールで契約社員として働いている。
モールで出会った回転寿司屋の貫一と付き合い始めるが、中卒で定職についているわけでもない彼との未来は見えない。
私、ここでこのまま、こうしていていいんだろうか?
引用
「別にそんなに幸せになろうとしなくてはいいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」
感想
2022年082冊目
★★★★
山本文緒さん、2作目。
やっぱり私、けっこうこの人の書くものが好みだと思う。
地の文章の積み上げが丁寧で、小説を書くお手本にもなりそうだと思った。
奇をてらうわけでもなく、淡々と彩度を落としたドキュメンタリーを見ているよう。
分厚い(478p)んだけど、まあほぼ主人公がぐるぐるしている話。
タイトルの「自転しながら公転する」はわりとはじめのほうに出てきて、それは地球が軌道を変えながら進んでいて、2度と同じところには戻らず進んでいるのだ、という比喩。
主人公は、悩みの渦の中にいる。
どこへもいけないんじゃないかという不安。
幸せになりたい。
どうすれば、幸せになれるんだろう。
ひとの幸せが妬ましくて、羨ましくて。
冒頭とエピローグで見事にミスリードされた。
いつになったらベトナム人のニャン君とくっつくのかと、ニャン君が出てくるたびに「ほら都、いまだ!」と読み進めていたんですが、そうじゃなかった。
私は貫一よりニャン君派…。
でもそれって、結局「見た目」「金」なんだろうな。私、即物的。
貫一の嘘は「ないわ」となるし、私はもう2度と許せない。
冒頭のベトナムへ向かう荷物や、貫一の部屋の何にもなさ具合の描写が好き。
ミニマリストとして暮らしている人が本に出てくると「何を持っているのか」と目を凝らしたくなる。
都はマキシマリストなので、服の量がすごいですね。
服についての描写は、そういう目(自己表現)で見たことがないので「ふうん」と思った。
私はそよか派。実用目的としての服。裸でなければいいじゃない。
ぐるぐる、目を回しながら。
日々雑事をジャグリングしながら。
どんどん、違う場所へ向かっていく。
意図しても意図しなくても、望んでも望まなくても。
しあわせになりたい。
でもそれは、手に取ってわかるような、見せびらかす宝石のような「しあわせ」?
そうでないなら、価値はないの?
引用部の、エピローグのこの言葉が良い。
染みひとつ、瑕ひとつない幸せを目指せば、ゆるせないもの。
それを許容して、抱いて、生きていく。
時をかけた琥珀だ。
掌中の珠を磨き上げて、美しさを増していく。
中にさまざまなものを抱え込んで。
これまでの関連レビュー
・
ばにらさま [ 山本文緒 ]
↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓